MathWorksのユーザカンファレンス「MATLAB EXPO 2015」が10月16日、東京・ホテル グランパシフィック LE DAIBAで開催される。MATLAB / Simulinkの最新機能と豊富なユーザ事例が同イベントでは紹介される予定だが、本稿ではセッションごとの見どころについて紹介していきたい。

7つのトラックで、MATLAB / Simulinkの今とこれからを紹介

企業のデータ活用を長らく支えてきた数値解析ソフトウェアMATLAB/Simulink。IoTやビックデータの波を受け、同ソフトウェアの活用領域は、データ解析、機械学習、信号・画像処理、通信、制御系設計、プラントモデリング、メディカルデバイス設計など、あらゆる領域に広がっている。2015年のMATLAB EXPOは、「MATLAB/Simulinkの新しい可能性を見つけよう」をテーマに、同製品の今と、これからの可能性を紹介する予定だ。

午後からのトラックは、「入門」「Simulinkワークフロー」「データアナリティクス / IoT」「メディカル / 通信 / AMS」「ADAS / ロボティクス」「EMS / パワーエレクトロニクス」「自動車業界 適用事例」の7つのトラックに分けて行われる。それぞれの見どころを、アプリケーションエンジニアリング部(テクニカルコンピューティング) 部長 大谷卓也氏と、アプリケーションエンジニアリング部(制御) シニアチームリーダー 宅島章夫氏に聞いたので、1つ1つ紹介していこう。

アプリケーションエンジニアリング部 テクニカルコンピューティングの部長 大谷卓也氏(写真左)と、制御のシニアチームリーダー 宅島章夫氏(写真右)

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初心者にもやさしい、毎年恒例の「入門」トラック

「入門」は、初心者や入門者向けに設定されたトラックだ。MATLAB製品ファミリー、Simulink製品ファミリーで提供される機能を広くカバーし、これからMATLAB/Simulinkを利用するユーザに対し、どういった機能をどう使えばいいかをアドバイスする。あわせて、最新版の「R2015b」でそなわった機能も紹介する予定だ。

毎年人気の高い「入門」トラック

具体的な内容としては、ツールと機能を概観する「MATLAB入門~便利ツールをフル活用~」、開発者向けにプログラミングを概観する「MATLAB入門~開発向けプログラミング編~」、Simulinkに備わるステート マシンとフロー チャートに基づいた意思決定のためのシミュレーション環境Stateflowを紹介する「Simulink/Stateflow入門」、物理システムのモデル化とシミュレーション環境Simscapeを紹介する「Simscapeによる制御対象のモデリング入門」を用意している。

「毎年恒例のトラックで、構成もこれまでにならって作られています。製品が提供する機能の理解から、ツールの使い方、アプリケーションとして応用するためのノウハウを得ることができます」(宅島氏)

ワークフローに着目した「Simulinkワークフロー」トラック

「Simulinkワークフロー」は、Simulinkの製品ファミリーを用いたワークフローを紹介するトラックだ。モデリングから、制御設計、シミュレーション、実機テスト、量産までにどんな作業が必要で何がポイントになるかをワークフローに沿って理解することができる。

「Simulinkワークフロー」トラックでは、開発から量産までのワークフローに沿って、活用方法を学ぶことができる

具体的な内容としては「実験データを活用したモデリング手法」「C/GMRES法による非線形モデル予測制御」「モデルベースモーター制御アプリ開発」「次世代モデルベース検証ソリューションでのテスト・デバッグ改善」などだ。

なかでも注目は、MATLABによるモデル予測制御 (MPC) を解説するセッション「制御アルゴリズムを MATLABで書く~C/GMRES法による非線形モデル予測制御~」だ。非線形モデル予測制御の高速解法として知られているC/GMRES法を使って、シミュレーションを行っていく。

「モデル予測制御は、モデルプロセスやプラントなどで使われています。プロセッサの性能向上で適用範囲が広がっていて、自動車、メカトロニクス、ロボティクスでも注目されています」(大谷氏)

ユーザ事例としては、トヨタテクニカルディベロップメント(TTDC)の高木俊一氏らによる講演「高速演算を可能とするFPGAシミュレータとHDL Coder活用事例」が注目だ。TTDCでは、ハイブリッド車で使用するモータ制御のデバッグ装置を開発している。その装置内で行うモータモデルの高速演算にFPGAを採用しており、これらの取り組みを紹介する。

センサデータ解析や最適化でニーズ急増 「データアナリティクス / IoT」トラック

「データアナリティクス / IoT」は、MATLABが数十年来取り組んできたデータ解析のノウハウを、現在のニーズに応えられる形で紹介するトラックだ。ものづくりの現場において、信号処理やデータ解析、統計解析などの知見蓄積がある同社が、それらのIoT分野における実践方法を具体的に紹介する。

「データアナリティクス / IoT」トラックは、IoT元年と呼ばれる2015年、注目のセッションが揃っている

内容としては、「信号処理・データ解析・アグリゲーション」「最適化による課題解決とパフォーマンス向上」「MATLABによる統計解析・機械学習」「製品開発のためのセンサデータ解析」だ。

注目は、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の上田修功氏によるユーザ講演「機械学習の進化と今後~IoT/ビッグデータ時代の時空間予測~」だ。機械学習の進化の過程を紹介し、IoTビッグデータ分析の実践例として、NTT機械学習・データ科学センタで研究開発を進めている「時空間多次元データ集合解析」を紹介する。

「センサデータ解析や最適化のニーズは非常に増えています。IoTの全体を示すとともに、実際にどのような取り組みを進めればいいのかをワークフローに沿って紹介していきます。一般企業がアナリティクスの取り組みを進めるうえでも参考になるはずです。また、制御系の既存ユーザにもIoTを概観するいい機会になると思います」(宅島氏)

最先端の画像処理がわかる「メディカル / 通信 / AMS」トラック

「メディカル / 通信 / AMS」は、医療やヘルスケア分野で取り組みが進んでいる画像処理や認識技術、信号処理、データアナリティクスの取り組みを紹介するトラックだ。画像処理などの認識技術は、カメラ映像の解析やWeb画像の認識など、さまざまな分野で応用されている。なかでもホットなのが医療分野であり、その最先端の取り組みを紹介する。

多くのユーザ事例講演から構成される「メディカル / 通信 / AMS」トラックでは、同領域における多角的な活用例が提示される予定だ

ユーザ講演や事例も豊富だ。オリンパスの中野恵一氏による「新世代医療機器開発に向けた、MBD導入・活用促進の取り組み」では、医療機器をはじめとした新世代のシステム開発や安全法規制への対応に向けた、モデルベース システムズエンジニアリング(MBSE)とモデルベース開発(MBD)の取り組みを紹介する。

また、東京工業大学の高田潤一氏は、「電波伝搬研究とMATLAB:セルラからボディエリアまで」と題し、セルラ(携帯電話網)の進化形としての第5世代移動通信について、マイクロ波・ミリ波の伝搬の空間特性、センサネットワークの1つであるボディエリアネットワーク環境で、MATLABがどう活用されているかを紹介する。

東京理科大学の相川直幸氏による講演「FPGAを用いた画像処理システム構築におけるMATLABの利用」では、画像処理を用いておしぼりに付着した毛髪を検知する「異物検査装置」を開発した事例を紹介する。

「これまでは画像処理の活用領域を広く紹介していましたが、今回は、メディカルを1つのケースに、アプリケーションとしてどのような展開が可能かを探る内容になっています」(大谷氏)

最新の物体認識、画像認識が理解できる「ADAS / ロボティクス」トラック

「ADAS / ロボティクス」は、自動車やロボティクスの領域を中心に活用が進む、画像処理、物体認識、トラッキング、機械学習などの技術を中心としたトラックだ。

昨今話題となっている自動運転に関するセッションも、「ADAS / ロボティクス」トラックでは予定されている

MathWorksによる講演では、「Simulink環境で実施するADAS (先進運転支援システム) 実験」「OSと連携したロボティクスアプリケーション開発」「MATLABではじめる画像処理とロボットビジョン~機械学習による物体認識とSLAM~」が行われる。

ユーザ講演では、まず、自動車向けシステムサプライヤーであるショーワの高僧美樹氏が「自動運転システムの開発における、画像認識を含んだラピッドプロトタイピングシステム構築」と題した講演を行う。白線や障害物検知等の認識技術を含む自動運転ラピッドプロトタイピングシステムを、MATLAB/Simulinkで構築した事例だ。

また、奈良先端科学技術大学院大学の松原崇充氏は、「ロボットハンドと触覚センサを用いた能動的物体認識」と題し、知能システム制御研究室で行っている、機械学習に基づく知能ロボットの研究開発事例を紹介する。ロボットが、自分が触れている物体について、認識の不確実性(曖昧さ)を減少させるための探索行動や触覚情報の認識などを、どう処理するかを紹介する。

物体の認識や画像処理、機械学習は、自動運転システムやロボティクスにおいてキーテクノロジーの1つだ。猛スピードで開発が進み、目が離せない領域であり、その最先端の取り組みを知ることは、今後の方向性を探るうえでも重要だ。

電力自由化やスマートメーターで注目度か高まる「EMS / パワーエレクトロニクス」トラック

「EMS / パワーエレクトロニクス」は、EMS(エネルギーマネジメントシステム)や電力制御に関するトラックだ。エネルギーは今後、技術の活用とビジネスが大きく広がっていく分野だ。スマートグリッド、スマート家電、電力自由化、CO2削減などをキーワードとし、注目度も高い。

昨年同様、エネルギーマネジメントをテーマとした「EMS / パワーエレクトロニクス」トラックも準備されている

注目は、デンソーの伊藤章氏による講演「MATLABによるエネルギーマネージメントシステム統合開発」だ。従来のEMS開発では、蓄電池の充放電計画の設計・検証を最適化ツール上で、エネルギー制御は実機上で設計・検証するなど、別々の環境で行ってきた。デンソーでは、家庭用EMS開発を題材に、最適化設計からエネルギー制御検証までを一貫してMATLAB/Simulinkで行っており、その取り組みが紹介される。いわゆるマイクログリッドと呼ばれる領域での事例となる。

このほかにも、「カルマンフィルタを用いたバッテリーのSOC推定ロジックの開発」「時系列データ解析による予測と最適化~エネルギー需要、発電、価格のモデリング~」という2つのセッションが行われる。

「エネルギー分野では、いろいろな領域で用いられる技術が融合されようとしています。技術だけでなく、ツールの使い方や標準化に向けた取り組みなどは、ビジネスにも大きく関わってきます。新技術の開発や新ビジネスの立ち上げに参考になるはずです」(大谷氏)

国産メーカー揃い踏み「自動車業界 適用事例」トラック

7つめのトラックとして注目したいのが、今回新たに設けられた「自動車業界 適用事例」だ。自動車業界の主要プレイヤーが参加し、MATLAB/Simulinkを中心に、自社の取り組み事例を紹介する。

MATLAB/Simulinkの主な導入先となる自動車業界については、6社もの主要プレイヤーによる事例講演が予定されている

トヨタ自動車の上田広一氏は「エンジン制御仕様・ソフトウェア開発の進化」と題し、モデルベース制御開発の基盤ツールとして採用したMATLAB/Simulinkを用いて、どのようにエンジン制御仕様・ソフトウェア開発を進めてきたかを紹介する。

本田技術研究所の大淵雅一氏は「Simulinkを使ったF1パワーユニットの開発」と題し、2015年から再参戦したF1世界選手権での、F1パワーユニットの制御系開発とシミュレーションテストについて紹介する。

日産自動車の加藤浩志氏は「日産のエンジン制御開発におけるMBDのプロジェクト適用事例」と題し、エンジン制御として初めて全面MBD開発となった、新型エクストレイルでの適用を紹介する。

このほか、マツダの小谷和也氏による「減速エネルギー回生システム『i-ELOOP』とモデルベース開発」、富士重工業 古賀祐一郎氏による「ボディ系電子装備アクチュエータの物理モデル開発」、デンソー 三輪修也氏による「マルチドメインシミュレーションのプラットフォームとプラントモデル開発」など、注目セッションが目白押しだ。

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多くのユーザに支えられ、豊富な実績を残してきたMATLAB/Simulink。領域をまたがって技術とビジネスの"融合"が進むなか、同製品は新しい可能性に向けて大きく飛躍しようとしている。「MATLAB EXPO」では、そうしたダイナミックな勢いを感じとることができるはずだ。ぜひご参加いただきたい。

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