異なる設計文化を持った、電気 (エレキ)設計部門と機械 (メカ)設計部門。この2部門による協調、いわゆる「エレメカ連携」の達成は難しい課題だ。2018年6月に発表されたシーメンスの「Solid Edge 2019」では、定評のある機械系CADに、電気系CAD「Solid Edge Electrical」を追加。独自の手法でこのエレメカ協調設計に挑戦している。本稿では「Solid Edge Electrical」の特徴と「エレメカ連携」の様子をご紹介したい。
電気設計を必要とする機器の増加
「Solid Edge 2019」で追加された「Solid Edge Electrical」は、本格的な電気設計システム。その成り立ちは、メンター・グラフィックスの実績ある電気系CADにある。メンター・グラフィックスがシーメンスの傘下企業となったことで、今回の移植と統合が実現された。ユーザーインターフェースも統一され、違和感なく2つのソフトを行き来できる。
電気設計を必要とする機器はどんどん増えている。現在では自動車も全体が電子制御されており、ニーズは高まる一方といえるだろう。2D CADが利用されることも多い電気設計だが、Solid Edge 2019ではどのように連携を実現しているのだろうか。
電気設計CAD「Solid Edge Electrical」
「Solid Edge Electrical」には大きく分けて2つのモジュールがある。1つ目は、単一、もしくは複数の電線から作られたワイヤーを個別に結線するワイヤリングデザイン。配線設計を可能とし、電圧や抵抗などの論理シミュレーションを含む本格的な電気設計に対応する。
基本的な画面は電気設計担当者が使い慣れた2Dで表示される。ライブラリの豊富さが1つのウリとなっており、各インダストリに特化した多数の回路、部品のシンボルを標準テンプレ—トとして用意。さらにライブラリから呼び出したテンプレートは、ある程度の範囲で自動配置にも対応している。
2つ目は、複数のワイヤーを束ねてコネクタを取り付けたハーネスを製作可能にするハーネスデザイン。ネイルボード(フォームボード)の作成が可能で、効率の良い束ね方や長さのシミュレーションが可能。論理設計から加工にまで対応する。
ハーネスの全体図には部品やワイヤーに設定された属性情報を表示可能。またネイルボードの1:1の作図、出図に対応しており、その際もネイルボード上に属性情報を表示させることができる。
エレメカ連携を実現するクロスハイライト機能
電気設計(エレクトロニクス)と機械設計(メカトロニクス)による「エレメカ連携」の実現が統合の狙いの1つといえる。だがこれは、どちらの設計を先行させるか、優先させるかでわだかまりが生まれやすかった部分だ。
たとえば、電源ラインと信号ラインを隣どうしのルートに通してノイズが乗ってしまったり、熱源となるパーツの真上しかハーネスの通り道がなかったりで、試作後の問題対応に追われたことのある人も少なくないのではないだろうか。
このようなエレメカ連携に対してシーメンスが行ったアプローチの一つが、クロスハイライト機能だ。例えばメカ側である特定のパーツに触れると該当するエレキ側のラインが光って情報が表示されたり、逆にエレキ側の回路図に触れるとメカ側のパーツが光ったりする。
このように、メカCADのSolid EdgeとエレキCADのSolid Edge Electricalを画面上に並べて機能チェックできるが、メカ設計者とエレキ設計者が肩を寄せ合って一つのディスプレイを見ている必要はない。それぞれ別の設計エリアにいても、ネットワークでつながっていれば、画面を共有して協調作業ができる。
工数を削減できるエレメカ協調設計例
Solid Edge Electricalとクロスハイライト機能を合わせると、具体的にどのようなエレメカ連携が可能になるのだろうか。ワイヤーの長さを設定する場合を例として説明しよう。
最初にエレキ側で回路を作ったとしよう。エレキの回路図は論理的な設計なので、実際のワイヤ長が表されていない。このデータをもとにメカ設計者は機械の中で実際にどのようにワイヤーハーネスを這い回すのかを検討する。
エレキCADで作成したコネクタ間での配線やコネクタ端子の情報や、どのワイヤどうしを束ねておくべきかというエレキ設計者が設定した情報を3D-CADに転送すれば、自動的に3Dの配線経路(ルート)が生成される。そのままでは部品を貫通してしまうようなルートをとることもあるので、メカ設計者は、それぞれのルートをドラッグして適切な位置を通るように調整する。ここでワイヤの長さが初めて決定され、その情報はリアルタイムでエレキ側に反映される。
また、エレキ側の回路図上に、同じ型番の部品が複数使いされるような状況にも対応できる。このような場合、3D-CAD上には同じ形の部品が複数アセンブリされ、どの部品が電気回路上のどれに対応するのかをメカ設計者が指定しなくてはならない。このような場合、Solid Edgeは複数個使いである旨の警告を出し、間違いが起きないように作業を促す。
そもそもSolid Edge 2019を使わずに設計した場合、ここまで手間のかかる細かな設定はせずに進行することがほとんどで、メカ側では「この辺りを通せばよいだろう…」と大まかに決めておき、試作時に調整するというのがほとんどだろう。Solid Edge 2019は、このような細かなエレメカ協調設計を、同一システム上でシームレスに行うことが可能。実作業での工数も大幅に減らすことができるだろう。
45日間Solid Edgeが使える試用版も
機械設計用3D CADの枠を超え、工業製品に関するさまざまな設計を一気通貫で行える総合的ソリューションとして進化しているSolid Edge。エレキ設計者とメカ設計者の齟齬を減らし、無駄な工数を削減したい企業は、ぜひ一度、Solid Edge 2019のシームレスな設計環境を検討してほしい。
なお、同社のWebページには「Solid Edge」の使い勝手を試せるトライアル版が用意されており、45日のあいだ全機能を試用可能。残念ながら「Solid Edge Electrical」に該当する電気設計部分は試せないが、ユーザーインターフェースや機械設計部分でエレメカ連携の一端を感じることができるだろう。興味をお持ちの方には、ぜひ一度試用をおススメしたい。
[PR]提供:シーメンス