2016年6月29日、東京・マイナビルームで「IoT時代本格始動! 超高速並列分散処理を利用したビッグデータ活用セミナー」が開催された。社内のデータ活用で効率化に成功しているオムロン、ビッグデータ処理に欠かせない分散処理をサポートするノーチラス・テクノロジーズ、そして機械学習サービスの提供を行っている日本マイクロソフトの3社が、それぞれの立場からビッグデータ活用についての講演を行った。本稿では各セッションで披露された事例を中心に、セミナーの概要をご紹介する。

IoT時代本格始動! 超高速並列分散処理を利用したビッグデータ活用セミナー

製造現場の課題をIoTで改善へ

まず、オムロン 綾部工場の高見 真司氏が、自社での事例を語った。人手不足が深刻化する一方で、多品種化、短納期、不良ゼロ、長寿命化が求められる現代の製造環境において、オムロンでは「i-Automation!」をコンセプトに「オートメーションによるモノづくり革新」を図ろうとしている。

オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 綾部工場 生産管理部 生産技術課 課長 高見真司氏

その取り組みのひとつとして紹介されたのが、ファイバセンサに用いられる投光モジュールのアライメント機の「知能化」だ。投光モジュールとはLEDやレンズ、リフレクタが一体になったもので、アライメント機は、それらのパーツを自動で組み立ててモジュール化し、最終的に光量計測を行って品質を判定するところまで、すべて自動で行う。

しかし品質状態にバラツキが生じるという課題があった。これを改善するために、綾部工場ではアライメント機から、計測した光量、パーツの接着位置や接着剤の塗布状況(画像データ)をはじめ、サーボモータのトルクやエア圧といった装置情報などを、常時自動的に収集できる仕組みを整えこれらを一元的に監視できるようにした。

図1が、一元監視の画面だ。品質チェックが終わったモジュールを示す点の中から、特定のものをクリックすると、該当する製品の組み立て経過が画像データで見られる仕組みになっている。性能が下振れしているモジュールがあった場合、それを示す点をクリックすれば、各パーツの接着位置や接着剤の塗布状況などを画像で確認できる。各工程の生産情報と各画像データ、装置情報を関連して確認できることで、品質変動を起こした原因が分かり、対応のための仮説が立てやすくなったという。

「数字だけを見ていても仮説を立てるのは困難です。画像ファイルや製品データなどを関連付けて分析できるような、一元監視を行うことが有効です」(高見氏)

図1 画像データを併用して品質変化の要因を特定

アライメント機からのデータは、設備の予防保全にも役立っている。たとえばレンズやリフレクタのピック&プレイスに用いられている吸着コレットは、ノズルの詰まりなどで、吸い上げ流量が日を追うごとに低下する。それまでは定期的なメンテナンスで流量を維持していたが、流量を常時計測し、現場のモニターで状況を表示・分析できるようにしたことで、保全作業を最適なタイミングで実施することが可能になった。これにより部材手配の手間やコスト、交換時間などを削減することができている。

「こうしたシステムは、現場で使いこなしてもらわなければ意味がありません。IT専門部門しか触れないものだと、だんだん使われないものになってしまいます。現場が使い慣れたExcelで自由に分析できたり、改善のサイクルに合わせて自由にカスタマイズできたりすることが必要です」(高見氏)

オムロンの現場が抱える課題は、実は多くの製造業にも共通するものだ。

高見氏は、「まず自社でオートメーションを革新して、それをお客様に少しでも提供し、ものづくりの現場全体が元気になるようにしていきたいと考えています」と語り、今後もビッグデータ、IoTによる現場の改善にチャレンジし続けていくオムロンの姿勢を強調した。

並列分散処理を、もっと簡単に、もっと低コストに

ノーチラス・テクノロジーズ 取締役 中田明氏

続いて登壇したノーチラス・テクノロジーズ 取締役 中田明氏は、ビッグデータ時代のデータ処理技術について語った。大量のデータをスピーディに扱うには、並列分散処理を実現するHadoopやSparkが有効だが、開発するには専門性が求められるという課題がある。中田氏はその解決策として、同社のAsakusa Frameworkを紹介した。

Asakusa Frameworkは、並列分散処理の運用・開発用オープンソース・フレームワークだ。JAVAの知識があれば、並列分散処理プログラムを直感的に開発でき、それをHadoopやSparkのソースコードに書き出せる。セミナーでは、Asakusa Frameworkが成功に導いた並列分散処理の活用事例が紹介された。ここにそのいくつかをピックアップしよう。

■事例1 銀行
この銀行には、融資先が債務不履行に陥る可能性を警告するシミュレータがあったが、分析結果を出すまでに約10時間もかかっていた。これをHadoopによる並列分散処理に切り替えたところ、わずか7分で処理できるようになった。同銀行では一時、プログラムの困難さからHadoopの採用を諦めたという経緯があったが、開発にAsakusa Frameworkを採り入れたことで、この大幅な時間短縮を実現した。

■事例2 データセンター事業者
詳細な利益管理に分散処理を活用している。土地代や建屋、サーバ、人件費、顧客ごとの売上、CPU利用量やネットワーク流量など、膨大なデータを紐付け、分析・可視化することで、迅速な経営判断が可能となっている。

■事例3 パン製造・販売
原価シミュレーションだけで4時間もかかっていたが、クラウド上に必要なリソースを用意し、データを転送して並列処理にかけたところ、処理時間は20分に短縮され、スピーディな経営判断が可能となった。とあるベンダーには数億かかると言われていたコストも、データセンターに支払う月数千円だけですんでいるという。

ノーチラス・テクノロジーズでは、数MB~数GB程度のデータを並列処理する新技術「Asakusa on M3BP」も用意している。これはFixStars社と共同開発したもので、ひとつのCPUに詰め込まれた複数のコアを並列化して処理にあたらせるエンジンだ。事例3のベーカリーの場合、この技術の利用で処理時間はさらに縮まり、現在では1分になっているという。

現在Asakusa Frameworkは、「並列分散処理の世界へのハードルを下げるソリューション」として実績を伸ばし、大手企業やSIerからの引き合いも増えてきているという。

「今後も日本の企業の下支えになるような道具、サービスを提供して、活性化に貢献したいと考えています」(中田氏)

画像認識の分野で急成長を遂げる機械学習

日本マイクロソフトからは、パートナーセールス統括本部 の北垣康成氏が登壇、「IoTにおけるデータの可視化と機械学習の活用」と題した講演を行い、人間のジェスチャーを認識するデバイス、Kinect(キネクト)を利用した事例を紹介した。

日本マイクロソフト パートナーセールス統括本部 パートナーテクノロジー開発本部 プリンシパルテクノロジーストラテジスト 北垣康成氏

とある工場では、Kinectと機械学習を組み合わせ、設備の安全な操作手順を徹底しているという。まずKinectを通じて、正しい操作手順を行っているジェスチャーをコンピュータに学習させる。それを現場のセンサーで取得したスタッフの動作と比較させることで、正しい操作が行われているかどうかを判断するのだ。

このような使い方は、セル生産の現場にも応用できる。セル生産では一人でいろいろな工程をこなしていかなければならないが、担当するスタッフによって生産性は変わってしまう。こうした属人性による生産性のバラツキをなくすため、手慣れたスタッフの動作を細かく機械学習させ、生産性の低いスタッフの動作改善に役立てようとしている工場もあるという。

機械学習の代名詞とも言えるディープラーニングは、画像認識の分野で特に進んでいる。大量の画像から特徴を自動抽出し、学習させることで、たとえば有名画家の画風を再現することもできるようになっている。近年マイクロソフトが参加した「ザ・ネクスト・レンブラント」というプロジェクトでは、350点近くあるレンブラントの絵を立体スキャンして、画風、画題、絵筆のタッチなどをコンピュータに学習させ、最終的には本物と見紛うばかりの絵を、キャンバス上に再現することに成功している。

「本物のレンブラントをスキャンできたからこそ、実現した事例です。かつて機械学習は『どういうソフトをつくるか』が勝負でしたが、今は『どういうデータを持っているか』が勝負だということです」(北垣氏)

本稿で採り上げた事例はセミナーで語られた一部にすぎないが、ビッグデータやIoTを実現する基盤は確実に整ってきている。今後のビジネスに向けたヒントとしていただければ幸いだ。

(マイナビニュース広告企画:提供 ノーチラス・テクノロジーズ)

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