Zabbix Conference Japan 2017が11月17日、都内で開催された。Zabbixはオープンソースの統合システム監視ソリューションとして2001年に公開されて以来、年々進化を遂げ、今では国内外の大企業でも広く採用されている。Zabbix本社(ラトビア)や日本支社Zabbix Japanのサポートが得られるという安心感も、採用が進む大きな理由といえるだろう。
Zabbix社が主催するZabbix Conferenceはユーザーやパートナー企業が関連情報などを共有する機会として、日本では2013年から毎年開催されている。本年はZabbixの活用事例や検証報告、関連ソリューションの発表など、全14セッションが行われたが、本稿ではZabbixの現在と将来の展望がわかる3セッション(Zabbix LLC 創設者兼CEOのAlexei Vladishev氏、Zabbix Japan代表の寺島 広大氏、同エンジニア渡邉 隼人氏)の内容を再構成してお届けする。
ますます進む大企業での導入。さらなる進化を目指し開発エンジニアを増員へ
「1997年、当時システム管理者だった私が、作業を簡素化・自動化するために開発を始めたのがZabbixです。GPL ver.2(一般公衆ライセンス)でリリースし、ユーザーの皆様が自由に使え、自由に変更でき、自由に学んでいただけるように開発しました」と、Zabbixの生みの親であるVladishev氏は語る。以来、Zabbixはオープンソースソフトウェア(以下、OSS)という形態をとり続けながら、ユーザー数を増やしてきた。
「OSSなので正確なユーザー数を割り出すことはできませんが、パッケージリポジトリにアクセスするユニークIPが月100万あることを考えれば、少なくとも数十万のユーザーに使われていることになります。最近はユーザーの企業規模がどんどん大きくなってきており、たとえばFortune500の企業のうち、Zabbixを採用いただいている企業は50社にものぼります。欧米トップクラスの金融機関や通信関連企業、小売や航空宇宙関連など、業界も様々です」(Vladishev氏)
ソフトウェア本体が無料で配布されているため、Zabbix社の売上はトレーニングやテクニカルサポートなどによるものが多いが、ユーザーの増加や活用範囲の広がりにより、毎年50%増で継続的な伸びを示している。収益が上がることで会社としても安定し、製品の質を高めるためのリソース確保に役立っているという。特にコア製品の開発エンジニアは2年以内に倍にしていくつもりだと、Vladishev氏は説明。8月にリリースされたZabbix 3.4では、ダッシュボードのリニューアル、マップ機能の改善、対応するデータソース、プロトコルの拡張、設定管理の効率化などが図られている。
「様々な改良を行っていますが、一貫した目的は、Zabbixをできるだけ使いやすくするということです」(Vladishev氏)
Zabbix Japanも成長は継続。収益は開発継続のために
2012年に設立され、今年で5周年を迎えたZabbix Japanも、企業として着実な成長を続けている。当初10社だったパートナー企業は現在49社に、売上も毎年30~40%増を記録している。同社の売上も本社と同様、サポートやトレーニングの年間契約料がそのほとんどを占めている。代表の寺島氏は自社のビジネスモデルについて、こう説明する。
「当社のビジネスは"何かあった時"のためのもの、つまり保険業に近いのかもしれません。ビジネスなら収益を上げることが目的となるのが普通ですが、我々の収益は、Zabbixの開発を継続するためのものだと考えています。大きく儲けたり急成長したりするのではなく、安心して開発を継続できるだけの収益があればいいというのが、私の考えです」
そして継続的な開発を続けるモチベーションとなるのが、ユーザーやパートナー企業からのバグ報告・機能追加要求なのだと寺島氏は言う。ここ5年間で、同社に寄せられた新機能の追加要求は約2,400件、本社へフィードバックして製品に反映できたのは、そのうちのほぼ半数にのぼる。
「(反映できていない)残りの部分が、当社の伸びしろということになりますね」(寺島氏)
密なコミュニケーションでユーザー、パートナーを支える
Zabbixに対するバグ報告や機能要求などは、国内では主にパートナー企業を通じてZabbix Japanへ届く。パートナーとのコミュニケーションにはカスタマーポータルサイトが用意されているほか、3ヶ月に一回のパートナー会も実施。新機能の検証報告や、パートナーが開発した関連ソリューションもこうした方法で共有している。
「競合関係にあるパートナー様もいらっしゃいますが、仲良く一緒に成長していける雰囲気づくりを心がけています」(寺島氏)
不具合に関する問い合わせに対しては、「エンジニアが知っていることをすべて出して支援していきたい」と寺島氏は語る。その活動の一端については、サポートエンジニアを務める渡邉氏が紹介した。2014年には650~700件だった問い合わせ数だが、今年は既に1,210件(11月現在)にのぼっているという。渡邉氏はZabbix Japan内でこれらの問い合わせに対してどのように原因究明を行い、対処しているかを、具体的なコマンドや使用ツールを引き合いに出しながら説明。またユーザー自身が的確な原因究明・状況判断を行うために実行できる手段についても紹介し、スピーディなトラブル解決のヒントを提供した。
来年リリースの4.0以降、Zabbixが目指すこととは?
ユーザーの要望を採り入れながら成長するZabbix。その次バージョン4.0は(前年の発表よりやや遅れて) 2018年第一四半期中にリリースされるという。4.0そしてその先のZabbixは、どういった方向へと進んでいくのだろうか。Vladishev氏が語ってくれた。
「大企業ならすでに (Zabbix以外の)監視製品をいくつも実装されているケースもあるでしょう。こうした監視システムの中核的な役割を、Zabbixで果たせるようにしたいと考えています。つまり他の監視ソリューションで生成されたデータを受け取り、Zabbixの画面ひとつで企業全体を監視できるような、統合的な可視化ソリューションを目指して改良を進めています」
障害発生時の根本原因の解析と究明に関わる機能についても、改良される予定だ。Zabbix 3.4では、トリガーの依存関係、グローバルな依存関係から根本原因の分析を行える機能があるが、1秒あたり何千ものイベントが生成される大規模環境では、十分とは言い難い。そこで4.xではイベントの重複排除やフィルタリング、外部機器への問い合わせ機能などを持たせ、より複雑な処理で根本原因を特定できる"スマートな監視システム"を目指していく。
また監視対象として『サービス』の優先度を上げていくという方向性も決まっている。
「多くの企業は社内外のユーザーにしっかりサービスを提供できているのかということに、関心があるはずです。例えばKPIやSLAなど、よりビジネスに寄った対象の監視を重視していきます」(Vladishev氏)
さらに公式サポート・プラットフォームの拡張(Docker、OS X、Raspberry Pi、Android、KVM、XENなど)、インストール直後から特定のアプリや機器を監視できるようにするテンプレートの追加、様々なハードウェアやクラウドサービスを用いたパフォーマンス実験などにも積極的に取り組んでいる。数々の改良ポイント・検討事項を打ち出したVladishev氏だが、その方向性はひとつだという。
「ユーザーが自身の抱えている問題を、自由に解決するために役立ててもらうこと。それがZabbixの目指すところです。この目標は『しっかりとしたソフトウェア』『幅広いプラットフォームのサポート』『高品質なサービスの提供』という3要素がすべて揃って、はじめて達成できるのです」
単なる監視ソフトウェアではなく、大きな意味でのソリューション(解決策)として成長しようとしているZabbix。Vladishev氏が今回挙げた展望を反映させながら開発が進められているというZabbix 4.0への期待は高まる。
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