2017年5月23日、東京・竹橋のマイナビルームにて「オスラム オプトセミコンダクターズ LEDセミナー 2017」が開催された。同セミナーは、オスラム オプトセミコンダクターズの可視光LED、赤外LED、レーザー製品とその最新技術動向について幅広く解説するもの。同時進行する複数のセッションの中から、聴講者がそれぞれ関心のあるテーマを選んで参加する分科会形式をとった。本稿では、注目度の高い一般照明用LED、ウェララブル関連製品、光センシング/レーザーなどのテーマを中心に、セミナー当日の講演内容を報告する。

セミナー冒頭の全体会では、オスラム株式会社 代表取締役社長の飯田 大介氏から、最新の会社情報や業界動向、マレーシアに建設中のLED新工場などのトピックについて説明があった。

日本照明工業会の調べによると、国内照明器具市場における出荷(昨年度実績)は93.6%がすでにLEDになっており、今年度には97%を超え、限りなく100%に近くなると見られている。また、省エネ効果や長寿命といった従来LEDに求められてきた価値に加え、IoT、コネクテッド分野で新しいLEDの用途が出始めていることも注目される。飯田氏は「2020年の東京オリンピックに向けて、LED市場はますますの規模拡大とともに、新しいフェーズに入っていく」との展望を述べた。

オスラム株式会社 代表取締役社長 飯田 大介氏

ドイツに本社を置くオスラム全体の業績としては、2016年度に37億8000万ユーロ(前年比5.9%増)の収益を上げており、LED事業部門であるオスラム オプトセミコンダクターズの収益は全社の3割強を占めている(同年第4四半期)。これまで自動車関連市場で大きなシェアを安定的に確保してきた同社だが、現在は、成長率の高い一般照明用LED市場での優位性を高めることを重要な目標としている。同市場のシェアは2位以下に複数のライバル企業がひしめく混沌とした状況となっている。このため、同社としては、まず「圧倒的な2位」のポジションを確保することを目指すとしている。

圧倒的な競争力を実現するため、マレーシアのクリムでは、LEDチップ生産(前工程)の新工場を建設中である。すでに装置の搬入が始まっており、2017年11月にはパイロット生産を開始する予定という。第1フェーズでの生産能力は、6インチウェハーで週産1万2000枚とする。工場が完成しフル稼働となれば、世界最大級のLED用6インチウェハー工場になる。

10°ビニングの推進で「光の色の質」の高いLED照明を提供

一般照明用LEDについては、同社SSLマーケティングマネージャーの瀧 哲也氏が講演した。発光効率の向上や低価格化といった従来からの要求に加え、近年のLEDでは「光の色の質」が重視されるようになってきた。このため、LEDごとのバラつきを抑え、光の色の質を保つ狙いから、最近になって「10°ビニング」と呼ばれる新しい選別方式が策定されている。同社では現在、この10°ビニングに準拠したLED製品の普及を進めているという。

10°ビニングとは「人間の目の見え方により近くなる新しい選別方式」であると瀧氏は説明する。LEDを含む照明器具全般の光の色の品質基準として、照明業界では1931年に策定された「CIE 1931 2°xy」という規格が長年にわたり用いられてきた。この規格を満たした製品は、光の色のバラつきが小さく抑えられており、同じ色で発光しているとみなして工場から出荷される。しかしながら、同規格を満たしているLEDライトで照らした場合でも、人間の目で見るとかなり違った色に見えてしまうことが実際にあるという。

オスラム株式会社 SSLマーケティングマネージャー 瀧 哲也氏

こうした現象が起こるひとつの理由として、従来規格である「CIE 1931 2°xy」の土台に「2°の視野角でモノを見る」という前提条件があったことが挙げられている。人間が実際にモノを見るときには、視野角2°という狭い範囲でしか見ていないということはなく、もっと広い範囲を同時に見ているのが普通である。そこで、広い視野角でのモノの見え方を反映させた新しい規格を作り、人間の目で見たときの実際の色の見え方に近づける必要があるということで検討が重ねられ、2015年に「CIE 2015 10°u'v'表色系」という新規格が策定された。

新規格では視野角10°での見え方が想定されている。また、従来規格では三原色の成分比によって色を数値化する「色度座標」が用いられてきたが、新規格では色度座標上の2点間の距離に基づいて座標を変換した「色差座標」が採用されている。この変更は、人間の目の見え方に「色度よりも色差に敏感に反応する」という特性があるためであるという。

10°ビニングは、この新規格に基づく選別方式であり、従来よりも選別の基準は厳しくなるので、より高度な製造プロセスコントロールと品質管理が必要となる。同社では、これまでに蓄積してきたLED製造技術を駆使して、10°ビニングに準拠した高品質なLEDデバイスを提供していくとしている。

光の色の質を細かく制御できることは、同社のLED製造技術の大きな特徴である。これによって、さまざまな用途に最適化したLED製品を提供できるようになっている。たとえば、緑成分を排除して純白を演出できる「ブリリアントホワイト」、色の鮮やかさを追求してコントラストを改善した「ブリリアントカラー」などの製品シリーズがあり、美術館や店舗照明などで多く採用されている。

植物育成においては、葉緑素が吸収しやすい波長450nmおよび660nm付近の光が重要であり、これらの波長を多く含んだ光を当てることで植物の光合成を促進させることができる。また、波長660nmおよび波長730nmは、花の開花の制御に利用できる。同社では、これまで植物育成用に450nmの高出力LEDを提供してきた。これに加えて660nmについても、つい最近、世界最高出力のLEDの製品化に成功している。

また、「食べ物をおいしく見せる光」も、同社のLED開発のテーマのひとつとなっている。これについては、食品向け照明用LEDのサンプル出荷を今年の7月頃に予定している。食品の色を鮮やかに見せ、色のメリハリを利かせた演色性が実現できるという。このように、衣・食・住のさまざまな場面に合わせ、光の色の質にこだわったさまざまなLEDの提供を行うことで新しい市場の開拓を進めているところに、同社のLED照明事業の特徴があるといえる。

ウェアラブル機器での利用が拡大するLED/レーザー

今後の市場拡大が予想されているウェアラブル機器では、液晶バックライトやプロジェクターの光源、計測用途などで、LEDやレーザーが数多く使用されることになる。ウェアラブル分野での同社の取り組みについて、IR マーケティングマネージャー 大熊 宏氏と、VIS LED マルチマーケット アシスタントマネージャー 矢崎 墾氏が講演した。

同社では、ウェアラブル関連のアプリケーションとして、「スマートウォッチ」「フィットネス」「メディカルヘルス」「AR/VRグラス」「テキスタイル」「カメラ」といったセグメント分けをしており、それぞれの分野に適したLED/レーザー製品の開発・提供を進めている。

「ARグラス」は、操作可能なPCキーボードを現実の空間上に重ねて投影するなど、メガネ型のデバイスを通してさまざまな拡張現実を提供するもので、2020年には900億ドルの市場規模が見込まれている。ヘッドマウントディスプレイなどで仮想現実への没入感を作り出す「VRグラス」についても、同年までに300億ドルの市場規模が見込まれる。

AR用プロジェクター光源としてのLEDでは、赤・青・緑の三原色の実装構造の違ういくつかの種類のデバイスがあるが、現在主流となっているのは人間の目で明るさをとらえやすい緑色の光源を独立させ、赤と青を1パッケージのLEDにまとめた2chタイプの製品である。また、三原色を1パッケージ化した1chタイプについても需要が出始めてきているため、市場の動きを見ながら製品投入を検討しているところであるという。

VRグラス向けに使用される同社製品としては、表示・イルミネーション用およびバックライト用の可視光LED、視線検知用の赤外LED、位置測定用のフォトダイオードなどがある。視線検知は、VRグラスの着用者がいまどこを見ているかを検出し、視線の方向だけ映像の解像度を高めるといった用途で利用されており、すでに市場に出回っているヘッドマウントディスプレイでも、この機能向けに同社の赤外LED製品が採用されている。

テキスタイル向けでは、導電性繊維と組み合わせることで衣服にLEDを組み込んで光らせるといった用途が出てきている。アパレル業界をはじめ、カーテンなどのインテリア家具にLEDを組み込むといった使用例もある。同社製品の中では、布地の裏側からLEDを装着する場合には円型実装タイプの製品「PointLED」、小型薄型の「CHIPLED」などがテキスタイルへの取り付けに適している。矢崎氏は「アパレルは色が命といってもよく、光の色の品質に強いオスラムの強みが生かせる分野だと考えている」とアピールしていた。

オスラム株式会社 VIS LED マルチマーケット アシスタントマネージャー 矢崎 墾氏

生体モニタリング向けでは、心拍数や血中酸素濃度を測定するリストバンド型ヘルスケア機器ですでに採用実績をあげている。また最近では、リストバンド型だけでなく、イヤホンやメガネに内蔵するタイプなどさまざまな使い方が出始めているという。

心拍数測定では、緑色の可視光LEDを血管に向けて照射し、反射して戻ってきた光を受光素子で受け、その差分を取ることで血管の膨張収縮を測る。血中酸素濃度の測定は、赤色LEDと赤外LEDを使って、赤色光と赤外光の2波長に対する血中ヘモグロビンの吸収率の違いをもとに推定する。

こうしたベーシックな用途では、同社製品がすでにかなりのシェアを占めており、今後は、血圧、血中アルコール濃度、血糖値など、新たなモニタリングへの要求に対応していく。また、それらの情報をもとにしたストレスレベルの測定など、付加価値のある製品開発に取り組んでいくとする。

生体モニタリングシステムは、LEDやフォトダイオードなどの光学素子のほか、アナログ素子(LEDドライバ、フォトダイオード用アンプ、信号処理など)、マイコン、モーションセンサ、アルゴリズムといった構成要素から成り立っている。このうち、同社が自社単体で提供できるのは光学素子(オプティカルフロントエンド)の部分になるが、他の要素についてもパートナー企業との緊密な連携関係を取って製品開発を進めている。「製品やアプリケーションのアイデアがあれば、当社を相談窓口としていただきたい。連携企業とのネットワークを使って、アイデアを実現できる総合的な事業開発体制を整えている」と大熊氏は話していた。

光センシング/レーザー市場で注目される新アプリケーション

光センシングと半導体レーザー市場に向けた同社の取り組みについては、大熊氏が講演した。

レーザー製品はもともと産業用途で同社が長年手がけてきた分野だが、最近は自動車向けの測距用センサー(LiDAR)の需要が拡大し、大きな市場に成長。同社はこの市場に向けた赤外レーザーで9割以上のシェアを占める最大手のポジションを確保している。また、可視光レーザーについては青と緑の製品を持っており、車載用で実績がある。緑色レーザーについては業界売上1位となっている。

オスラム株式会社 IR マーケティングマネージャー 大熊 宏氏

今後の成長が期待できるアプリケーションとしては、「生体認証」「3Dセンシング」「バイオセンシング」「AR/VR」の4分野があげられている。以下、「生体認証」と「3Dセンシング」の動向について概要をまとめる。

モバイル機器での生体認証の対象には大きく分けて「指紋」「顔」「虹彩」「手のひら(静脈)」の4つがあり、このうち顔・虹彩・手のひらの認証では赤外光源の使用が不可欠となる。

顔認証では昼夜問わず認証するためにカメラと赤外線の組み合わせが必須。3Dセンサーで顔の深さ方向の情報を取ることで、顔写真による認証を防ぐといった用途でも赤外レーザーの利用拡大が期待されている。虹彩認証も、さまざまな人種の目の色に対して虹彩を読み取れるようにする必要があるため、赤外光源が必須であり、同社ではこの用途に適した波長810nmの赤外LEDの提供を行っている。手のひら認証はセキュリティーの度合いが高く、銀行ATMなどで一部採用事例がある。モバイル機器での採用事例はまだあまりないが、今後は自動車向け認証などで採用される可能性があり、同社が注目しているアプリケーションの1つであるという。

3Dセンシングは、画像情報に深さ・奥行き方向のデータや位置データを付加することにできる新技術。製品化の事例はまだ少ないが、カメラのオートフォーカス機能、屋内ナビゲーションや建築用スキャニング、自走式デバイス/ロボット、ARグラスなどでの位置検出、生体認証、自動車向けなどに幅広く応用できるため注目されている。

レーザーを用いた3Dセンシング技術には、いくつかの方式がある。このうち、ストラクチャードライト方式は、回折光学系(DOE:Diffractive Optical Element)を介して幾何学的にできた光パターンの歪みから奥行き情報を得る技術。発光側には赤外レーザー、受光側には赤外カメラが使われる。近距離での測定向けであるため、ジェスチャーセンサーや顔認証などに適しているとみられる。

TOF(Time of Flight)方式では、赤外パルスレーザーまたはVCSEL (Vertical Cavity Surface Emitting Laser)から発した光が対象物に反射して戻るまでの時間を受光部1ピクセルごとに測り、これをもとにした計算によって奥行き情報のマップを作成する。同社では、これまでに実績のある赤外パルスレーザーに加えて、VCSELも今後1年以内の製品化を目指して開発を進めている。「VCSELはLEDとパッケージがよく似ているので、オスラムがVCSELを作ることはスケールメリットが大きい」と大熊氏は述べた。

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