数値演算や信号解析、データ処理のための統合開発環境「MATLAB/Simulink」で、ものづくりの現場を支えるマスワークス。同社は10月16日、プライベートイベント「MATLAB EXPO 2015 Japan」を東京台場で開催。1,500名もの来場者で賑わった同イベントについて、本稿では基調講演に登壇した米MathWorks社 Roy Lurie氏の講演内容を紹介する。

10月16日にて開催された「MATLAB EXPO 2015 Japan」基調講演の模様 


技術や業界をまたがった融合が加速

米MathWorks社
Vice President of Engineering for MATLAB Products,
Roy Lurie氏

IoTやビッグデータが企業活動に大きな影響を与えはじめた。さまざま領域の技術が相互に関係し合い、これまでにない事業や市場が創りだされつつある。米MathWorksでエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるRoy Lurie氏は、そんな現在の技術と市場のトレンドを「4つのテクノロジー領域での融合(Fusion)が進んでいる」と指摘。これらを生かすことが企業の革新を成功に導くと訴えた。

4つのテクノロジー領域とは、センシング(Sensing)、コンピューティング(Computing)、通信(Communication)、制御(Control)のこと。単にこれらの技術が組み合わさって新しい技術が生まれているという意味でなく、それぞれの技術を利用するさまざまな業界がクロスして、新しい価値や市場が生み出されている状況だという。

「たとえば、電気自動車を展開するテスラは、センサから得られるデータをコンピュータ処理して自動車の性能や機能を向上させている。自動車の走行性能やコスト効率の向上といった品質の改善だけでなく、自動運転システムのような、これまでにない新しい価値を提供できている」(Lurie氏)

自動運転システムには、車線を認識したり、前方車や後続車との距離をはかったりするセンシングの技術が欠かせない。それらセンサから得られる大量のデータをリアルタイムに処理するコンピューティング能力も必要だ。また、車両に搭載したセンサ間やシステム間での通信が重要で、それらを全体として制御する仕組みも欠かせない。これら4つの技術が融合することが、新しい技術の源泉になっているわけだ。

自動運転システムは、自動車業界に限った取り組みではなくなっている。たとえば、自動運転車を実際のビジネスに生かしているのは、インターネット企業のグーグルだ。くわえて、技術である自動運転もまた、クルマに限ったものでもなくなっている。アマゾンドットコムやフェイスブックは、ドローンを使って配達の効率化を図ったり、通信設備がない場所に無線LAN環境を敷設する計画を進めている。東京大学のCubeSatプロジェクトのように、超小型衛星の開発でも、自動運転で必要とされる技術が使われている。さらに、融合しているのは技術だけでない。

「たとえば、フォードは、アップルからエンジニアなどの人材を積極的に採用している。一方のアップルはいずれは自動車業界にも進出するだろうと言われている。テクノロジーだけでなく、さまざまな業界をクロスオーバーするかたちでのシームレスな融合が進んでいるのだ」(Lurie氏)

4つのテクノロジー領域に対するMathWorksのアプローチ

そのうえで、Lurie氏は、4つのテクノロジー領域においてMathWorksがどのような取り組みを行っていけるのかを解説した。

まず、センシングについては、データの量や複雑さがテーマになる。たとえばスマートフォンで言えば、カメラ、ジャイロスコープ、照度センサ、指紋認識といったさまざまなセンシング技術が使われている。これらは、IoTデバイスやウェアラブルといった、今後提供されていく製品には当たり前のように備わってくる。「エキサイティングなやり方が次々と登場し、ユーザが簡単に利用できるような新しいアプリケーションが次々と生み出される」(Lurie氏)。そうしたなか、MathWorksでは、さまざなセンサから得られるデータをMATLABに収集し、簡単に加工できるような仕組みを提供するという。

センサから収集するデータが増え、たくさんのアプリが利用されるようになると、それにともなって高いコンピューティング能力が必要になる。メニーコア、クラスタ、クラウドを使って処理の規模を拡大させていくことになるが、MATLABはそうした大規模な環境に対しても、既存のアルゴリズムを生かして、プログラムの修正なしに対応できることが特徴だ。デスクトップ向けCPU、カスタムASIC、SoC、クラウド環境といったハードウェアやプラットフォーム依存になりやすい領域でも、同じアルゴリズムを利用できるという。

通信は、特に技術の進展が著しい領域だ。「4G、LTEをはじめとする高速な通信技術がここまで普及することは数年前は誰も予想できなかった。日本にいてもすぐに米国の家族とビデオチャットができるほどだ。次世代の通信技術はさらに新しい革新を生むことになる」(同氏)。MATLABには、さまざま技術を簡単に利用するための機能モジュールをToolboxとして提供している。LTEのデータ処理やシミュレーションについてはLTE System Toolboxなどがあるが、次世代の無線LANやLTE Advanced、5G通信についても新しいToolboxとして提供していく予定だ。

最後の制御については、冥王星の写真撮影に成功した惑星探査機「ニューホライズンズ」を例に挙げて説明した。このミッションでは、MATLAB/Simulinkが大きな役割を果たしている。探査機がどう航行するか、どう画像を処理するかなどのシステムをMATLAB/Simulinkを使って実装し、機体の正確なナビゲーションとフライトコントロールを可能にしたという。

「制御技術は、宇宙船だけでなく、自動運転やロボットでも使われている。車線や標識を識別し、それに合わせて車間距離を詰めるといったことができる。こうした状態の変化を認識し、自律的に行動を変えることは高度な技術だ。MATLAB/Simulinkでは、画像解析のImage Processing Toolboxや、統計/機械学習のStatistics and Machine Learning Toolboxなどを使って、専門家でなくても簡単に機能を実装することができる」(Lurie氏)

災害救助や医療支援、エンジニア教育にも貢献

4つのテクノロジーによる革新は、製造業、プロセス業、自動車、航空宇宙、通信、医療、エネルギーなど、さまざまな業種で起こっている。実際にMATLAB EXPO 2015 Japanでは、それを示すさまざまな講演と展示が行われた。さらに、Lurie氏によると、こうした融合は、企業の革新だけにとどまらない価値も生み出している。

企業の革新のみでなく、災害救助や医療支援といった面でも貢献している点が、講演では強調された

たとえば、災害時の人命救助や、障害を持った人に対する医療的な支援、エンジニアなどの教育といったことが挙げられる。災害時の人命救助については、米国政府がドローンを活用して、地形を把握したり、被災者の発見に役立てている。

医療的な支援としては、両腕を失った人にセンサをつけ、脳波を把握することで、考えるだけで動かせる義手が開発されている。こうした新たな飛行機の制御やヒューマンマシンインタフェース(HMI)の開発には、厳しい規制や認証がともなう。MATLAB/Simulinkは、そうした認証のプロセスも含めて、ワークフローに取り入れることできることも特徴だ。

また、Lurie氏は、エンジニアの支援について、テクノロジーの融合が進むなか、これから求められる人材は、特定の分野に深い見識とスキルを持ち、それ以外の分野についても幅広く対応できる、いわゆる「T型エンジニア」だとした。

MATLAB/Simulinkは、信号解析やデータ解析、機械学習などを軸として、さまざまな領域にかかわる製品だ。その意味でも、エンジニアが幅広い知識を身に付け、1つの分野の専門家になっていくために適した開発環境だという。実際、ツールやアドオン、ライブラリ設定など、エンジニアがコストをかけずにスキルアップできるようなバージョンアップを施していると説明した。

Lurie氏は最後に「4つのテクノロジーが世界を大きく変化させている。さまざまな企業や組織がそのなかで新しい取り組みを行い、イノベーションを加速させている。MATLAB/Simulinkによって、今後もそうしたイノベーションを牽引していきたい」と意気込みを語った。

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