私たちの周りには多様な素材が溢れています。近年、食品、医薬品の保存、包装には高分子ポリマー、プラスチック、ゴムなどの合成樹脂が多くの場面で使われるようになりました。原材料であるモノマーからの合成時に使用する「重合開始剤」、望みの柔軟性へ仕上げるために加える「可塑剤」、成形する時点で生じる「分解物」や、表面やラベルに施す「色素」、「インク」、「染料」など、さまざまな物質が関与しています。

望まれざる残存物 – 抽出物&浸出物(E&L)の問題

ポリマーやゴムなどの包装資材からの溶出・移行する化学物質が安全性評価の対象として重要視されています。容器、包装材は、まわりからの汚染を防ぐものですが、それ自体、コンタミの原因になる場合があります。この不純物は、「抽出物(Extractables)」と「浸出物(Leachables)」、の2つに分類されます。

抽出物
抽出物とは、過酷な条件下で溶出する物質です。

浸出物
浸出物とは、実際の工程条件下で溶出する物質です。

一般に抽出物の中に浸出物が含まれますが、抽出物にはない浸出物が検出されることもあります。製造・利用者は、包装・容器、製造工程ごとに、その利用が想定される環境を考慮に入れ、溶出の可能性を考える必要があるのです。

抽出物と浸出物の定義。浸出物は抽出物と共通ではないケースもある

これらE&L (Extractables & Leachables)の規制および分析は、食品用途では長い対策の歴史がありますが、近年、医薬・医療分野においても注目が集まりつつあります。医薬品の製造プロセスでは、シングルユースのプラスチック製容器の使用が近年進んでおり、E&L分析の重要性が増しています。 また、FDA(米国食品・医薬品規制当局)では、食品・医薬品に関するE&Lの問題が急速に増加している(リコール数が2年間で2,000件を超えた)ことを報告しています。

医薬品、食品・飲料ともにE&Lによるリコールが頻発している

ここからは、食品分野と医薬・医療分野、それぞれにおけるE&Lの状況と、そこで留意すべき事項を整理していきましょう。

食品分野のE&Lと国内外の状況 - 予想外の経路で有害物質が含まれることも

食品分野におけるE&Lが問題を起こした事例は多く、日本では厳しく規制されています。多くの規則が定められており、ドリップコーヒー自販機に使われている器具や容器について、規定されているほどです。

食品そのものの製造工程に注意が必要なのはもちろん、輸送にも気を配る必要があるのです。「荷物の底に敷いたパレット(木枠の台)が含有する接着剤成分が食品および包装容器を汚染した例」も報告されています。輸入食品は、入国時に厳しく当局によりチェックされ、毎年膨大な数の不適合品が摘発・廃棄を命じられています。この場合、当局が事案を公開しますので、輸入事業者にとっては、不名誉な情報が世間に知れわたることになるでしょう。

事例 - 予想外の経路での有害物質汚染
予想もしていなかったところで生じたE&Lが食品に影響を与えた事例も知られます。とある食品でDHEP(フタル酸エステルの一種)が検出されました。これはプラスチックを柔らかくするために使われる一般的な物質ですが、なんとその物質は、食品包装の容器ではなく、食品を扱う時に衛生面に気をつけ使っていた手袋(塩化ビニール製)から溶け出していたのです。悩ましい点は、この溶け出しが、衛生面に気をつけて噴霧した消毒用アルコールに手袋が晒されることにより発生したということです。衛生面に気をつけたことが、逆効果となった例と言えます。

医薬・医療分野のE&Lと国内外の状況 - 製造工程でのシングルユース普及により重要度を増すE&L

医薬品分野においても医薬品、医薬品包装材、医療機器の各メーカーに対して、高い感度と精度でE&Lを検出・同定・定量することが強く求められるようになってきました。多様性が増す医薬・医療分野において、特に重大な懸念があるとされているのは、薬物が直接体内に入っていく製品です。例えば点滴バッグ、注射用シリンジ、また眼や肺など敏感な部位に薬物を送り届ける吸入容器(エアゾル製品)、点眼用容器などが挙げられます。

薬物を直接体内に送り込む製品ほどE&Lについての懸念レベルは高い

これらエンドユース部分だけでなく、医薬品製造工程におけるE&L分析もまた、重要度を増しています。抗体医薬をはじめとしたバイオ医薬品の製造においては、シングルユースの利用が進んでいます。シングルユースの方が時間・コスト面、設備のフレキシブル化、技術移転でメリットがあるのです。

医薬品製造に関わる最近の展覧・商談会では、多数のメーカーが製造工程におけるシングルユース製品を展示しています。医薬・医療分野の製造者は、これらのシングルユースのE&Lにも責任を持つ必要があります。

事例 - 健康被害を及ぼした、バイオ医薬品における汚染
バイオ医薬品分野では過去、E&Lが原因と見られる健康被害の事例が報告されています。エリスロポエチン(EPO)は造血作用を誘導する注射薬ですが、投与後に、EPOに対する免疫反応が起きてしまう赤芽球癆(せきがきゅうろう)が、1990年代後半に欧州で報告されました。厳密な因果関係がはっきりしたわけではありませんが、容器からの浸出物が、「アジュバント」として働き、投与したEPOの免疫原性を促進させたことが、原因と考えられています。

こうした医薬・医療におけるE&Lは、米国ではUSP(米国薬局方)、PQRI(Product Quality Research Institute;製品品質研究所)によってさまざまな規定がされています。こと日本においても、今後は、ICHなどの枠組みに乗っとり、国際協調が進んでいくと考えられます。

効率の良い分析を - アジレント・テクノロジーが提供するトータルソリューション

E&Lの分析には、知識・ノウハウ、さまざまな分析手法が必要になります。たとえば食品分野でいえば、食品のpHは多様です。牛乳はほぼ中性ですが、ワイン、ヨーグルト、炭酸飲料、コーヒー、トマト、酢など酸性の飲料はpHが低く、お茶ですらpH6と弱酸性です。酸性の液体は、包装容器の成分を溶出させる可能性があります。それぞれの飲料ではそれぞれの特性に即した試験をする必要が出てきますが、どのような溶液を使い、どのような条件で溶出試験を行うのかといった実験計画の策定時には、ノウハウが必要です。例を挙げると、「○○の場合の試験では、酢酸を入れてXX度で加熱する」といったものであり、また、そこで溶け出てくる物質の種類も多様です。

このように複雑なE&L分析におけるノウハウ、多様な分析機器のラインナップを揃えているのが、アジレント・テクノロジー(以下アジレント)です。たとえばプラスチック製包装・容器で使用頻度の高いPET樹脂では、アンチモンやゲルマニウムの溶出試験があり、原子吸光度計やICP法の分析手法が規定されています。また、ポリカーボネート樹脂にはビスフェノールAの材質試験や溶出試験には高速液体クロマトグラフによる分析手法が、ポリスチレン樹脂には揮発性物質の材質試験の規格があり、ガスクロマトグラフによる機器測定が規定されています。ガスクロマトグラフでは、液体から揮発する成分を効率的に分析する「ヘッドスペースサンプラ」をはじめとした、サンプル前処理装置も充実しています。

あらゆる分野のE&L分析をカバーする多彩なソリューション

また、揮発しない、あるいは揮発しにくい物質の分析では、LC/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)が有効ですが、この領域においても、アジレントは多様なラインナップをそろえています。

また、ペットボトルの主成分であるPET樹脂は、製造段階において二酸化チタンなどの金属を使うことがあります。一見安全そうに見える金属・ガラス容器ですが、そこから溶出する金属・各種元素も、問題を起こすことがあります。この溶出分析にはICP-MS(誘電結合プラズマ質量分析計)が有効であり、アジレントはこれらすべての領域の製品を提供するほか、高分子のオリゴマーやポリマーを検出するイオンモビリティLC/MS、幅広い極性の物質の高分離を実現する2D-LC、凝集体を分離・検出するサイズ排除クロマトグラフなども揃えています。

E&L分析においては、分析対象物によって異なる分析手法が求められる。アジレントの製品ラインナップは、GC/MSやLC/MSをはじめとした、あらゆる分析対象部に適合したカバレッジをもっている

前処理から分析結果の解釈まで、E&L分析における全行程を一気通貫で支援

E&L分析では、分析装置だけでなく、サンプルの前処理から分析結果の解釈に至るまで、各工程それぞれで装置やソフトウェアを必要としますが、アジレントはその全行程を支援する有用なソリューションを揃えています。

E&L分析とは、「何がどれぐらい溶出しているか」を分析し、それをコントロールすることを指します。アジレントでは、包装・容器から溶け出す可能性のある特に重要な約1000化合物ものE&L情報をデータベース化したPCDL(Personal Compound Database Library)を提供。さらに、複数のサンプルを比較したり、異なる条件で抽出試験を行ったデータを比較する、多変量解析機能搭載のソフトウェア「Mass Profiler」によって、統計解析を強力に支援します。

E&L分析の流れ(画像左)。アジレントは、サンプル前処理からはじまる各工程において、高度な分析装置とMassHunter、E&L専用データベース、Mass Profiler(画像右)などをもって強力にサポートする

まとめ

素材革命が進む現代において、E&L分析の重要性は食品・飲料、医薬品、バイオ医薬品、医薬品デバイス、化成品、化粧品で高まっていくでしょう。

新素材を臆することなく活用し、国際的なリソースの調達を行いつつ、優れたE&L分析技術を取り入れることは消費者に安心・安全を提供する上で避けては通れないのです。

関連URL

抽出物および浸出物 (E&L) の分析
http://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1004403

E&L分析の各工程における、アジレント・テクノロジーズのソリューション
サンプル前処理
Bond Elute Plexa SPE カートリッジ  7697A ヘッドスペースサンプラ

分析機器
GC/MS システム  LC/MS システム  ICP-MS システム  ICP-OESシステム

ソフトウェア
MassHunter ソフトウェア  Mass Profiler Professional ソフトウェア

■著者プロフィール
fetuin(ふぇちゅいん)
理学博士、ライター、ブロガー

ちまたに溢れる勘違い健康ニュースに呆れ果て、正しい情報を伝えるべくブログ「Amrit不老不死研究ラボ」を始めたのが15年前、最近は、自宅で遺伝子実験を夢見てブログ「バイオハッカージャパン」を更新中。

(マイナビニュース広告企画:提供 アジレント・テクノロジー)

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