3D CADの定番ソフトである、シーメンスの「Solid Edge」。同ソフトは、構造物が力を受けた際の影響を調べることができる構造解析をも取り込み、機械設計の統合ツールとして進化してきた。2018年1月、この進化に新たな一石が投じられた。メンター・グラフィックスの熱流体解析ソフト「FloEFD」をオプション製品化し、設計・解析のラインナップがさらに充実したのだ。

  • 「Solid Edge」のオプション製品として、3D CAD環境で熱流体解析を行える「FloEFD for Solid Edge」

Flo EFD for Solid Edge

「Solid Edge」は、パラメトリック・モデリングとダイレクト・モデリングを共存させた「シンクロナス・テクノロジー」という特徴を備える3D CADソフトだ。バージョンアップとともに数々の機能を追加し、現在では高精細な3D レンダリングや構造解析(CAE)までをも扱うことができる。そんなSolid Edgeの製品群に、新たに熱流体解析(CFD)が追加された。

CAD環境で本格的な熱流体解析が行える「FloEFD」を開発していたメンター・グラフィックスは、シーメンスへ統合されることがすでに決まっている。会社が完全に統合されるにはもう少し時間がかかるようだが、Solid EdgeとFloEFDの融合が先行した形で実現された。開発部門同士の協業も進んでいるという。

  • 「FloEFD for Solid Edge」によって熱流体解析(CFD)を行い、温度の分布を得た画面

本稿では、Solid Edgeが熱流体解析を行えるようになったことで、どのようなメリットを得られるのか、ポイントごとに明らかにしていきたい。

設計者でもカンタンに使える高精度な熱流体解析

「FloEFD for Solid Edge」は、Solid Edgeのモデルをそのまま利用して熱流体解析を行えるソフトだ。最大のポイントは、ウィザードに沿ってファンやフィルターなどの型番を入力していけば、解析を行えることにある。本ソフトには大量のファンやフィルターなどの情報がライブラリ化されているため、それぞれの部品について詳しい知識を持っておらずとも、熱流体解析が行えるのだ。まずは、実際にその手順を見てみよう。

  • 「FloEFD for Solid Edge」の設定ウィザード画面。解析に必要な情報を、順を追って入力できるようになっている

  • ファンとメッシュの設定画面。ライブラリに登録されている部品であれば、ファンの型番を選ぶだけでOKだ

  • ウィザードで必要項目を入力し、解析を行ったところ。解析経過確認の画面ののち、流速を表示させた

このように、「FloEFD for Solid Edge」での設定は非常にシンプル。ライブラリに存在しないパーツであっても、カタログに記載されたファンカーブなどを入力して利用することも可能だ。一般的には専門の知識がなければ扱うのが難しい熱流体解析ソフトだが、設計者であっても気軽に解析を行うことができる。

設計者に求められる熱流体解析とは?

熱流体解析では、正確な結果を得るために解析特有のパラメータを設定せねばならず、設計者にとってはハードルが高かった。

だが、設計者が設計段階で解析すべき情報とは、そこまで厳密な解析結果ではないはず。解析の専門家のように「絶対値の合わせこみ」を行う必要はなく、むしろ「設計方針を定めるための相対評価」ができれば事足りるのだ。もちろん開発の過程で「絶対値の合わせこみ」が必要になることもあるが、その際は専門家にお願いすればよい。「FloEFD for Solid Edge」の狙いは、従来、解析部門に依頼しなければならかった熱流体解析を簡素化し、設計者の仕事の幅を広げることにある。簡単な操作で流れや熱の様子を視覚化できるので、ベテランの設計者の「よい設計」のどこが優れているのか、問題を出してしまった設計のどこに原因があったのかなども一目瞭然に理解できる。ベテランから若手への「暗黙知」の伝承ツールとしての活用も期待できるというわけだ。

  • 設計案ごとに、温度分布の比較を行ったところ。設計者であればこれくらい大まかな情報がわかれば十分設計の助けとなるだろう

設計者が熱流体解析を行うことで得られるメリット

この「FloEFD for Solid Edge」は、Solid Edgeの特徴である「シンクロナス・テクノロジー」との相性が非常に良い。複雑な設計を行った場合や、形状を修正した後であっても、3D CADソフト上で気軽に解析を行えるからだ。トライ&エラーを頻繁に繰り返すことで、より円滑な設計を追求できるため、設計の自由度はさらに増すだろう。

設計者が3D CADの環境において解析まで行えれば、"試作段階まで進んでから設計に問題が発見される"といったトラブルも減る。副次的に、解析部門は専門的な解析に専念できるようになるだろう。当然、社内リソースの有効活用にもつながる。もちろん自社で解析部門を持たない企業にとっては、アウトソーシングの回数を減らせるというメリットにもなりそうだ。

昨今、すでに多くの3D CADソフトが構造解析機能を搭載しており、設計者は内蔵されたツールを使って簡単な構造解析を実施することが当然になりつつある。さらに一歩「その先」へ進み、熱流体解析までをも行えるようにしたものが「FloEFD for Solid Edge」といえる。

Solid Edge ST10 – 「FloEFD for Solid Edge」デモンストレーション

熱流体解析が気軽に使える価格設定

このように「FloEFD for Solid Edge」の導入はさまざまなメリットをもたらしてくれるが、気になるのはその価格だ。専門的な熱流体解析ソフトは高価というのが一般的。

しかし「FloEFD for Solid Edge」は、あくまでSolid Edgeのアドオンツールだ。Solid Edge自体、もともと中小規模の企業でも複数導入が可能な価格で提供されているソフトなので、価格帯も同程度に設定されている。仮に「Solid Edge」と「FloEFD for Solid Edge」の組み合わせで同時に導入しても、従来と比べてずっと安価に導入できる。

今後はサポート窓口も一本化しさらに親和性の高いツールに

なお、メンター・グラフィックスはすでにシーメンスの傘下企業であり、近いうちに統合されるのは確定事項。以前から用意されているLED、HVAC、電子冷却向けのオプション製品もそのまま扱うことができる。今後はサポート窓口も一本化され、Solid Edge、FloEFD両方のユーザーの声が互いに反映されることで、さらに深いレベルでのインテグレーションも期待できるだろう。

シーメンスは3D CADに構造解析(CAE)を実装し、より自由度の高い設計環境を設計者に提供してきた。今回は「FloEFD for Solid Edge」によってさらに熱流体解析(CFD)の敷居をも下げようとしている。Solid Edgeをすでに使用している人はもちろんのこと、熱流体解析を必要とする設計を行っている他の3D CADソフトユーザーも、その動向には注目してほしい。

なお、アドオンである「FloEFD for Solid Edge」は含まれていないものの、「Solid Edge」には、全機能を45日間試せるトライアル版も用意されている。「FloEFD for Solid Edge」の機能は動画やイベントで確認できるので、多くの設計者に一度その画面を確認していただきたい。


6月の設計製造ソリューション展の紹介

本稿で紹介したFloEFD for Solid Edgeは6月21日から東京ビッグサイトで 開催される「設計製造ソリューション展」に出展される予定。 シーメンスブースでのデモや実機展示は必見。

[PR]提供:シーメンス