様々なサービスがオンラインで提供されている今、顧客との接点としてWebサイトが果たす役割は大きい。その重要性はますます高まっており、規模にかかわらず多くの企業が重点課題として、Webサイトや会員ポータルサイトの役割・機能の見直しに取り組んでいる。ポータルサイトを設計する際には、ユーザビリティはもちろん、運用性や拡張性、さらに顧客管理やデジタルマーケティングなどの仕掛けを含めて検討していく必要がある。そして、Life Time Value(顧客生涯価値)をいかに高めていくか、が一つの目標だろう。

愛知県でPHOTO HOUSE Memoris(フォトハウス メモリス)を展開する株式会社Memorisでは、既存のポータルサイトをスタジオ予約から撮影、商品の受取、さらには関連商品の追加購入に至るまでカスタマー・エクスペリエンスを一元的に管理できる会員ポータルサイトに刷新。「Salesforce」、「AWS」、「Heroku」のマルチクラウド構成にすることで、顧客管理や社内の作業工程管理、さらには業務効率化においても成果を上げている。

ビジネス、システムを「進化させ続ける」ためにSalesforceを導入

Memoris 代表取締役 社長 瀬古 恵介氏

Memoris 代表取締役 社長
瀬古 恵介氏

同社の代表取締役 社長である瀬古 恵介氏は、明治初期から続く老舗フォトスタジオ、「瀬古写真」を営む家に生まれ、自身も海外で商業写真を学んだ人物だ。留学中に学んだ躍動感ある海外の撮影技法と、日本人が本来持っている素晴らしい感性や美的感覚を採り入れた、新たなコンセプトのフォトスタジオをつくることを目的として、2012年に子供写真専門のスタジオ、メモリスを起ち上げた。

「七五三や誕生日、入学式、1/2成人式(10歳)などを記念した写真を撮影するのが基本ですが、『世界の子ども写真を進化させ続ける』という企業理念のもと、衣装や空間、カメラマン、小物類など、世界レベルを考えて常に遜色のないものを用意しています」と瀬古氏は他社との差別化を力説する。

メモリスで撮影された写真のクオリティの高さは、首都圏からも年間100組を超える撮影希望者が訪れるほどで、現在は5つのスタジオを構えるまでに成長している。この「世界の子ども写真を進化させ続ける」という理念は、現在の業務システムにも適用されている。

Memoris マーケティング室 室長 川島 大輔氏

Memoris マーケティング室 室長
川島 大輔氏

同社マーケティング室 室長の川島 大輔氏は、「この大きな企業理念を実現するために、システム面も進化させ続ける必要があると思い、まず2016年にSalesforceを導入しました。Salesforceのメリットは、次々に新機能が追加されていくことにあるといえます。最近だとAI機能などがありますが、そうした新機能を切り口として業務を見直すことで、新たなビジネス開発、つまり進化にもつながると考えています」と説明する。

Salesforceを導入して最初に着手したのは、情報管理面での業務改善だった。スタジオ予約から来店、顧客に納品するメディア(撮影した画像・動画をCD-ROM・DVDに収めたもの)の制作状況まで、顧客に紐付けた一連の情報をSalesforceで集中管理できるようにした。以前はメールや社内の共有スプレッドシートで管理していたため、情報伝達の手間やミスを大幅に削減できたという。

顧客・従業員の負荷軽減とコスト削減、収益力強化を目指したWebサイト構築へ

次のステップとして、同社はSalesforceと連携した会員ポータルサイトの構築に取りかかる。実現したかったのは、顧客・従業員の負荷軽減とコスト削減だ。旧来の予約サイトでは、顧客に都度個人情報などの必要情報を入力してもらい、メールでその情報を受け取るという仕組みを取っていた。しかし、予約の大多数を占めるリピーターには、予約の度に個人情報入力の手間をかけさせてしまう。また、従業員は受け付けたメールの本文を既存の予約管理システムに入力するといった労力がかかっていた。Salesforceと連携させることで、二回目以降の予約に個人情報の入力を省くことができるし、従業員もSalesforceで情報を確認すれば良い。会員のログインをより簡単にするために、ソーシャルログインにも対応させることにした。

構築開始にあたって同社は、Salesforce、AWS、Herokuを利用した会員ポータルサイトの構想をSalesforce社に伝え、開発企業の紹介を受けた。5社の候補が挙がったが、その中から選ばれたのが株式会社テラスカイだった。

「テラスカイを選んだのは、高い技術力はもちろん、紹介を受けた他社に比べ、開発標準がしっかりしていたからです。進捗管理やリスク管理など、プロジェクトマネジメントの体制が整っていて、『ここなら安心して任せられる』と思いました。実際、こちらからアクションを起こさなくても『ここはどうしますか』など、折々に確認を取ってくれて、開発を着実に進めていくことができました」(川島氏)

開発の分担はWeb画面構築などのデザインをMemorisが、インフラ整備やシステム連携などの“裏側”の部分をテラスカイが担当した。開発は2017年8月に始まり、翌年1月に完成した。

  • Memorisの会員ポータルサイト構成

    Memorisの会員ポータルサイト構成

Herokuによるポータルサイト開発

川島氏は、画像・動画データ保管のランニングコストを抑えられ、Salesforceとの連携が容易にできるインフラとしてAWSを採用、またWebアプリ開発およびプラットフォームには、それらと親和性の高いHerokuの採用を決めていた。

Herokuを採用したことによるメリットは大きい。通常はSalesforceのみで会員ポータルを制作しようとすれば、会員数分のライセンス料金が必要となるところだが、Herokuを挟むことでライセンスは一つにまとめられ、大幅なコスト削減を実現している。

またHeroku ConnectでSalesforceと連携させて、会員が起こしたアクションを即座にSalesforceの会員情報に記録し、画像や商品の販売管理ができるようにしている。Heroku Connectの利用によりSalesforceのAPIコール数制限を気にする必要もない。

開発時には、HerokuのAdd-on機能の活用や、サーバー構築が容易であったことから、通常のクラウド型ポータルサイト構築に比べ1割程度工数を削減し、4か月の納品を実現できたという。

会員ポータルサイトで得られたメリットと今後の課題

構築した会員ポータルサイトでは、撮影画像・動画を、顧客がWebサイトからダウンロード購入できる機能を付けた。撮影した画像を「AWS S3」にアップロードし、顧客にデータ提供する仕組みだ。これにより従来行っていたようなメディアへの記録作業や、それを顧客宛に郵送する作業および郵送コストの削減が実現できたという。

「以前は月に300~400件のメディア記録・郵送がありましたが、今ではダウンロード購入されるお客様がほぼ半数にまで増えています。その分、従業員の手間も、メディアの仕入れ代や郵送費も削減できるようになりました」(川島氏)

撮影データの受け渡しの他に、写真クオリティ向上に寄与するべく、事前準備のための撮影用のアクセサリーやフォトフレームなどを販売するショップ機能も搭載した。顧客との接点拡大やエンゲージメント強化を図ること―Life Time Valueの創造―が狙いの一つだ。

運用開始から約1年。社内業務の効率化やコスト削減、顧客とのコミュニケーションの円滑化に成果を上げている会員ポータルサイトだが、まだまだ改善の余地はあると瀬古氏はいう。

「会員ポータルサイトの使い方が難しいと思われているお客様もいらっしゃるようです。また当社の従業員も画像のアップロードに手間取ったり、機能追加時にボタンの位置が変わったことに混乱してしまったりということが起きています。今後はもっとユーザビリティを上げて、直感的に使い方が分かるようなものを目指していきたいと考えています。同時に、社員教育にも力を入れていきます」

同社はこの会員ポータルサイトの利便性・有用性がさらに高まれば、同業他社にもサービスとして提供し、業界全体の活性化を図っていくことも視野に入れているという。常に「進化を続ける」Memoris、かけがえのない記念写真の1枚は、企業理念とそのシステムに支えられている。

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