いま、さまざまな分野において注目を集めているIoT。これから新たにIoT製品・サービスの展開を考えている企業も多いことだろう。しかし、ローンチの前に改めて確認してもらいたいのが、「そのIoT製品・サービスは法律の観点で本当に問題がないのか」という点だ。そこで本記事では、IT企業からの相談件数が1000件以上にものぼるというグローウィル国際法律事務所 弁護士の中野 秀俊氏に、IoTビジネスをスタートさせる上で留意すべき法律面の注意点などを伺った。

企業法務とは異なるIoTならではの法律対応

グローウィル国際法律事務所は、なぜIT企業の法律問題に精通しているのか。その答えは、同事務所の代表弁護士を務める中野 秀俊氏の経歴にある。

グローウィル国際法律事務所 代表弁護士 中野 秀俊氏

グローウィル国際法律事務所
代表弁護士 中野 秀俊氏

「実は私自身が、もともとIT企業の経営者でした。大学時代にシステム開発とインターネット輸入事業で起業し、売上も順調に伸びていましたが、残念ながら取引先との契約上のトラブルが原因で、事業を閉じることになってしまったんです。そこで『もっと法律に詳しかったら……』という想いと同時に、『私の他にも法律面で困っているIT企業がいるのでは?』という考えが生まれ、そこから弁護士を目指して司法試験に合格。現在のグローウィル国際法律事務所を立ち上げました」(中野氏)

確かに大手・中堅企業では、自社内に法務部を設置しているところも多い。しかし、その大半は契約書の審査やコンプライアンスなど、一般的な企業法務を専門としたもの。いざIoT製品・サービスに関する法律となると、専門の領域が異なることに加えて、理系の知識も必要になってくる。その点、グローウィル国際法律事務所では文系と理系の両方をカバーすることで、IoT製品・サービスを含むIT企業の法律問題を解決しているのだ。

意外に多いIoT製品に関連する法律

IoTに関連する法律問題の一例として、中野氏は「IoTデバイスは、その多くが無線経由でインターネット接続を行っているため『電波法』に抵触していないか、また家電に分類される場合は『電気用品安全法』に違反していないかなど、一般的な企業法務と異なる観点で念入りに確認する必要があります」と解説する。

電波法

電波の公平かつ能率的な利用を確保し、公共の福祉を増進することを目的としたもの。“電波”というと、テレビやラジオなどのメディア、携帯電話や航空/船舶の交信用、アマチュア無線などが思い浮かぶが、無線LANやBluetoothを利用したIoT製品も電波法の対象だ。エンドユーザーが免許なしで利用できるようにするには、その製品が電波法の基準に適合していることを示す「技術基準適合証明」の取得が必要になる。この技術基準適合証明を取得した製品には「技適マーク」が表示されているので、目にしたことがある方も多いのではないだろうか。

電気用品安全法

いわゆる「家電製品」を対象として危険および障害の発生を防止するためのもの。技術基準に適合した製品には「PSE(Product Safety Electrical appliance & materials)マーク」の表示が義務付けられており、この表示がなければ日本国内で販売することはできない。IoT製品を製造・販売する場合、まずはその製品が家電に相当するのか数百におよぶ項目から探し出し、必要に応じて登録作業を行う必要があるのだ。

そのほか、医療機器やヘルスケア製品に相当する場合は「医薬品医療機器等法」に従うなど、各分野に応じて参照するべき法律が異なっている。

最大のリスクはローンチ後の法律抵触

IoT製品を製造・販売する際、法律面の確認を怠るとどのようなリスクがあるのだろうか。

この点について中野氏は「企業にとって最大のリスクは、ローンチ後に各種法律への抵触が発覚した際、当該製品・サービスの提供が開始できなくなってしまうことです。売上の見込みが大幅に変わってしまうのはもちろんのこと、対応が遅れれば後発の企業にビジネスチャンスを奪われてしまう可能性もありますし、企業のブランドイメージにも影響があります」と語る。

こうした法律への抵触を防ぐため、経済産業省により2014年1月に施行されたのが、「産業競争力強化法」の規定に基づく「グレーゾーン解消制度」だ。このグレーゾーン解消制度は、法的規制の適用範囲が不明確な分野でも、安心して新分野進出等の取りくみを行えるよう、事前に規制適用の有無を確認できるというもの。これにより、IoT製品・サービスのローンチ前に、各種法律に抵触するかが分かるのである。

中野氏は「まだ新しいIoTの分野は、先例の少なさから法律が追いついていない状況にあります。そうしたなか、実際に判断を行う行政側へ直接回答を求められるグレーゾーン解消制度は、企業にとって非常に有用といえるでしょう。申請および回答の内容は公表資料になっており、誰でも閲覧することが可能で、申請・照会の件数もここ数年で急増しています」と語る。

ただし、グレーゾーン解消制度を利用する場合には注意点もあるという。 「たとえば、『この製品はなにかの法律に違反していますか?』ではなく、『法律Aの〇条に違反していますか?』といったように、より具体的な質問を行う必要があります。また、同様の質問に『違反していません』と回答があった場合も、法律Bに違反している可能性は指摘してもらえません。つまり、グレーゾーン解消制度を利用するうえでも、事前にある程度の法的知識を要するため、専門家に依頼した方がスムーズに進むといえるでしょう」(中野氏)

行政は"敵"ではなく"パートナー"

また、法律上で問題がないように見えても安心してはいけない。なかには行政側で許可が下りないケースもからだ。

この点について、「これは解釈の違いによるものです。もともと法律はより広い案件に対応するべく抽象的に作られており、そこにはどうしても解釈の幅が生まれます。この解釈の幅を、行政側の判断に委ねることで、より詳細な案件への対応を可能にしているのです。そこで、もし行政側からの指摘を受けたら、まずは対策のために指摘理由をしっかりと聞いてみてください。行政を相手に裁判を起こすこともできますが、行政裁量があるので勝てる見込みは極めて少ないといえます。むしろ企業にとっては、行政を"敵"ではなく"パートナー"と捉えて、いかにスムーズに事業化を図れるかが重要です」と語る中野氏。

最後に「IoTは、ハードウェアとソフトウェアの融合によって成り立っているため、専門外の知識や技術が要求されてきます。特に法律関連は、その分野に特化したものも多く、どうしても見過ごしてしまいがちです。しかし、製品やサービスのローンチ後に停止命令を受けることは、企業にとって最大のリスクとなります。そうした事態に陥らないよう、ローンチ前に一度立ち止まって、法律面から現状を見直してみてください」と、IoTビジネスのスタートを目指す企業にメッセージを送ってくれた。

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