行政機関が保有する自身の個人情報の閲覧や、行政機関等から送信されるお知らせの確認などが行えるポータルサイト「マイナポータル」の運用が2017年1月よりスタートした。このマイナポータルにおいて同年7月より提供開始されているのが、電子申請サービス「ぴったりサービス」である。同サービスのシステム開発にあたっては、アジャイル開発手法が採用され、プラットフォームにも民間のクラウドサービスが導入された。省庁として異例の開発プロジェクトを可能にしたのは、官民が連携した開発チーム内での、アジャイル開発に対するスタンスの共有と、利用者視点への強いこだわりであった。
お客様の課題 | 導入効果 |
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サービス志向に優れたUX/UIとスピードを両立させ、拡張性を確保したい | NTTデータのリードの下、アジャイル開発手法のノウハウを習得し、最適なクラウド・プラットフォームの選定・活用もスムーズに実現した |
全国の地方公共団体におけるBPRと手続き書類の標準化を促したい | AIを活用して標準項目の作成、地方公共団体ごとの比較機能や各種フィードバックでBPRを促せるように |
導入の背景と課題
全国1,741の地方自治体の
子育て関連手続きに関するワンストップサービス
2016年1月に運用がスタートした社会保障・税番号制度──通称「マイナンバー制度」は、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現するための社会基盤となっている。そして翌2017年1月より一部機能の先行稼働を開始し、11月に本格運用を開始した「マイナポータル」は、政府が運営するオンラインサービスであり、マイナンバーに紐付いた自分の個人情報を行政機関同士がやりとりした履歴を確認したり、行政機関からのお知らせを自宅のパソコン等で確認したりできるようになっている。
そしてこのマイナポータルにおいて2017年7月より新たに提供開始されたのが「ぴったりサービス」である。ぴったりサービスは、日本全国1,741の地方公共団体が提供する電子申請可能な行政サービスを全国横断的に検索、比較し、そのままオンライン申請ができるワンストップサービスとなっている。その第一弾として提供しているのが、子育てに関するサービスである。
マイナポータルの企画からシステム構築、運用までを担当する、内閣官房 番号制度推進室 参事官補佐・山本 武史 氏は、その趣旨についてこう説明する。 「ライフイベントのワンストップサービスを目指す中で、まずは国にとっても喫緊の課題である少子化問題と深く関係し、国民のニーズも高い子育て分野から開始しました。今後は引っ越しや介護などの分野にもサービスを拡大して、より利便性を高めていく予定です」
ぴったりサービスにはすでに全国の地方公共団体の25,000を超える子育て関連手続きの様式が登録済みだ。また、マイナポータルを利用するためのアプリ「マイナポータルAP」も2017年10月よりWindows PCとAndroidスマートフォン向けに提供開始している。マイナポータルAPを利用すれば、ぴったりサービスにおける電子申請を行う際、電子署名を付与することが可能となる。
「地方公共団体の子育て関連サービスを横並びで比較できるようにもしました。そこから"競争"が生じることで、サービスの底上げが促されることも期待しています」(山本氏)
選定ポイント
未経験のクラウド&アジャイル開発の
"水先案内人"にNTTデータを選定
ぴったりサービスの開発にあたっては、省庁のシステム開発プロジェクトとしては異例ともいえるアジャイル開発手法を採用し、またシステムのプラットフォームにも同じく異例となるクラウドサービスを採用することとなった。
その理由について山本氏は次のように語る。「ぴったりサービスのコンセプトは"サービス志向"と"スピード"です。サービス志向にふさわしい優れたUX/UIを実現するためには柔軟性の高い開発手法が必要でした。また、前例がなくキャパシティプランニングが困難であったため、拡張性に優れたプラットフォームも不可欠でした。それらを両立させる組み合わせがアジャイル開発とクラウド・プラットフォームでした」
これを受託したNTTデータは、今回のプロジェクトに適したクラウド・プラットフォームにSalesforceを採用した。また、NTTデータからは、数多くのSalesforce導入を手がけたメンバーや、高いアジャイルノウハウを有する専門部隊がプロジェクトに参画し、メンバーに対してアジャイル開発のワークショップを開催するなど、プロジェクトを牽引した。
山本氏はこう振り返る。「プロジェクトのキックオフ時にまずNTTデータとアジャイル開発の進め方についてしっかりとすり合わせたことが成功要因だと考えています。アジャイルといっても進め方は一つではないので、まずはアジャイル開発の中で用いられる用語の定義の確認から始めました。そこがきちんとできていなかったならば、メンバーごとに理解と認識が異なってしまい、プロジェクトにとって致命傷となったでしょう」
導入の流れ
開発成果が目で見てわかることなどが
高いモチベーションの維持に
こうした準備期間を経て、実際にぴったりサービスの開発に着手したのは2017年1月下旬であった。開発期間として残されたのはわずか半年であったものの、プロジェクトはスムーズに進行していった。
山本氏は、「関連する国の行政機関や地方公共団体との情報共有を目的とした専用のWebサービスをシステム開発の初期段階で整備したことが大きかったです」と語る。 アジャイル開発そのものも、手戻りが発生することは想像以上に少なかった。
「アジャイル開発では成果を実際に目で見て動かして確認しながら開発を進められるので、進捗状況や成果を実感でき、高いレベルでのチームメンバーのモチベーションの維持につながりました」(山本氏)
またスタート時が4人、最大時でも8人と少数精鋭のチーム体制で1人1人の役割が大きいことから、山本氏はそうしたチーム体制も確かな実感をもたらしていると分析する。メンバーは金融機関やシンクタンクなどの民間企業と省庁との混成部隊であり、異なる視点から忌憚のない意見が日々交わされた。
「立場の上下など一切関係なく皆が意見を出し合うので、開発現場は毎日鉄火場のようでした(笑)。しかしそれが楽しく、またあくまで利用者視点にこだわったデザイン志向とスピード重視の開発を可能にしました。NTTデータは、クラウド事業者やデザインに強い開発会社など、これまで我々に馴染みの薄かった外部とのつなぎ役となりプロジェクトを推進してくれました」と山本氏は言う。
導入効果と今後の展望
各地方公共団体の様式をAIで分析し
標準化を促していく
こうして予定通りの2017年7月に、ぴったりサービスの第一弾のサービスの提供開始にこぎつけた。しかしその後も機能を拡張するなどサービスの開発は続けられており、山本氏は「まだ始まったばかりで今も走り続けている最中です」とコメントする。
「申請を電子化することが目標なので、KPIとしては電子化割合が当てはまるのかもしれませんが、我々は単純な電子申請の仕掛けをつくっているわけではありません」と山本氏は強調する。
ぴったりサービスのシステムには、各地方公共団体から窓口書類の画像をアップロードしてもらっているが、その入力項目データをAIの活用により分析し、標準項目の作成を進めている。
「同じ手続きでも地方公共団体によって入力項目の数や項目の名称は異なりますが、標準化された項目をフィードバックすることで地方公共団体が自らの意志で様式などを見直す機会が生まれることを期待しています。そうなれば、おのずとワークフローが似てきて、システムの作り方も近いものとなっていくことでしょう。そこで初めてBPR(Business Process Re-engineering=ビジネスプロセスを見直し抜本的に設計しなおすこと)が可能となるのです。なによりも現場が気づくことが重要だと考えています」(山本氏)
地方公共団体側の改善を促すよう、ぴったりサービスでは各種データをフィードバックするとともに、地方公共団体ごとの制度や手続きの内容を比較できるようにもなっている。
山本氏らはぴったりサービスを「運用しながら成長するシステム」と位置づけており、SNSとの連携をはじめAPI機能をさまざまなサービスと連携できるようにするなど、あくまで利用者視点での機能の進化に注力している。
「サービスをラストワン“インチ”──つまり指先まで届けたいというのが我々の思いです。そのためにも、タッチポイントを多様化させ、増やしていき、どこからでもサービスが使えるようにしていきたいと考えています」と、山本氏は笑顔を見せる。
世界的にも前例のないAIを活用した電子申請サービスであるぴったりサービス。その技術と精神が今後さまざまな行政手続へと広がっていけば、日本が"電子政府先進国"となる日も夢ではなさそうだ。
企業プロフィール
内閣官房
所在地 | 東京都千代田区永田町1-6-1 |
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設立 | 1924年 |
概要 | 内閣の補助機関であるとともに、内閣の首長たる内閣総理大臣を直接に補佐・支援する機関。内閣の庶務、内閣の重要政策の企画立案・総合調整、情報の収集調査などを担っている。 |
URL | https://www.cas.go.jp/ |
■本稿に登場したサービス
・ぴったりサービス
マイナンバー制度の個人向けウェブサイト「マイナポータル」のなかで、電子申請機能を担うのが「ぴったりサービス」。ここでは子育てに関する手続きをはじめとして、さまざまな申請や届出をオンライン上で行うことができます。
[PR]提供:NTTデータ