2016年のNHK大河ドラマをきっかけに「真田の郷」として注目を集めた長野県上田市に、70年の歴史を持つ「信州ハム」の本社と工場がある。

代表取締役 社長の宮坂正晴氏が「多くの製品を作っていますが、中でも1975年から発色剤や着色料などの添加物を一切使用せずに製造している『グリーンマーク』シリーズと、本物の味を目指して開発した『爽やか信州軽井沢』シリーズは弊社を代表するブランドです。特に健康志向にマッチしたグリーンマークの売り上げは近年大きく成長しています」と語る通り、安全性と味の良さが消費者から高く評価されている食肉加工メーカーだ。

2017年に設立70周年を迎える「信州ハム」

信州ハム 代表取締役 社長 宮坂正晴氏

原料肉の入荷から包装までの工程をカスタム Appで管理

食肉加工製品をつくり上げるまでには、原料肉の入荷・解凍から加工、包装、そして箱詰めして出荷という工程があるが、同社ではこのうち原料肉の段階から包装までの生産管理を行うためにFileMakerプラットフォームとiPadを導入した。FileMakerは、アプリの開発経験やITスキルがなくてもビジネスに最適なカスタム App(カスタムアプリケーション)を作成できる開発ツールで、実行環境も備わっているソフトウェアだ。

社内には、iPad Airが約50台あり、その大半はWi-Fi環境が完備された工場内で使われている。全台のiPadには無料のiOSアプリ「FileMaker Go」がインストールされている。なお、この生産管理システムのカスタム Appがホストされた「FileMaker Server」は、NTTのクラウドサービスで運用している。

新生産管理システムの初期画面。生産計画から始まる10の工程があり、それぞれの工程で重量や進捗状況を入力していく

工場内では製造・加工部門の各工程にiPadが置かれ、その工程での作業や計量が済むたびにデータを入力する。原料肉や水、調味液などを扱うため、iPadは防水ケースに入れられ、各工程の機器や重量計のそばに設置されている。そこで、画面上の一つひとつのオブジェクトは大きめに作られ、チェックボックスやポップオーバーといったFileMakerの標準機能を有効に使って、ケース越しでも見やすく入力しやすいインターフェースにしてある。

作業や計量などが済んだら、防水ケースに入ったiPadにデータを入力し、次の工程へ送る

防水ケースの上からでも見やすく、入力しやすいUIになっている

「小さく導入して大きく育てる」システムを目指して

信州ハムがFileMakerによる新しい生産管理システムの開発に着手したのは2015年。その背景を、経営企画部 部長(兼)社長室 室長 小口昇氏に聞いた。

信州ハム 執行役員 経営企画部 部長(兼)社長室 室長 小口昇氏

「20年以上前に導入した基幹システムは、サポート期間の終了やイレギュラーな生産工程への対応が困難といった問題が発生していました。加えて、現場で紙に手書きされた日報の情報を2人の事務担当者が1日がかりでExcelに入力、さらに必要に応じて基幹システムにも重複入力するという2重3重の手間がかかっていました。当然、生産量や歩留まり(製造ラインで生産される製品から不良製品を引いたものの割合)、原価などを把握するのに時間がかかり、精度も十分ではありませんでした」(小口氏)

FileMakerによるカスタム Appの内製化を選択した理由については、「システム開発業者に外注すると高額な費用がかかりますし、自社独自の工程に合うシステムの構築は困難です。そこで『小さく導入して大きく育てる』ことのできるFileMakerを採用しました」(小口氏)

初めてFileMakerを使い、半年足らずで現場テストに至った

生産管理のカスタム Appを開発しているのは、関連会社である株式会社信州ハムサービス 取締役 情報管理部 部長の土屋光弘氏と、情報管理部 システム開発室長(信州ハム生産管理部より出向)の織部航氏だ。

信州ハムサービス 取締役 情報管理部 部長 土屋光弘氏

2015年4月にFileMakerによるシステム内製化を提案したのは土屋氏だった。

「私は以前FileMakerを使っていましたが、しばらくブランクがありました。2014年の『FileMakerカンファレンス』に出向いたところ、食品メーカーの事例が目にとまり、FileMakerなら当社の新しい生産管理システムを構築できそうだと考えて提案しました」(土屋氏)

一方、かねてから古くなった生産管理システムの再開発を自ら手がけたいと考えていた織部氏は、VBAやC言語の経験はあったものの、FileMakerには触れたことがなかった。

土屋氏と織部氏は、公式トレーニング教材で自学自習をした後、提案の翌月にはファイルメーカー社の開発パートナー企業(FBA)のひとつ、U-NEXUSが主催する有料トレーニング「FM-Camp」を4日間受講した。トレーニングの内容は、受講者のニーズに応じて日数や内容をカスタマイズし、U-NEXUSが持つ開発ノウハウを用いてカスタム Appの内製化を支援するものだという。

このトレーニングと同時に生産管理システムのプロトタイプ作成をロースハム製造から開始。同年10月には現場テストが始まった。つまり、FileMakerを使い始めてから半年足らずで、現場テストができる状態のカスタム Appができたことになる。

土屋氏は「プロトタイプを短期間で作れたのが良かったと思っています。現場で使ってもらうことで理解が進み、改善要望もいち早く拾い上げることができたからです」とFileMakerによるシステム内製化のメリットを語る。

その後、マスターデータの整備や細かな修正を経て、2016年10月にハムとベーコンの生産管理システムが本稼働。2017年2月にはソーセージのシステムも本稼働となり、すべての製品が「新生産管理システム」で一元管理できるようになった。

「シチズンデベロッパー」のメリットを生かしたシステム構築

信州ハムサービス 情報管理部 システム開発室長(信州ハム生産管理部より出向) 織部航氏

数年前から「シチズンデベロッパー」という言葉を耳にするようになった。これは、プログラミングやシステム開発の専門職ではないが、カスタムアプリケーションの開発を担うビジネス現場の開発者を指す言葉だ。

新生産管理システムの開発を一手に引き受けている織部氏も、製造現場や生産管理に従事した経験がある。会社の本業の業務を熟知している社員がシステムを作り、それを実際に使う現場ユーザーとのコミュニケーションを積極的に図ることにより、使いやすく最適なシステムを短期間で構築できるのがシチズンデベロッパーによる内製化の大きなメリットである。信州ハムのカスタム Appはこのメリットを最大化した先進的な事例といえる。


歩留まり、従業員の意識、トレーサビリティと多くの効果が得られた

製造業にとって歩留まりは重要な数値だ。しかし以前のシステムで把握できるのは、原材料と完成品から割り出した歩留まりのみだった。工程ごとの変更などを厳密には記録しきれていなかったからだ。

新生産管理システムでは必ずすべての工程でデータを記録してから次の工程へと進むので、工程ごとの歩留まりが正確にわかる。しかも、以前は歩留まりがわかるまでに数日から1か月ほどかかったが、現在はリアルタイムで知ることができる。

「工程ごとの歩留まりに関してはデータが蓄積され始めたところですから、今が『元年』と言えるでしょう。今後は前年比などの検討ができるようになるので、製造や販売の戦略にも有効です」(小口氏)

アカウントによって権限を細かく制限して割り当ててあり、管理者は自動計算によるレポートもすぐに参照できる

また、従業員の意識にも良い影響があるという。宮坂社長は「会社の経営判断に関わる重要な数値を自分でシステムに入力するわけですから、現場の参画意識やモチベーションが向上したと感じています。システムを改善してほしいという現場からの声に迅速に対応できるのも、内製化の大きなメリットです」と語る。

そしてトレーサビリティの向上にも大きな役割を果たしている。「ある原料がどの製品に使われたのか」と製造工程の上流から追跡できるようになったと同時に、「この製品にはどの原料が使われたか」と下流からも追跡できるようになったからである。

生産管理の事務所には70インチの「BIG PAD」が置かれている。当日の進捗が工程ごとに大きなアイコンで表示されるため、状況や遅れなどがひと目でわかる。レイアウトはFileMakerでiPad用に作成したものだ

生産管理以外の可能性も広がる

新生産管理システムは、工場全体でまさに「小さく導入して大きく育てる」方向に進んでいる。

「現在は包装までの管理ですが、今後は出荷先の小売店まで追跡できるようにしたいと思っています。より確実に店頭まで追跡できるトレーサビリティを確立して、お客様に安全な食品をお届けしたいからです」と宮坂社長は今後の抱負を語る。

土屋氏によれば、包装部門からは資材の在庫管理の要望が、営業部門からも出荷先管理の要望が出ているそうだ。さらに商品開発室からも、製品レシピをデータベース化して一元管理したいとの声が上がっている。「生産管理がFileMakerで成功したのを見て、ほかの工程や部門からもシステムを開発してほしいという要望が多く寄せられています。これはとてもうれしいことです」と織部氏は言う。

今後は、システム開発の要員を増やし、さらにシステムを発展させていく予定だという。信州ハムにおけるカスタム App活用の可能性は大きい。

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