2019年3月13日、KDDI まとめてオフィスによる教育ICTセミナー「『未来の教室』における教育ICT環境とは 変革する学び方と教え方」が都内で開催された。会場には数多くの教育関係者が来場。経済産業省、Z会、練成会グループが語る未来の教室とEdTechについての講演に耳を傾けた。
経産省が目指す「ワクワク」から学びを広げる未来の教室
「『未来の教室』とEdTech事業 ─これまでの取組と今後の展望─」と題した講演を行ったのは、経済産業省の工藤さやか氏。同氏は経済産業省のミッションを「国富を増大すること」とし、教育政策における経済産業省の立場を説明。「日本の産業界は、イノベーションが起こりにくい状況にあると言われます。一斉授業で教えられた知識をインプットして、テストでアウトプットする形の教育を変えなければ、この現状は変わらないでしょう」と語る。このような教育によって、与えられた課題は解決できても、課題が与えられていないと解決できない人材が増えているのではないか、という問題意識だという。
この状況を変えるべく、立ち上げられたのが経済産業省の教育産業室だ。日本はいま、課題先進国だが、課題解決先進国ではないという。課題に対して対策は行っているものの、その課題を解決できているかといえば、そうではない。工藤氏は「課題を見付けゴールを設定し、ゴールに向かうためのプロセスを決めて周りを巻き込める、そんな21世紀型スキルを持った人材を育てていかなくてはなりません」と話す。
世界の教育改革潮流として「プロジェクト志向(STEM/STEAM学習)」と教科学習の個別最適化(一人ひとりの関心・理解度に応じた学習)」の2つを挙げ、そのベースとしてEdTechが活用されていることを語った。
「経済産業省では、先に述べたような課題解決を行う人材のことを“チェンジメイカー”と呼んでいます。そのような人材を育成する『未来の教室』(=新しい学びの社会システム)の姿とはどのようなものでしょうか。その姿を描くために研究会を立ち上げ、学生も含む延べ200名以上に集まっていただいて、5回にわたるワークショップを行いました」
その「未来の教室」実証事業が目指す姿とは、端的にいえば従来型の「教科学習」に費やす時間をテクノロジーの力によって効率化(内容は減らさずに時間を短縮)し、それによって生み出された時間を分野横断型の「探究学習」にあてること、そして子供のころから「学ぶ理由」を理解しながら学び、自分の「ワクワク」から学びを広げることだ。そのために、民間教育と学校に対する、産業界のコミットが求められているという。
学校のICT化が進むにつれ、これからの教室運用は教員だけでは成り立たず、適切な外部人材の投入が必須となるだろう。ただでさえ膨大な仕事を抱える教員に新たな仕事を増やすのではなく、たとえばICTインフラを活かすためにIT技術者が入ってもよいし、STEAM教育ならばポスドクが関わってもよい。その方が、教員の側でも本来子供たちに与えたかった学びが追求できるのではないかという。最後に工藤氏は「EdTechは誰のものか?」という問いについて語った。
「EdTechについて、あくまで教師を支援するツールだという意見を伺うこともあります。しかし経済産業省は、学習者がすべての中心にいて、一人ひとりのために学びをデザインすることができるシステムを作り上げたい。EdTechはそのためのツールだととらえています。そのためには教員の役割も、場面に応じて変わり得る。人材も、プログラムも入ってくる必要があるでしょう。そういった未来を実現するために、今、今年度実証事業の振り返りを実施していますが、私たちの取り組みはまだまだ始まったばかりです。皆さまが課題と思っていることを、一緒になって解決していくことが、教育改革への近道なのではないかなと考えます」
Z会が行った日大三島の「未来の教室」実証事業
続いてZ会の野本竜哉氏が「Z会が『日本大学三島高等学校・中学校』と『未来の教室』実証事業を行う3つの理由」と題した講演を行った。Z会グループは、通信教育事業を中心に、「栄光ゼミナール」や「増田塾」などの教室事業、出版事業、文教事業、アセスメント事業など、教育に関わるさまざまな事業を展開している。経済産業省の「未来の教室」実証事業もその中の1つで、野本氏は実証事業から見えた成果と課題・展望について語った。
学校と受験は大きく変化しつつある。なぜなら「高大接続改革」による教育改定が、今まさに進行しているからだ。「高大接続改革」によって大学入試には記述問題が増え、思考性や主体性、多様性が求められるようになる。より一層「知識・技能」以外の能力が問われることになるわけだ。
しかしこの変化によって、所得による格差はより深刻になっていくという。格差には大きく分けて「知識の格差」「経験の格差」「意欲の格差」がある。知識はお金がなくても努力で伸ばしやすいが、経験や意欲は親の収入に左右されやすい。そして将来の所得にもっとも影響を与えるのも経験や意欲の差だという。「この生まれ持った経済的格差を、テクノロジーで断ち切ることができれば、教育も進化できるのではないでしょうか」と野本氏は述べる。
とはいえ、実際の教育現場でEdTechの効果を試せる場所はまだまだそう多くない。そこで行われたのが、Z会と日本大学三島高等学校・中学校(以下、日大三島)が連携した「学びのサイクル」実証事業だ。
日大三島が実証校に選ばれた理由は3つある。1つ目は、全生徒が自分専用のLTE iPadを持っており、実践に必要な環境が整えられていたこと。2つ目は、同校が本端末でPBL(課題解決型学習)に取り組んでおり、土壌が作られていたこと。3つ目は、教職員に変革マインドが根付いており、学校全体が危機意識を持って取り組んでいること。そしてこのような学校がZ会の本社近くにあり、検証が容易だったことが決め手となった。
Z会が日大三島の中学2年生を対象に実際にチャレンジしたことは、最初に生徒の「ワクワク」を作り出し、そこから独自の課題を立てさせ、探求やPBLでそれを深め、学習に誘導するというもの。具体的には、家庭科を通じて「食」に関する関心を「探求課題」として1人1人に設定し、習っていないことはPBLでそれを深めるよう知のナビゲーターが導き、オンライン協働学習などを通じて学ぶという流れで、これを「学びのサイクル」とした。家庭科が選ばれたのは、理科や社会という別教科の学習に繋がりやすいためだという。
実証事業を行う前と後を「問題解決力」と「自己実現力」を可視化する2種類のアセスメントで測定した結果は、この「学びのサイクル」を2回以上回せた生徒ほど、確かな学力の向上が見えたという。とくに記述力においては顕著な効果が見られたそうだ。
実証事業から見えた課題は、中学2年生にとって課題設定はやはり難しいということ、探求的な学び方の基本を習得するためには時間がかかり、指導者には「待つ」胆力が求められるということ、そして探求から教科学習に誘導するためには強化を横断した「知」の集約が必要になるということだ。
これらを実現するためのカギは、やはり「EdTech」になると野本氏は述べる。そのための環境として「ちゃんと使えるICT環境」「カリキュラムマネジメント」「探究学習」に加え、iPadを自宅で自由に使えるという「学校の自由度」が必要になると説明した。
練成会グループの教育ICTへの取り組み
北海道を中心に、東北やベトナムなどに学習塾を展開し、239教室を運営している練成会グループ。1977年に北海道の帯広に創立して43年、「心と創造」を理念に、人を大切にしながら教育の新しい価値を創造し続けてきた。その塾長を務める今村明広氏は「教育に携わるものとして、一番の敵は『マンネリ』だと思います。毎年同じことを繰り返していては、私たちの進歩もありません。当グループでは一昨年よりタブレットを導入しました」と、教育ICTへの取り組みについて話し始める。
練成会グループは2017年7月から中学部の塾生にLTE iPadを貸与。2019年3月現在、その数は約1万台にまで増加した。主なICT教材アプリは、数学が「Qubena」、社会・理科が「FLENS」、英語が「MyFT」で、国語やプリント類には自社開発の文書管理アプリである「R-Library」を使用しているという。
今村氏は「今回のタブレット導入は、子供たちの“ワクワク感”や“やる気”につなげたいと同時に、自分で勉強する力をしっかりと付けてほしいという思いで行いました」と説明。アプリを使った学習の成果を教室に掲示したり、テスト問題とリンクさせて各アプリの範囲対照表を作成したり、教室運営用資料として教室ごとや担当者ごとに集計して状況を分析したりしている事例を紹介した。
英語学習アプリ「MyET」で行われる「MyET Speaking Contest」では団体賞の上位に練成会グループの名前が挙がり、また個人賞の得点ランキングでは1位と3位に同グループの塾生が入るなど、確かな成果を上げている。今村氏は今後の教育ICTの課題を次のようにまとめた。
「ICTには“今までできなかったことができるようになっている”という有用性を感じています。しかし、全教室・全職員が十分に使いこなせているかというと、まだまだです。我々の学習塾としての質が問われているなと痛感しました。EdTechはどんどん進化していきますので、人間が負けてはいけないなという思いがあります」
教育ICTをまとめてサポートするKDDI まとめてオフィス
最後に、KDDI まとめてオフィス(KMO)の五十嵐氏が、文教向けサポートについて説明を行った。同社は2011年に設立された、法人に対する課題解決をサポートする会社だ。7,000種類の商材を幅広く提案し、オフィスに必要なものをすべて提供することをモットーとしている。五十嵐氏は、学校や学習塾の悩みと課題、その解決方法を大きく5つに分けて解説する。
1つ目は、労働時間の長さが世界でもトップクラスになっている日本の小中学校教師の働き方を改革し、残業時間を減らすこと。ICTを活用することで、授業や部活動を除く、朝晩の校務に関する残業時間を減らすことができるという。
2つ目は、配備したタブレットの管理を安全に効率よく行うこと。運用ルールの策定や端末の設定などを代行し、紛失や故障のサポートを行うほか、他校の導入事例などを紹介し、それぞれの学校に合った導入を支援するそうだ。
3つ目は、タブレットを使った双方向授業の実現。政府と文科省が推進する2020年の教育改革への対応を目指し、各ベンダーの教育・教材アプリを通じて、生徒の育成をサポートする。
4つ目は、生徒や保護者、教職員同士のコミュニケーションを円滑にすること。「LINE WORKS」などを利用した即時コミュニケーションを実現し、業務の効率化や生徒・保護者の信頼性を高めるという。
5つ目は、タブレット導入時の保護者説明。タブレット導入費用の負担のお願いをフォローし、生徒向けには安全で正しい使用方法を教える「使い方教室」を開催してくれる。
五十嵐氏は「学校様からよくある質問として『Wi-Fiモデルとセルラーモデル、どちらがおすすめですか?』と聞かれますが、今回の皆さんのお話にもあったとおり、やはりセルラーモデルを推奨します。通信費は月額でかかってしまうものの、場所を選ばず、通信を途切れることなく使えるセルラーモデルは、高い学習効果をもたらすと考えております」とLTEに対応したタブレットを紹介。
最後に「皆さま、教育ICTに関してお困りごとがございましたら、我々にご相談いただければ解決の手伝いをさせていただきます。ぜひお声がけください」とアピールした。
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