誰もがスマートフォンを持つ時代の到来に合わせてTwitter、Facebook、LINE、InstagramなどのSNSが大きな盛り上がりを見せている昨今、企業もまたSNSのアカウントを運用してコンテンツを発信し、消費者とのコミュニケーションを模索することが当たり前となっている。消費者個人のアカウントに直接情報を発信でき、その後の拡散も期待できることから、どのように活用すれば効果的なマーケティングができるかは多くのマーケターにとって大きなテーマといえる。

では、こうしたソーシャルメディアマーケティングの盛り上がりは、従来消費者個人に情報発信する手段として定着してきたメールマーケティングを淘汰したのかというと、答えは「ノー」だ。むしろ、昨今のマーケティングで重要となっている「One to One」「パーソナライズ」「マーケティングオートメーション」といった戦略の中では、メールを活用したコミュニケーションは非常に重要な役割を果たしている。

90年代の終わり頃から世の中に登場し、20年近く経った今でも企業と消費者をつなぐ重要なコミュニケーション手段となっているメールマーケティングは、なぜマーケティング多様化の中で淘汰されなかったのか。そして、マーケターの業務が多様化し多忙を極める中、どうすれば効果と効率を両立したメールマーケティングの運用ができるようになるのか。今の時代に合わせたメールマーケティングの意義と、進化を続ける配信ツールを選ぶ際のポイントを整理してみよう。

  • メールマーケティングの意義と、配信ツールを選びのポイントとは?

メールとSNSでは、メッセージに対する消費者の態度が異なる

まずは、消費者個人に対してアプローチできる手段としては同じ性質を持つメールとSNSは何が違うのかを整理してみよう。

そもそも、消費者にとってメールとSNSはその使用目的がまったく異なる。LINEやFacebookは友人・知人と会話したり、近況を共有したりする手段として世の中に浸透し、多くのユーザーにとって"会話の場"として定着している。いまや、メールを使うよりもSNSを使うことのほうが多いという印象も強いが、これもあくまで個人間のコミュニケーションとして見た場合のことだ。企業のSNSアカウントと繋がるユーザーも少なくないが、ユーザーの関心はあくまで友人・知人との会話であり、相当な関心がない限り企業の発信する情報を注視する人は多くはない。たとえば、"LINEスタンプが欲しくてフォローしたがそもそもその企業に関心があるわけではないので、すぐにブロックしてしまった"というケースも多い。

一方で、このようにSNSが会話の手段として定着する中でメールを使わなくなったのかというと決してそうではない。仕事のコミュニケーションなどでメールを使わない人はおらず、また企業の製品やサービスを利用するためにメールアドレスを必要とする場合も多い。そもそも、パソコンやスマートフォンを使用するために必要なアカウントはユーザー個人のメールアドレスであり、メールは"ネットユーザー全員がひとつは持っているもの"だといえる。使用している製品やサービスからの重要なお知らせは必ずメールで届き、ユーザーにとって"メールチェック"という習慣は依然として健在だ。

くわえて、企業にとってメールは、SNSと比較して表現できる幅や掲載できる情報量が圧倒的に異なる。たとえばTwitterは、ユーザーにとっては企業や芸能人のアカウントから発信される情報を流し読みするRSSリーダーのような用途で使われることが多いが、企業にとっては文字数制限などが厳しく掲載できる情報量には限りがある。またInstagramも"写真や動画を見せるSNS"という大前提があるため、テキストの情報を盛り込んでも読んではもらえない。対してメールは、HTMLでリッチな表現が可能であるほか、テキストの情報も多く盛り込めるため、企業が発信したいコンテンツを自由に設計できる。

このように、個人にアプローチできるという意味では似ているメールとSNSは、ユーザーにとっての意義も異なれば、企業にとってできることも異なる。もちろん、カジュアルなコミュニケーションを通じてユーザーのエンゲージメントを高めたい場合にはSNSを通じた発信は有効だが、コンテンツを自由に設計してユーザーと深いコミュニケーションをしたい場合にはメールが有効だ。用途に応じて手段を使い分けてOne to Oneのコミュニケーションを推進するべきだといえるだろう。

メールマーケティングの強みは、マーケティングの基本を実践できること

パーソナライズされたマーケティングを実践するうえで、メールはコンテンツをデリバリーするための重要な手段だ。実際に、メール配信システム「Cuenote FC」を開発・提供するユミルリンクが行ったECサイト売上上位50社を対象とした調査では、ひとつのサイトあたりの平均メールマガジン配信通数は1日0.9通となっており、前年比では105%の増加に。ほぼ1日に1度はメールマガジンを配信している計算で、企業にとってメールはなくてはならないコミュニケーション手段となっている。

そもそも、サービスの会員登録、製品のユーザー登録の際に入手しているメールアドレスは、企業にとってはユーザー個人に対して確実にアプローチできる重要な資産だ。くわえて、メールアドレスを登録する際には様々な属性情報やアンケートへの回答を取得しており、こうした付加情報を基にユーザーのセグメンテーションを行い、特定のユーザーにターゲティングしてコミュニケーションを行うことも容易だ。またマーケティングが進んでいる企業では、こうした属性情報にユーザーの購買履歴、サイトでの行動履歴などを加えて深いセグメンテーションとターゲティングを実践している。セグメンテーションとターゲティングはマーケティングの基本であり、メールマーケティングはそれを高いレベルで実践できるのだ。

こうしたセグメンテーションとターゲティングで的確に消費者にアプローチできるメールマーケティングは、ビジネスにおいても大きな効果を生み出している。株式会社ジャストシステムがが行った調査「Eコマース&アプリコマース月次定点調査(2018年5月度)」では、「ユーザーがECサイトから新商品やキャンペーン情報などの通知を受け取る方法としてもっとも多くの回答を得たのは、メールマガジンであると回答した消費者は66.7%にのぼり、最も商品購入に繋がっていると思う通知方法を一つ選択してもらったところ、メールマガジン46.6%、あてはまるものはない21.1%、SNS11.0%」と続いた。年代による差異はあれ、メールマガジンはユーザーの商品行動に大きく寄与していることを示唆している。

また、米国のマーケティングベンチャーEXTOLEがデジタルマーケター300名を対象に行った調査「Workhorses and dark horses: digital tactics for customer acquisition」によると、顧客との関係維持にとって最も効果的なマーケティング手法としてソーシャルメディアマーケティングを抑えてメールマーケティングが1位に挙がっている。

  • 顧客維持に最も効果的と思われるデジタルマーケティング手法

そして企業にとって、自社の資産である顧客のメールアドレスを活用してコミュニケーションを深め、購買行動を生み出すことはコストパフォーマンスの観点からも有効なマーケティング手段だといえる。たとえば、すべての顧客にアナログな紙のダイレクトメールを郵送してコミュニケーションを取った場合には、会員属性からターゲティングができたとしても、多額の通信コストと印刷コストが掛かり、発送したあとは開封されたかどうかを確認することもできない。

対して、メールマーケティングでは配信システムのコスト以外には自社の資産を活用することができ、HTMLメールであれば開封確認やアクションのログ蓄積ができるためPDCAを運用することも可能だ。確実な開封が期待できるロイヤリティの高い顧客へのスペシャルオファーは紙のダイレクトメールで行い、広く顧客のアクションを促したい場合にはメールマーケティングを活用するという場合分けを行う企業も多く、施策に対する効果を最大化できる手段だといえるだろう。