アマゾン ウェブ サービス(AWS)とそのパートナー企業が、様々な課題の事例を公開するセミナーシリーズ「AWSの進化がもたらす新たな可能性〜クラウドがビジネスの未来にあたえる4つの可能性〜」。その第3回:DaaS (Desktop-as-a-Service)編が、2017年11月15日 東京新宿にて開催された。今回は、テレワークを実現するクラウドベースの仮想デスクトップ、DaaSがテーマ。本記事では、当日行われた4つのセッションについて、それぞれの概要を紹介する。

AWSで実現する働き方改革

アマゾン ウェブ サービス 事業開発本部 事業開発本部 Business Development Manager 澤田 大輔氏

アマゾン ウェブ サービス 事業開発本部 事業開発本部 Business Development Manager 澤田 大輔氏

最初のセッションに登壇したのは、アマゾン ウェブ サービス 事業開発本部 Business Development Manager 澤田 大輔氏。AWSでは、テレワークを実現する仮想デスクトップ技術として、2014年よりDaaSソリューションである「Amazon WorkSpaces」を提供している。

柔軟な働き方の手段であるテレワーク。それをセキュアな環境にて実現する技術としては、サーバー上で仮想化されたデスクトップ画面をPCなどのクライアント端末に表示させるVDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ)がある。

VDIは、インターネットさえ繋がっていれば、「いつでも、どこでも、だれでも」業務用のデスクトップ環境にアクセスできる。また、端末側にはデータが残らないため、セキュリティも保たれる。さらに、処理はサーバー側が行うため、処理能力の低い安価な端末でも十分なパフォーマンスを発揮できるなどのメリットがある。

ただ、オンプレミスでVDI環境を実現しようとすると、ある程度の規模の導入が一括で必要となり、機材の購入やシステムの構築などで多大な初期コストが発生する。導入から運用までにかかる時間は短くても数ヶ月から一年、大規模なシステムの場合は数年かかることもある。さらに、運用が始まってからも保守管理などの運用コストが発生する。

その点、Amazon WorkSpacesではAWSと同様に初期費用なしの従量課金制となっており、1台から利用することができる。さらに申し込みも30分程度のWeb操作で完了できる、つまり、オンプレミスタイプのVDIのような膨大な初期コストと時間は不要。セキュリティの面においても、米国政府のクラウド調達のセキュリティ基準である「FedRAMP」(*1)に準拠したAWSであれば、最高レベルの機密性と可用性が確保されると言っても過言ではないだろう。

さらに、AWSではAmazon WorkSpacesのほかに、アプリケーションを配信するアプリケーションを配信「Amazon AppStream 2.0」、スケジューラーやメール環境を提供する「Amazon WorkMail」、オンライン会議やチャットなどのコミュニケーションツールである「Amazon Chime」、そしてドキュメントを共有する「Amazon WorkDocs」など、テレワークを実践するために必要となる様々なサービスが用意されている。これらを組み合わせさえすれば、極端な話ではあるが、一時間もあればテレワークに必要な環境を作り出すことができてしまうのだ。

「クラウドが持つ特徴には始めやすさと同時に止めやすさもあります。オンプレミスの場合、導入には多大なコストと時間がかかるので、一度システムを入れてしまうと簡単に止めることはできません。しかしクラウドは、導入が簡単であると同時に止めることも簡単にできます。使ってみて合わないのなら止めればいいのです。当社では2017年の6月から、Amazon WorkSpacesを最大2ヶ月の無料利用枠を設けています。まずは使っていただければ、その価値を体験できると思います」

*1:FedRAMP コンプライアンス(https://aws.amazon.com/jp/compliance/fedramp/)

ビジョンを体現するサーバーワークスのオフィス改革

サーバーワークス 代表取締役 大石 良氏

サーバーワークス 代表取締役 大石良氏

続いて、サーバーワークス 代表取締役 大石良氏によるAmazon WorkSpacesを用いた働き方改革の実践例が紹介された。総務省が選出する「テレワーク先駆者百選」にも選ばれた同社は、2008年よりオフィスにサーバーを一切購入しない「サーバー購入禁止令」を出し、AWS専業のインテグレーターとして事業を展開している。

サーバーワークス の大きな転機となったのは、2011年に発生した東日本大震災。アクセスの急増によってダウンした日本赤十字社のサイトを、AWSへの移行によって、1日足らずで復旧させたという実績が、AWS専業インテグレーターとしての同社の手腕と、BCP対策におけるAWSの有効性を周知することとなった。

そんなサーバーワークスが今、特に力を入れている事業がAmazon WorkSpacesを用いたテレワークソリューションである。自らもAmazon WorkSpacesを用いた「魅力的な働き方ができる会社の実現」を目指している。

サーバーワークス は、ほぼ全てのシステムがクラウド上で稼働している。オフィスはフリーアドレスになっており、仕事に応じて、会話スペースや集中スペースなどの場所を選択できるようになっている。なかには「社員からの希望で用意された」畳スペースで、寝転がって仕事をしている社員もいるそうだ。また誤送信防止の観点からも社内メールを完全に廃止しており、連絡にはビジネスチャットツール「Slack」を用いている。大石氏によると「メールとチャットでは言葉の距離感がぜんぜん違う」とのことで、メールを使っていた時代を比べると、社内コミュニケーションが大幅に活性化したそうだ。

これら様々な取り組みを続けた結果、サーバーワークスでは約9割の社員がリモートワークを経験することとなり、一方でプロジェクト実績数は2年前(2015年)と比べて約6倍に増加した。(2017年5月現在)

「かつては企業が社員を選んでいました。ですがこれからは社員が企業を選ぶ時代となります。働き方改革は、社員に自社を選んでもらい、居続けてもらうための手段の一つです。つまりそれは企業と社員の「関係性改革」であり、それは企業が生き残るための経営手段でもあります。労働力がなくなったら、企業は生き残っていけないのですから」と大石氏はセッションを締めくくった。

働き方改革を実現するために超えるべきハードル

TOKAIコミュニケーションズ 法人営業本部クラウドソリューション推進室 篠崎 大輝氏

TOKAIコミュニケーションズ 法人営業本部クラウドソリューション推進室 篠崎大輝氏

3番目のセッションに登壇したのは、TOKAIコミュニケーションズ 法人営業本部クラウドソリューション推進室 篠崎大輝氏である。自社が保有する光ファイバーネットワークとデータセンターをバックボーンにサービスを展開するTOKAIコミュニケーションズは、AWSと411回線(2017年12月時点)の接続実績を持つアドバンスドコンサルティングパートナーでもある。

同社では、慢性的な人材不足と厳しい管理ルールによる生産性の低迷が大きな課題となっていた。例えば、PCを社外に持ち出す際には事前の申請・承認後に、貸出し用のPCにデータをコピーして、返却時はコピーしたデータを消去した後に返却申請を行う手順となっていた。また、PCを持ったままの直帰は厳禁だったため、どれだけ遅い時間になったとしても一度は会社に戻らなければならず、無駄な長時間労働を生み出す大きな要因にもなっていた。

これだけ厳密なルールを設定していたとしても、貸出しPCにデータをコピーしている時点で、紛失や盗難などによる情報漏洩リスクはなくならない。

生産性を高めるため、有能な人材が活躍できる環境を整えるため、そしてワークライフバランスの実現のため、働き方改革が必要だと判断した篠崎氏らが、そのためのソリューションとして選んだものがAmazon WorkSpacesだった。

Amazon WorkSpacesを選んだ主な理由は、「会社のルールに柔軟な対応ができるツールだから」とのこと。例えば、導入後に寄せられた「社外からのアクセスには、もっとセキュリティを強化すべき」との要望に応えるためIDとパスワードによる認証に加えてワンタイムパスワードでの認証の仕組みを導入したり、紛失・盗難時への対策としてリモートからの集中管理を行うなどの機能を追加して、課題を解決していったそうだ。

なお、TOKAIコミュニケーションズ では、Amazon WorkSpacesを使用しているエンドユーザーからの問い合わせに対応する「サポートデスクサービス」の提供を行なっている。ちなみに、そこに寄せられる問い合わせの約80%が、ネットワーク環境障害などによる「接続できない」であり、それに続くものが約15%の「パスワード忘れ&有効期限切れ」となっている。つまり、WorkSpaces自身が要因となる障害は、ほとんど発生していない。ちなみに、WorkSpacesでは12時間ごとに自動バックアップを行う設定になっているので、データロストのリスクも抑えられている。

TOKAIコミュニケーションズ ITサービス本部 サービスイノベーション事業部 プロダクトサービス部 今井 香氏

TOKAIコミュニケーションズ ITサービス本部 サービスイノベーション事業部 プロダクトサービス部 今井 香氏

「WorkSpacesは、非常に便利なツールです。ただ、実際に運用する際には、“どこを、どう設定して、どう操作すればいいかわからない”というケースがあります。そんな時には、是非とも弊社のサポートデスクサービスをご利用ください。そしてWorkSpaces導入の社内調整に苦労されている方も、是非お声がけください。弊社も導入時の申請や各部署への説得には非常に苦労しました。その経験を役立てることができると思っております」(篠崎氏)

当日のセッションでは同社 ITサービス本部 サービスイノベーション事業部所属の今井香氏によるAmazon WorkSpaces活用シーンの紹介が行われた。安価なChromebookを専用端末として活用。ローカルディスクにデータは残らないので、紛失や盗難にあっても情報漏洩のリスクはない。直帰も許可されるため、出張の際にも時間の余裕が生まれるようになったとのことだ。

オフィスが変われば働き方も変わる。総務省行政管理局の挑戦

総務省 行政管理局主査(業務・システム改革総括)山内 亮輔氏

総務省 行政管理局主査(業務・システム改革総括)山内 亮輔氏

最後のセッションでは、総務省行政管理局主査 山内亮輔氏による、総務省が実践した「オフィス改革」についての事例が紹介された。

中央官庁では、国会審議の準備や審議会で用いるものなど、多種多様な資料作成が発生する。そして重要な資料の場合には会議が開かれることもある。その際、まずは会議のための資料をパソコンで作成し、それを印刷して会議で配布、そこで出た意見をメモして自席に持ち帰りパソコンで修正する、という作業を繰り返していた。

だが、もし会議室に無線LANが通っていて、参加者全員がノートパソコンを持ち込んでいれば、わざわざ紙に印刷せずとも同じ資料を画面で共有できる。修正する場合でも、簡単なものであれば、その場ですぐに直すことが可能だ。

働き方なんて簡単に変えられない、そう考える人も多いかもしれない。だが山内氏は、「それは固定観念に過ぎない」と断言する。

「昔、書類はすべて手書きでした。ですが今は、ほとんどの人がパソコンを使っています。書類を送る時も、郵送からFAX、そしてメールと、新しいツールが登場するたびに、働き方は変わってきました。ただこれからは、ツールに合わせて変わるのではなく、仕事の内容に合わせて変えていくようになるでしょう。その方が、よりよいオフィスの光景が見出せると思います」と山内氏は語る。

現在、総務省 行政管理局の一部オフィスでは、上司を頂点として並列に並ぶ、オフィスでよく見られる机のレイアウトから、楕円形の大きな机にチームが集まって座るスタイルとなっている。フロアには無線LANが完備され、会議や打ち合わせなど、ノートPCを片手に、必要な時に必要な場所で作業することが可能だ。このオフィス改革によって、資料作成にかかる時間が約32%短縮し、残業時間も約15%減少。職員も約9割が「満足」「働きやすくなった」と答えるなど、評判も上々である。

そして、この行政管理局の取り組みは、他の省庁や自治体、民間から他国の政府にまで広がりを見せているという。

「テレワークもオフィス改革も、手段の一つにすぎません。大事なのは目的があって、それに対して有効であるかどうかです。そして、それを見つけるためには、固定概念を打破しなくてはなりません。座席は固定されている。上司は窓際で部下を監視するような位置に座る。そもそも、オフィスに決まったレイアウトがあること自体を疑ってみる。そうやって試してみた結果が、今の私たちのオフィスです」と、行政管理局における新たなオフィスの様子を公開して、山内氏のセッションは幕を閉じた。なお、オフィスの様子については、総務省のサイトにあるオフィス改革のページにて公開されているので、そちらをご覧いただきたい。

[PR]提供:サーバーワークス、TOKAIコミュニケーションズ、アマゾン ウェブ サービス ジャパン