9月21日、パレスホテル東京で「Tintricity 2017 Tokyo ~ティントリユーザーの集い~」(以下、Tintricity)が開催された。7月に米NASDAQに上場するなどさらなる成長に向けて爆進しているティントリ。そんな同社の成長を支えているのがTintriのユーザーだ。イベントには日本国内のユーザー企業から約160人が参加、ユーザー参加型の趣向を凝らしたセッションが多数行われ、会場は熱気に包まれた。
"モンスターVM"を倒して平和な世界を手に入れたセガゲームス
ユーザー事例講演には、セガゲームスの戦略企画統括部 共通基盤開発部 インフラDB課 麻生恭兵氏が登壇。「セガゲームスが仮想化ストレージで"モンスターVM"を倒した話」と題し、Tintri導入の経緯と効果を明かした。
セガゲームスは、PCやスマートフォン向けに『ファンタシースターオンライン 2』、『ぷよぷよ!!クエスト』、『オルタンシア・サーガ ‒蒼の騎士団‒』といった人気ゲームを展開。麻生氏は、開発者に提供するITインフラ基盤の管理を担当する。基盤上には約3,000台の仮想マシンが稼働しており、約10名のインフラエンジニアが管理していた。
ビジネスに直結する重要システムだったものの、パフォーマンスを食いまくる"モンスターVM"に日夜悩まされていたという。「問題はそのVMを特定することができなかったこと。ほかのVMのパフォーマンスが著しく低下していたため、ストレージのパフォーマンスモニタを見ても正体がわかりませんでした」(麻生氏)
原因を追求するために数週間かけて仮想マシンを1台1台調査していき、ようやく「あるユーザーがログのサルベージ作業をしていた」ことを突き止めることができた。そこで仮想マシン単位でのパフォーマンスの可視化が必要だと痛感したという。このほかにも、単一障害点の障害によって本番ストレージが停止したことや、負荷の関係によりバックアップが1日1回しかとれていなかったことも課題だった。こうしたノイジーネイバー、可視化、可用性、バックアップの頻度といった課題を解消するために選ばれたのがTintriだ。
「候補となった4社のストレージに対して、スナップショットやリカバリなどが有効に機能するか、性能が安定しているか、障害発生時にどのくらいで復旧できるかなどを検証しました。Tintriは自動QoSによってモンスターVMが出現したときに自動的に対処してくれること、仮想マシンごとのパフォーマンスの可視化ができること、スナップショットによるバックアップ時間の短縮が可能なことなどを評価しました。特に自動QoSはほかとくらべて最も評価が高かった特長です」(麻生氏)
Tintriを導入したのは2016年。ハイブリッドモデルを選択したが、フラッシュファーストや自動QoSなどの技術によってオールフラッシュと同等のパフォーマンスが出ている。実際のアプリケーション環境に近いブロックサイズやRead/Write比率を使って負荷をかけ、十分な性能が出ることを確認。また、可用性については他社と比較してディスク障害が発生したときの影響がほとんどなかった点を、スナップショットについてはパフォーマンス劣化なく1時間に1回取得できる点を評価した。
こうしてTintriによってモンスターVMを倒し、平和な世界を実現したセガゲームス。現在はティントリアナリティクスの分析機能を活用してビジネスニーズに迅速に応えられる体制を整えている。麻生氏は「ビジネスプランに応じたストレージの拡張をシミュレーションで将来予測しています。Tintriを何台追加したらどのくらいパフォーマンスに余裕がでるかなどをすぐに確認できるのでとても便利です。ぜひ試してみてください」とアドバイスした。
新ビジネス「Racdes」を開発したワールドビジネスセンター
2つ目のユーザー事例講演には、京都を拠点にITシステム開発やITサービスを展開するワールドビジネスセンター(以下、WBC)が登壇。ソリューション事業本部 ソリューション営業部 部長 奥田健二氏、同部サービス企画課 主幹 稲澤孝規氏、同課 係長の西口智氏の3名が「『つかいやすさ』と『安定性』だけじゃなく『ビジネスに効く』Tintriレポート」と題して、Tintriを使ってどうビジネスを立ち上げ成長させていくのかという同社の経験を明かした。
WBC ソリューション事業本部 ソリューション営業部 部長 |
WBC ソリューション事業本部 ソリューション営業部 サービス企画課 主幹 稲澤孝規氏 |
WBC ソリューション事業本部 ソリューション営業部 サービス企画課 係長 西口智氏 |
WBCは1966年にデータエントリー事業で創業した老舗IT企業だ。Novellの日本総代理店としてネットワークOSの国内展開や、日本初の日本語対応NICを製造販売した実績がある。その後、大学や病院に対してのシステム運用管理で事業が大きく成長。現在は、約400軒の病院で導入されている自社開発の診療録管理システム「M.reco」や、インシデントを収集してヒヤリハットの防止や情報共有を行うインシデントレポート管理システム「@iras」などを展開する。
Tintriとの出会いは、そうした大学や病院向けサービスにおける課題に対応しようとするなかで生まれた。「40以上の大学、40弱の病院にスタッフが常駐して、システム運用管理やヘルプデスクなどのサービスを提供しています。デスクトップ環境からまとめて管理してくれないかという要望を受け、VDIサービスを企画。その基盤としてTintriを採用しました」(奥田氏)
ティントリの営業担当者がビジネス企画から一緒に検討してくれたことが決め手となり、クラウド型のVDIサービス「Racdes(楽です)」の開発につながった。Racdesはストレージ基盤にTintriを用いることで、大学や病院などからも安全で高い可用性のもとで利用できるサービスだ。大学や病院だけでなく、企業や組織が拠点を超えてサービスを利用したり、BYODやシャドーITの問題に対応したりするうえでも有用だ。
Racdesを提供するにあたり、実際の環境にTintriを設置して検証を行った。1,200VMが稼働する環境にチューニングなしに導入したにも関わらず、Windowsのログイン時間は約1分から約30秒に、プロビジョニングは100台あたり30分へと半減したという。ディスクの読み書き速度は現行システムと比較して約10倍になった。
VDIビジネスを推進する稲澤氏は「サイジングやパフォーマンスチューニングも不要で、保守性が大幅に向上しました」と、難しいことを考える必要がなく、とにかく簡単に運用できることを高く評価した。
また、検証を担当した西口氏は、汎用のデータストレージやハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)に触れながら「今後、クラウド基盤はネットワークも含めた仮想化が進んでいくと考えます。Tintriはそうした基盤のなかでも独自のコンセプトを持っています。新たにAWSへのデータバックアップなどといったクラウド連携も可能になりました。当社にとっては、ビジネスそのものに"効く"基盤です。機器やソフトウェアだけでなく、一緒に知恵も働かせてくれることに心強さを感じています」と話した。
ユーザーが本音で議論したパネルディスカッション
イベントのなかでも特に盛り上がったのは、ユーザーが参加したパネルディスカッション「~ユーザーさんいらっしゃい!~」だ。パネリストは、あずさ監査法人の中林朋亮氏、スズキの福屋武之氏、T&D情報システムの阿久津昌史氏、BSNアイネットの坂田源彦氏、三菱電機インフォメーションネットワーク(以下、MIND)の藤原正章氏の5名。モデレーターは、週刊BCN編集長の畔上文昭氏とティントリジャパンの技術本部長 村山雅彦氏が務めた。
まずはそれぞれの課題と導入の経緯が紹介された。
あずさ監査法人
あずさ監査法人は、2014年から監査ツールの専用基盤としてTintriを導入している。監査ツールは監査フローを電子的に管理するKPMGグローバル標準のツールを提供するシステムだ。
中林氏はTintriとの出会いについて「バックアップとリストア運用が煩雑という課題を抱えていました。監査にまつわる重要データのロスを防ぎ、確実に復旧できる基盤として導入しました」と話した。
スズキ
続いて、スズキの福屋氏が自社の環境を説明した。同社は今後のVDI環境の拡大をにらみ、開発基盤のストレージとして2017年4月からTintriの検証を進めている。
「VDIユーザーは1万台規模になる見込みで、I/Oが集中することによるスローダウンが懸念材料としてありました。リソース検討工数や管理工数の削減なども目指しています」と福屋氏。
T&D情報システム
情シス会社の視点から意見を述べたのは、生保3社を中核とするT&D保険グループのIT戦略会社であるT&D情報システムの阿久津氏だ。同社は、2016年7月にTintriを導入し、太陽生命を中心に本社と全国160拠点で利用するシンクライアントの基盤として活用する。
「本社の600台から拠点の4,300台に拡大する際に、高負荷でも安定したパフォーマンスが出ることを評価して導入しました」と阿久津氏は話す。
BSNアイネット
続いて、BSNアイネットの坂田氏が経緯を説明。同社は、昨年50周年を迎える老舗企業だ。Tintriを導入したのは2016年で、現在は社内部門サーバ用の仮想化基盤として活用している。
坂田氏は「社員にサーバ作成の権限まで与えていたのでVMが乱立しストレージのパフォーマンスが追いつかず、運用で苦労していました」と経緯を語った。
MIND
最後は、三菱電機グループをはじめとして一般企業向けにクラウドやネットワーク、アプリケーションなどのITソリューションをワンストップで提供するMINDだ。Tintriの導入は2011年と早く、最近ではクラウドサービスのストレージとして全般的に活用している。
「ブロックストレージでのLUN設計の難しさに辟易としていました。Tintriの簡単さに非常に満足しています」と藤原氏は振り返った。
Tintriがもたらした効果と今後に対する期待
導入時期こそさまざまな5社だが、Tintriに対する期待度や満足度はとても高かった。例えば、導入検討時にほかに気になる製品はあったかとの質問には、あずさ監査法人の中林氏は「バックアップの課題に対応するためだったのでTintri一択でした」と強調。また、スズキの福屋氏が「2社と比較しましたが運用負荷を下げたいというニーズに強く合致したのはTintriでした」と言うと、BSNアイネットの坂田氏も「NFSで管理できる点を評価しました。管理が楽なので新入社員でも問題なく使えます。スキル継承がしやすいのが魅力ですね」と深く同意した。
続いて、最近多くのユーザーが気になっていると思われる質問「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)と比較してどうか」が飛んだ。真っ先に回答したのはHCI利用経験があるスズキの福屋氏だ。「HCIの通常時の性能には不満はありませんでした。今後のVDI環境の拡大をにらみ、障害発生時や負荷集中時に性能が劣化するのではという懸念がありました」と福屋氏。それを受けてT&D情報システムの阿久津氏も「規模と運用面を考えるとTintriが最適だと考えます」と、中規模以上のシステム運用におけるHCI利用の難しさを訴えた。
HCIと同じく比較検討の対象になるのはクラウドだ。クラウドサービスとどういった比較を行ったかについて、あずさ監査法人の中林氏は「固定的に大きなデータを保管するシステムが多い環境です。こういった環境の場合、クラウドは割高になりやすいという課題があります」と、コスト負担の高さに触れた。BSNアイネットの坂田氏も「5年間のランニングコストで比較すると、クラウドは3年を待たずしてオンプレを上回ります。コストという観点ならオンプレが有利でしょう」と強く同意した。
では実際にTintriを導入した効果はどうだったのか。これについては「バックアップ/リストアが大幅に簡素化された」(あずさ監査法人の中林氏、スズキの福屋氏)、「仮想デスクトップの展開作業が大幅に削減された」(T&D情報システムの阿久津氏)、「圧縮率2.7倍、フラッシュヒット率99%という高品質な環境」(BSNアイネットの坂田氏)、「緊急対応時における仮想マシンのリストアがとても迅速で、顧客に迷惑をかけることなく実施できたこと」(MINDの藤原氏)といった声が矢継ぎ早に上がった。
これらはティントリの顧客メリットとしてよく知られたところだが、さらに副次的な効果もあったという。例えば、あずさ監査法人の中林氏は「フラッシュモデルでは圧縮効果が予想以上に高かったことがうれしい誤算でした。そのため、ラックスペースや消費電力を大幅に削減できました」とした。ほかにも、「ディスクの存在を意識しなくなった」(T&D情報システムの阿久津氏)、「ストレージとしての専門性が必要とされなくなり属人性が排除された」(MINDの藤原氏)といった効果が見られたという。
では、今後の取り組みや新機能への期待にはどんなものがあるのか。MINDの藤原氏は「Tintriのさまざまな機能をユーザーに開放したり、OpenStackなどとの連携を図ったりしていきたいと思っています。例えば、仮想マシン単位でリモートデータ保護を行うReplicate VMを活用したサービスメニューを開発したり、REST APIを活用したセルフサービスポータルの提供などです」とTintriの機能を活用したサービス開発に意欲を見せる。また、あずさ監査法人の中林氏は「スケールアウトへの対応を進めていきたいです。先ごろ発表があった40GbE対応したオールフラッシュ新製品に期待しています」と新機能に期待し、T&D情報システムの阿久津氏も、「PoCや開発検証機などとして使える小型モデルを提供してほしい」と製品ラインアップの拡充を求めた。
こうしたユーザーからの要望について、最前列で熱心に話を聞いていた米国ティントリ社 CTO & Co-Founderのキーラン ハーティ氏も、飛び入りで議論に参加。そのうえで「そうした要望があることはよくわかります。意見をよく聞いて製品化につなげています。さきほどの要望についても実は……」と、米国でも未発表だったPoCや開発環境、エントリーモデルの新製品「T1000」の開発状況を世界で初めて明かすなど、うれしいハプニングまであった。GUI画面での表示改善やHTML5対応など、パネラーの要望にその場で回答し、即座に製品化の約束までするハーティ氏の姿に、会場はヒートアップしていた。
このほか、来場者も参加する○×アンケートでは、「GUI画面の使い勝手、オールフラッシュへの興味」、「HCIの導入意欲」、「新機能のクラウドバックアップの利用意欲」、「アナリティクス機能の利用具合」などが質問された。HCIを導入したいかについては×が多かったりと、予想外の回答に盛り上がるシーンが見られた。
AIを使ってコマンドもAPIも不要になるセルフサービス機能を提供
最後にイベントを締めくくったのは、ハーティ氏による講演「今後の製品開発計画について」だ。CTOとしてすべての技術開発をリードするハーティ氏が近日中に実現する機能と、将来的に提供を予定している機能についてデモを交えながら紹介した。
近日中に対応を予定するものとしてはまず、Tintri単体のUIと、複数のTintriを一括して管理できるツールTintri Global Center(TGC)の統合がある。2つの異なるUIを統合し、HTML5ベースにしてスマートフォンやタブレットなど多くの環境に対応できるようにする。統計情報もリアルタイムに更新されようになる。
また、TGCを使って、複数システムを一括アップデートできる改善も施される。Centralized VMstore Upgradeと呼ばれており、これにより、大規模環境下での管理性が大きく高まることになる。
さらに、将来的には、日本のユーザー企業からの要望を取り入れた機能としてリアルタイムデータ複製(Synchronous Replication)の自動フェイルオーバー機能(Automatic Failover)が提供される予定だ。Synchronous Replicationは遠隔地でリアルタイムにデータを複製する機能だが、何らかの障害が発生しても自動でフェイルオーバーされるようになるため、可用性はさらに強固なものになる。デモでは2つのTintri間においてゼロダウンタイムでデータを復旧する様子を示した。
将来的に提供する予定の機能のうち、ストレージの在り方を変えるとまで言っていい機能がAIを活用したSelf Serviceだ。スマートフォンなどからチャットボットに向かってTintriの状態を問いかけると「IOPSは○○」などと答えを返す。ポイントは、単なるステータス把握だけではなく、AIエンジンのAlexaを組み合わせることで自然言語でのコミュニケーションが可能なことだ。「VMが遅いが解決策は?」と質問すると「ストレージの空き領域を増やしてください」などとTintriが解決策まで提案してくれることも夢ではなさそうだ。
ハーティ氏は「コマンドもAPIもUIすら知る必要がなく、利用者はVMをデプロイできるようになります。仮想インフラの管理者が何の手を掛けずとも、エンドユーザーが気軽にVMをデプロイできる環境を作ろうとしています」と説明した。
今年のTintricityは前年にも増して、ベンダーとユーザーが一体となって製品づくりを進めていることをリアルに感じさせるイベントだった。ティントリが単なるストレージハードウェアのベンダーではなく、ソフトウェアを重視して他社をさらに凌駕していく機能拡張が計画されていることもわかった。これからも進化を続けるティントリの今後の展開から目が離せない。
[PR]提供:ティントリ