IT業界のエンジニア不足が深刻化する中、未来を見据えてエンジニアの確保は企業の大きな課題となっている。とはいえエンジニアそのものの絶対数が足りない現状では、採用活動も激しい競争になり、思うように人材を確保するのは難しい。経済産業省が2016年に発表したIT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果によると、IT人材は現在約92万人で、約17万人が不足。今後はさらにエンジニアの需要が膨らみ、将来的に、2020年に約37万人、2030年には約79万人が不足するとされている。
それならばいっそのこと、自社の将来を担うエンジニアを自前で発掘・育成してしまってはどうか。コンタクトセンターとITソリューション事業を軸とするKDDIエボルバは、2017年7月18日、エンジニア未経験者のキャリアチェンジを支援するITスクール「Swing IT(スウィング・アイ・ティ)」を開校した。開校を目前にした7月上旬、東京・新宿の同社を訪れ、話を聞いた。
「できるようにする」という意味の英語表現「Swing it」がベースとなり、さらに「SWING」は、「Server」「Wireless」「Infra + IT」「Network」「Grow」といったIT関係のキーワードの頭文字から構成されている |
エンジニアへの登竜門を増やし、まずは裾野を広げるコンセプト
スクールでは、まず何よりエンジニア自体の数を増やす、裾野を広げるというコンセプトから、未経験者のキャリアチェンジをターゲットとした。開校当初は「ネットワークエンジニア・スタートアップコース」の1コースで、「デイリー」「デイリーナイト」「デイリーナイト+サタデー」の3つの受講プランから選ぶことができる。各プランは定員8名の少人数教育だ。カリキュラムとしては、インターネットやTCP/IP、ルーティング、スイッチングについて基礎から学ぶことができ、さらに作業の実践で役立つトラブルシュートも含まれている。ITの基礎に関する知識を伝えるだけでなく、現場での作業に直結する実体験を伴った教育も実施する。
「普段、当たり前のように使っているインターネットですが、実際にどういう仕組みで、なぜつながるのかという知識を持っている人はけっして多くありません。まずは基礎から入って、少しずつ理解を深めていただきます。一方では、実際にネットワーク機器などにも触れ、仕事でどう役立つのか、イメージを固めてもらいます。カリキュラムは、イメージが知識に変わり、知識が知恵に変わっていくように考え、座学と実技が半々になるように構成しています」
KDDIエボルバ ITソリューション事業本部 採用・教育グループの森際 繁仁氏はそう語る。
修了者には実際にエンジニアとして活躍する道も提供していく考えだ。業界全体にエンジニアを供給するとともに、スクール修了者が同社のエンジニア採用に応募する場合は採用選考の一部を免除し、入社が決定すると受講料の一部をお祝い金として支給する特典も用意している。
当初はエンジニア未経験者のキャリアチェンジを対象にスタートするが、将来的にはITの知識や経験をある程度持つ人材がさらに上流を目指す、キャリアアップをサポートするためのカリキュラム展開も視野に入れている。
社内研修の経験から蓄積された教育のノウハウ
KDDIグループを中心に、さまざまな企業へ多数のエンジニアを送り出してきたKDDIエボルバにとって、慢性的なエンジニア不足は深刻な悩みだ。採用活動も厳しい中、同社では、エンジニア自体を増やしていく必要性を痛切に感じた。そこで、ITに興味はあるものの、経験がないためIT業界に足を踏み入れることをためらっている人材に訴求し、エンジニアへのキャリアチェンジを実現する環境を構築するため、今回のスクール開校に踏み切ったという。
スクールを開くと一口にいっても、物事を教えるには知識はもちろん教えるスキルも必要だ。同社にIT知識が蓄積されていることはいうまでもないが、では教えるスキルという面ではどうなのだろうか。森際氏は次のように説明する。
「当社KDDIエボルバは、約450名のエンジニア社員が在籍し、インフラの運用から設計構築、上流開発案件まで幅広くサービスを提供しています。これまでのITソリューション事業を通じて蓄積してきた、エンジニアの教育研修とキャリアアップのノウハウを、エンジニア未経験の人、基礎知識を習得したいと考える人を育てるために活用できるのではないかと考えたことが、今回のスクール開校の背景にあります」
外部に門戸を開くスクールという形では初めてだが、これまでにも社内でITに関する導入研修やステップアップ研修を地道に行っていた。同社には未経験で入社した人もいれば、エンジニアとしてさらに上を目指す人もいる。
社内には「IT研修室」と呼ばれる部屋がある。ここにはネットワーク機器の実機(ルーター、スイッチ等)が据えられ、ホワイトボードなどで学ぶ座学以外に、業務に直結する実践的な研修も行われる。
研修プログラムは、同社のエンジニアの多くをインフラ関連の技術者が占めることからネットワーク系とサーバー系に厚みを持ちつつ、そのほかにもデータベース系やプロジェクト管理など多岐にわたる。研修プログラムの数は、ネットワークの基礎の基礎から応用、トラブルシュートまで64に及ぶという。ITの基礎から応用までをしっかりと教育しつつ、受動的ではなく積極的に自ら学ぶ姿勢の大切さを常に伝えてきた。
最先端技術、トレンドを知る現役エンジニアが考える研修ノウハウを社外に向けて活用していくことは数年前から検討を進めてきたが、昨今のエンジニア採用マーケットの高騰継続を受けて、今回のスクールの話が具体的な形をもって動き出した。今後も採用市場高騰は継続見通し。じゃあ当社で育てるところから始めようという発想で誕生。IT研修室の存在や、現役エンジニアで社内研修プログラムを構築してきたことが、スクール開校の確固たる土台となっている。ITスクール「Swing IT」の講師も、社内研修で教えてきた現役エンジニア社員がその経験を活かす形で担当する。
座学と実践のバランスがとれた現場に役立つプログラム
ITスクール「Swing IT」の"前身"とも呼べる、IT研修室。この部屋で実際に社内研修を受けエンジニアとして成長し、現在同社で活躍している社員にも話を聞いた。
入社4年目となる竹田 恵里花氏は、エンジニア未経験でKDDIエボルバに入社。いまは法人向けネットワークの設定と試験を業務としている。入社前、ホームページを作るなど趣味としてネットワークに触れることはあったが、仕事としてはまったく未知の世界だった。しかし入社後に研修を受けて、ネットワークへの興味が一段と深まった。
「研修では本当に基礎の基礎から、たとえば電柱がどうつながっているかといったところから勉強しました。研修を受けてからは、街中を歩いているとつい電柱を見上げるようになりました(笑)」
未経験だったため当然不安はあったが、研修の講師はいつも元気づけ、励ましてくれたという。
「未経験者でも研修を受けることでエンジニアになれることを実感しました。技術職はどうしても女性が少ない職場なので、今回のスクール開校をきっかけに、女性の方に興味を持ってもらえたらうれしいですね」と竹田氏は語る。
ネットワークの運用設計を担当している伊藤 祐太氏は、前職もIT業界。とはいえ携帯電話端末の評価業務がメインだったため、ネットワークはいわば畑違いだった。ボランティアで2年間のアフリカ生活を経て帰国後、KDDIエボルバに入社。通信環境が整っていないアフリカでの体験がきっかけとなり、ネットワークに携わりたいと考えたそうだ。
「研修は、座学でしっかり学ぶのはもちろんですが、実機を使った実践経験が多いのも特徴です。物理的に壊れたケーブルを使い、どこに問題があるのかを見抜かせる研修もありました。引っ掛けのようにも思えますが、トラブルの原因としてはよくあることです。実際に経験しているとイメージができるので、そうしたトラブル解決の学びが現在の業務でも大いに役立っています」
研修を経て育った先輩たちも、新しいスクール「Swing IT」がIT業界でエンジニアを目指す人たちの窓口になること、そしてスクールを巣立った人たちといつか一緒に働けることを、心から期待している。
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