今、注目度が高まっているIoT。様々な"モノ"をネットワークにつなげて収集したデータをビジネスに活用する事例は、日を追うごとに増えてきている。一方、自社にどうやってIoTを採り入れたらいいのか、どんなデータをとればビジネスとして成立させられるのか、などに悩んでいる方も多いだろう。

そうした声を受け、2016年3月11日(金)、伊藤忠テクノソリューションズとマイナビは、ビジネス創出やシステム構築にあたって考えるべきこと、必要とされる開発体制などを扱ったセミナー「IoTビジネス革命 - 今必要な鍵を探る」を開催した。

現在のIoT活用事例をタイプ別に分析

日本政策投資銀行 産業調査部 次長 清水 誠氏

冒頭、日本政策投資銀行の清水誠氏が、「IoTで世界が変わる~新しいビジネス創出の可能性と課題」と題した基調講演を行った。清水氏はIoT・ビッグデータの活用形態を3つに分類し、それぞれの事例を紹介した。

【1.データ活用型】大手産業機器メーカーの事例。航空機のエンジンから稼働状況データを収集・分析し、効率的な保守点検や、低燃費運航支援などのサービスを展開している。

「ニッチな分野でも圧倒的なシェアを持っていれば、このビジネスモデルを適用できる可能性があります。製品にセンサーを組み込むことで、他社が追随できないデータを集められるでしょう」(清水氏)

【2.不稼働資産活用型】全国の印刷会社にある、印刷機の空き状況をネットで把握し、小口印刷の注文を回すEC事業者の事例。

「不稼働印刷機と小口需要をIoTでマッチングさせた事例です。類似例としては不動産の空き部屋や、駐車場に置かれた自動車の活用などもあげられます」(清水氏)

【3.異業種連携型】コンビニと食品会社。膨大な販売データを持つコンビニが「コーヒーに合う菓子」を企画し、食品会社と共同開発を行った事例。

「テレビや携帯電話業界でもそうですが、メーカーの企画開発力が、データを持っている企業に吸い取られています。それほどにデータの威力は大きなものです」(清水氏)

他社との協業が、新規ビジネスを生む

これらの例からも分かるとおり、IoT・ビッグデータ時代の勝ち組は、「データ保有者」と、「そのデータを分析し、ビジネスのプラットフォームを構築できる者(プラットフォーマー)」の2者になると清水氏は予測する。表向きでは、両者は互いが持つデータやプラットフォームをめぐって対立しているが、実は水面下では手を握り、データをシェアして事業を展開している例も多いという。

「そういう"上手な仲間作り"が大切な時代になってきています」(清水氏)

IoT時代には、すべてをクローズにした環境で商品やサービスを開発しても上手くいかない。まずはどこにどんなデータがあるかを可視化すること。そして部署や企業、業界の枠を超えた"仲間"をつくり、個人情報保護やセキュリティに配慮しつつデータを共有すること。それが新事業を創出する地盤となっていくと清水氏は言う。

「様々な企業がパートナーシップを結べるような場づくり。これはITベンダーだけでなく、我々のような金融機関も行っていかなければいけないと思っています」(清水氏)

全体を俯瞰して、必要なモノ・ヒトを把握する

伊藤忠テクノソリューションズ 國分 学氏からは、システム選定時の検討ポイントが紹介された。ビジネスを成功に導くには、まずIoTを実現するシステムの全体を把握しておく必要がある。國分氏は、データのリアルタイム分析に加え、傾向分析・未来予測までの機能を備えたシステムの全体像(図1)を示した。

「IoTというと、デバイスやセンサーに注目が集まりがちですが、環境の構築実現に向けてはネットワークやプラットフォームなど、それぞれの専門知識を持った人材と協力していくことが必要です」(國分氏)

(図1) システムの全体像。デバイス以外にも検討すべき要素があり、また管理するエンジニアとの連携が必要

基盤はクラウドか、オンプレか?

現在、IoTプラットフォームの選択肢には、クラウドとオンプレミスがあり、それぞれのメリットを有している。クラウドの場合、オールインワンの基盤が各社からサービスメニューとして提供されている。スモールスタートが可能で、簡単に拡張・縮小できるのがメリットだ。IoTプラットフォームとして使える主なクラウドサービスと、その特長は以下の通り。

■主なクラウド型IoTプラットフォーム
Azure IoT Suite (Microsoft) 既存の資産をつなぎ、IoTの成果を素早く実現できる
AWS IoT (Amazon) デバイス接続のための開発キットが提供されており、IoTの適用範囲を広げられる
Watson IoT Cloud Platform (IBM) 顧客と協業で基盤を構築する形式で、新サービス創出に取り組んでいる
E-PLSM (伊藤忠テクノソリューションズ) 民間気象予報会社の認定を受けており、エネルギー分野に特化したサービスを提供。今後は汎用化を目指す

伊藤忠テクノソリューションズ 製品・保守事業推進本部 ITインフラ技術推進第1部 ストレージ技術推進課 國分 学氏

一方、オンプレミスのメリットは、既存のデータを活用できることである。大量のデータを保有しているようであれば、クラウドへのデータ移行の手間やコスト面を考えるとオンプレミスの採用を検討できる。また金融機関のように、データの格納先を明確にしておくことが必要となる場合にも、オンプレミスを考慮できる。さらに長期保管データの保護に際し、改ざん防止などの対策が必要なケースでも、オンプレミスが有効だ。

クラウドにするか、オンプレミスにするかを判断するにあたっては、取得するデータ量にも注意を払う必要があると、國分氏は言う。分析精度を高めるために、例えば、データ取得の間隔を1時間から30分というように半分にすれば、データ量は単純に2倍に増加してしまう。また、30分間隔を1分間隔にすれば、30倍にデータが膨れ上がることになる。

「IoTビジネスを展開する上では、いくつものデータの因果関係を見ていく必要があり、データ量は大きくなります。そこまで検討した上で、自社に合うプラットフォームを選んでいただければと思います」(國分氏)

ベクトルを共有し、企業内の壁を取り除くDevOps

伊藤忠テクノソリューションズ 渥美 秀彦氏は、ITとビジネスを融合させる手法であるDevOpsについて講演を行った。DevOpsとはITシステムの開発担当者と運用担当者が連携・協力して開発を行う手法で、サービス提供のスピードアップには欠かせないと言われている。しかしDevOps実現の前には、開発部門、運用部門、ビジネス部門などが縦割りになった日本の企業体制や、部門ごとに異なるKPIなど、多くの課題が立ちふさがっている。

伊藤忠テクノソリューションズ 製品・保守事業推進本部 ITインフラ技術推進第1部 ITマネジメント技術推進課 主任 渥美 秀彦氏

「北米のベンダー企業から、『DevOpsとは、ビジネスゴールを達成するために、様々な人たちと協業し、ソフトウェアを速やかにデリバリするための仕組みだ』と言われました」(渥美氏)

日本のDevOpsが開発部門と運用部門の連携にフォーカスしているのに対し、海外では、ビジネス企画やシステム設計の段階から連携を行っているということだ。こうした全体的なDevOps実現のために、海外では「仕組み」と「思想」、2側面からのアプローチを取っている企業が多いという。作業を自動化し、スピーディに仕事を進めるための基盤・ツールを整える(仕組み)と同時に、CIOなど上層部を交えて行うワークショップで、企業として進むべきベクトル(思想)を決定しているのだ。

IoT時代においては、すべての企業がメインプレイヤーとなりえる。その中でビジネスを成功させるために、今、日本企業が行うべきことは、部門間の壁を取り払って、ビジネスベクトルを共有する為のコミュニケーションを発生させることだ、と渥美氏は言う。

「また、その為のファーストステップはビジネス部門とIT部門の情報共有となります。その仕組みにITを使って欲しい。DevOps基盤が整備されている事が理想ではありますが、情報共有基盤はなんでも構いません。極端な話ですが、共通のキーワードに対し各部門間での意見交換が行なえれば掲示板でも十分です」(渥美氏)

コミュニケーションの中で、全社がベクトルを共有できてはじめて、ビジネスプランに合ったシステムをデザインできるようになり、強いIoTビジネスを生むことができる。

「強いビジネスが一つ生まれれば、別の新たなビジネスにもつながるでしょうし、異業種間の連携も行えるようになるでしょう」(渥美氏)

日本の優位点は? IoT時代に向けた人材育成は?

セミナー最後のパネルディスカッションには、ここまでに登壇した3名に加え、海外のIoT事情に詳しい伊藤忠テクノソリューションズ 粕谷 勝昭氏が加わった。Q&Aの形式をとって、その一部をお伝えする。

パネルディスカッション風景(伊藤忠テクノソリューションズ 製品・保守事業推進本部 ITインフラ技術推進第1部 部長 粕谷 勝昭氏 ※左から2番目)

Q:IoTマーケットにおける日本の優位な点は?
清水氏:日本は高齢化や熟練技術の継承問題をはじめとした、課題先進国と呼ばれています。その分、IoTを利用できる余地も大きく、絶好のマーケットがあると言えます。
粕谷氏:ITの視点からだと、日本はセンサーをはじめとしたハードウェアデバイスに強みがあります。逆にそれらをコントロールするソフトウェアは欧米に後れを取っています。日本の得意分野をうまく活かすことで、十分にチャンスがあると言えます。

Q:IoTにより人の仕事はどう変わるのか?
國分氏:人が行っていたことを自動化できれば、創造的な部分に注力することができ、さらに豊かになっていくと考えられます。
粕谷氏:IoTを使って「新たなビジネスを創造する」というところにターゲットをあてて考えないと、IoTの本質を見失いかねません。

Q:IoTを実践した場合、企業の基幹システムにどんな影響があるか?
渥美氏:ケースにもよるが、IoT用のシステムと基幹システムとは、分けて考えたほうがリスクもなく、スムーズに導入が進められるかと思います。

Q:IoT時代に必要とされる人材とは?
清水氏:データ分析力と、ビジネスへの深い洞察力を持つ人材が必要となります。とはいえ、いきなりそういった人材を生み出すことは困難なため、ビジネスチーム、ITチーム、両者の意見を仲介するブリッジのような役割の人々、みんなが協力して高めあっていくという人材育成の仕組みが、日本企業には適していると思います。

以上、3時間におよんだセミナーをかいつまんで紹介したが、これからIoTビジネスに取り組もうという方々にはぜひご参考いただきたい。

(マイナビニュース広告企画:提供 伊藤忠テクノソリューションズ)

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