PXIを活用し「1分子DNA電流計測システム」を開発
生物の遺伝情報を継承するDNAは、チミン(T)、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)という4つの核酸塩基で構成されている。その配列を解読することができれば、疾患の状態をDNAレベルで診断し、それぞれの人に最適な治療計画や投薬を行うテイラーメイド医療をはじめ、超高速なウイルス検査、正確な犯罪捜査などへの応用が可能になる。
このDNA塩基配列解読技術の研究開発に取り組んでいるのが、大阪大学産業科学研究所バイオナノテクノロジー研究分野の筒井真楠准教授だ。筒井氏は、「高速1分子DNA電流計測システム」を構築し、電流計測によって1分子のDNAを高速に識別することを可能にした。 「DNAの太さは髪の毛のおよそ4万分の1。ナノスケールの細孔(ナノポア)を通過する1分子DNAの塩基分子の電流を計測し解析することで、塩基分子を識別することが可能です。そのためには、1塩基分子を通るピコアンペアレベルの電流を1MHzの速度で計測・記録する必要がありました」(筒井氏)
システム実現にあたって、日本ナショナルインスツルメンツ(以下、日本NI)の「PXIプラットフォーム」が採用されている。PXIは、製造テスト、設備監視、工業用計測などのアプリケーションに利用されるテスト・計測・制御用のプラットフォームだ。モジュール式で、用途に応じて自由に組み替えられるため、エンジニアリングの多様な課題に対応することができる。オープン規格であるため、現在70社以上のベンダーから1,500種類以上の製品が提供されている。
今回の「高速1分子DNA電流計測システム」では、高ゲイン広帯域電流アンプを利用して電流を増幅し、アンプからの出力電圧を高分解能のデジタイザーを使ってデジタル化。そのストリーミングデータを長時間にわたってRAIDシステムに記録している。また、その制御プログラムの開発には、システム開発ソフトウェア「LabVIEW」が活用されている。
LabVIEWによる開発は学生にも好評
DNA塩基配列解読技術は、2006年ごろから研究開発が開始され、2009年に高速1分子DNA電流計測システムの構築プロジェクトがスタートした。2011年には、高速1分子DNA電流計測システムによってDNAを構成する核酸塩基分子を電流計測することで、核酸塩基分子の種類を1分子単位で識別できることを実証した。
「当時、小さな電流を高速に計測することはできましたが、データを長時間連続して蓄積することは困難でした。そのためには自分で計測機器を作るしかないと思っていたタイミングで、日本NIの担当者からPXIプラットフォームを紹介してもらいました。1MHzで計測したいと思っていましたが、おそらく無理だろうと思い、まずは10KHzでできるか尋ねてみると“できます”という回答でした。100KHzに対しても“できます”とのこと。そこで、1MHzではどうか聞いてみたところ……あっさりと“できます”という回答をもらい、半信半疑でしたが、とにかく導入することを決定しました」と筒井氏は当時を振り返る。
PXIプラットフォームの導入にあたり、ピコベータやオシロスコープなどの計測器とも比較したが、ピコベータは低速で長時間のデータ処理に強く、オシロスコープは高速で短時間のデータ処理に有効だった。筒井氏は、「その両方の良さを兼ね備えた、高速にデータを連続処理できる仕組みがPXIで実現可能でした」と話す。
そこで日本NIの担当者に、どのようなシステムを構築すれば、高速1分子DNA電流計測システムを実現できるのかを提案してもらい、PXIプラットフォームを導入してシステムの構築を開始。導入時にLabVIEWを導入して、PXIプラットフォームの制御プログラムを開発した。LabVIEWについて筒井氏は、次のように評価している。
「私は、Visual Basic(VB)に慣れていたため、当初、LabVIEWでの開発には少し苦労しました。アイコンを配置していくというのがLabVIEWのプログラミング方法なのですが、VBの癖でどうしてもそのアイコンの裏で何が実行されているかが気になってしまっていたのです。しかし、日本NIの講習を受けて、基本的な操作を覚えれば、VBよりも簡単にプログラムが開発できるようになりました。研究所の学生たちにもLabVIEWを使うことを薦めていますが、非常に使いやすいと好評です」
筒井氏の研究室に在籍する学生のほとんどは理学研究科の出身で、測定機器やプログラムの開発には無縁のことが多いという。筒井氏は、「まずは、データをグラフなどに加工してもらうことで、プログラミングに興味を持ってくれるように指導しています。大事なのは本人の好奇心であり、興味が出れば、その後は自発的にプログラミングを学んでくれます」と話している。
さらなる高速化、低コスト化を推進
今後の取り組みとして筒井氏は、高速1分子DNA電流計測システムの量産化を挙げる。そのためには、デバイス自体をいかに低コストで開発できるかがカギとなる。ヒトゲノムを解読するコストは、2001年には100億円かかっていたものが、2012年には100万円以下になり、2014年には10万円まで下がっているという。
「さらなる高速化や、低コスト化による量産が、テイラーメイド医療や高速なウイルス検査などの社会的ニーズの実現につながっていきます。これまでの研究成果が、人々の役に立ち、社会貢献につながることこそが、私たちの目標でもあります。それを実現するためには、これからもハードウェアやソフトウェア面で日本NIの技術や知見に期待しています」と筒井氏は最後に話してくれた。
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