アディティブ・マニュファクチャリング(AM)が台頭する設計・製造現場
3D CADや3D CGデータを元に立体的な造形を行う3Dプリンターは、コンピュータ上のモデルをすぐに製作というメリットによって、この数年でまたたくまに普及した。この3Dプリンターを支えている技術が、材料を積層することで立体造形を行う加工法、アディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing:以下、AM)だ。従来は主に形状確認の用途に限られていた3Dプリントも、AMの進化により、近年は小ロットの実製品生産に耐えられるまでクオリティが向上。使われ方の幅が広がってきている。
AMが台頭し設計・製造現場に変化をもたらすなか、それに呼応するように進化を続けているのが、シーメンスの「Solid Edge」だ。もともとパラメトリック・モデリングとダイレクト・モデリングの良さを併せ持つモデリング手法「シンクロナス・テクノロジー」で3Dモデリングの「難しさ」を払拭していたが、現在はさらに3D CGなどで用いられる「ファセットデータ」の編集や位相最適化技術をも取り込んだ統合ツールとして進化している。 最新バージョンとなる「Solid Edge ST 10」は、AMにどのようなメリットをもたらすのだろうか。本稿でその特徴について紐解いていきたい。
人間では設計できない構造を作り出す「ジェネレーティブ・デザイン」
Solid Edge ST10には、大きく2つの新機能が追加された。1つ目がトポロジー(位相)最適化機能である「ジェネレーティブ・デザイン」だ。使用する材料や目標質量、設計上許容される空間・荷重・拘束条件などを入力することで、Solid Edge ST10が自動的に最適な形状をデザインする。人間では思いつかない斬新な構造を設計できる便利な機能だが、今までは有効に活用するにはある問題があった。
人間の設計者が部品の発想をする場合、その部品の製造方法、コスト、期間を考慮しながら形を決めていく。だがジェネレーティブ・デザインを行うのはあくまでソフトウェア。人間なら当たり前に考えるこれらの発想や想定、常識を一切無視して、与えられた条件の中で理想的な形を作り出すがゆえに、製造困難な部品を設計してしまう。
この問題を解決したのがAMの進歩だ。設計された3Dデザインをそのまま積層して形を作っていくため、加工のしにくい複雑な構造であっても問題なく製造できるようになった。従来は使える材料も限られ、3Dプリンターの用途は形状の確認や一部の試作品に限られていたが、現在はAM技術の向上により、小ロットのものであれば実際の部品をそのまま打ち出すことも可能となっている。
例えば「Hall Designs」では、アクセルペダルを、強度はそのままに軽量化するという試みを行っている。これまでは4つの金属製部品を溶接でつないでいたが、Solid Edgeのジェネレーティブ・デザインとAMの活用により重量を25%も軽減できたという。
Hall DesignsがSolid Edgeを利用してカスタムパーツを自社で作成した事例
人間が製造を考慮して考える"引き算の設計"ではない、大胆な発想を簡単に設計し形にできるのが、ジェネレーティブ・デザインの魅力といえるだろう。
なお作成したデータをSolid Edge ST10上から直接オンラインオーダーし、3Dプリントの発注ができるプリントサービスにも海外では対応している。今後は、対応業者が増えて日本国内でもオンラインの3Dプリントができるようになることに期待したい。
3D CGとのシームレス変換を実現する「コンバージェント・モデリング」
2つ目の新機能は「コンバージェント・モデリング」だ。3D CADは、一般的にB-Repという手法を用いて、作成した面や点を数式で表すジオメトリデータで管理している。それに対して、3Dプリンターが受け付けるのは3D CGで利用される小さな三角形が集まったSTLと呼ばれる格子状のファセット(メッシュ)データであり、通常の3D CADでは直接データを取り扱うことができなかった。
そのため3Dプリント用のSTLデータを入手したとしても、CADではそこに穴ひとつ開けることもできなかったのだ。これを解決したのが、「コンバージェント・モデリング」だ。ファセットモデルをCADに取り込み、形状編集が可能になった。
これは、Solid Edgeのカーネルとなる3D幾何形状モデリングコンポーネント「Parasolid」によって実現されたものだ。Parasolidも自社開発しているシーメンスの強みが生かされた格好だ。
この技術革新により3Dスキャナーで取り込んだデータを、Solid Edge ST10で直接形状編集できるようになる。最大のメリットは、リバースエンジニアリングが格段にやりやすくなることだ。また、オンラインで入手した3Dモデルに手を加えて、オリジナルのグッズを作ることも簡単にできるようになる。
熱流体解析やマニュアル作成、チーム設計支援機能も
ジェネレーティブ・デザインとコンバージェント・モデリングの2つがSolid Edge ST10の最大のトピックといえるが、その他にも技術者の設計を助けるさまざまな機能が追加・強化されている。その中でも特徴的な3つの機能を紹介しておこう。
(1)Solid Edge Flow Simulation
「Solid Edge Flow Simulation」は、熱流体解析を行える機能だ。これは従来「FloEFD for Solid Edge」と呼ばれていたもので、設計者であってもSolid Edge ST10上からウィザード形式で簡単に高度な解析を行える。他の解析ソフトのように、元データが変更されるたびに変換やパラメータ設定などをやり直す必要がない。開発元(旧メンター・グラフィクス)がシーメンスに統合されたこともあり、今後さらに使い勝手や機能の向上が期待されている。
(2)テクニカルドキュメンテーション
「テクニカル・ドキュメンテーション」は、3D CADでデータを作成しながら、同時にマニュアルを作成できる機能。3D PDFにも対応しており、Webから3Dデータを閲覧することができるほか、Wordなどに貼り付けることも可能。設計者にとって何よりありがたいのは、設計データを変更した際に、変更箇所がマニュアルにもすぐに反映される点だろう。これによりマニュアルのバージョン管理の手間が減り、ミスも減らすことができる。
(3) ビルトイン・データマネジメント
「ビルトイン・データマネジメント」は、3D CADで扱うデータのリビジョン管理やリリース管理、テンプレート管理を行う機能。データベースを要さず、基本的にはWindowsのフォルダ構成をそのまま使うため、誰にもわかりやすく、すぐに確実なチーム設計環境を構築できる。しかも追加の費用が発生しない標準機能であるというのもユーザーにとってはうれしい点だ。
Solid Edge ST10の全機能を45日間試せるトライアル版も
Solid Edgeには複数のグレードが存在するが、シーメンスでは現在、45日間全機能を利用できるトライアルバージョンを無償で公開している。本来であれば4つのパッケージの中でも中上位パッケージである「Solid Edge Classic」でなければ利用できないジェネレーティブデザインとコンバージェントモデリングも、このトライアルバージョンならば気軽に体験が可能だ。シーメンスがAM全盛時代を見越して開発を続けている最新機能、ぜひ多くの設計・技術者の方に試していただきたい。
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