フィアロコーポレーション松本貞行氏

試作やデザインで自動車メーカーの開発をサポートするフィアロコーポレーションは、フィジカルモデルによるテストを実施せず、CAEソフト"HyperWorks"によるシミュレーションを活用することで、ライトウェイトスポーツカー"P75 CIPHER(サイファー)"の製作を実現させた。 「走る車を作るのは、まったく初めての経験」だったにもかかわらず、わずか1年で完成させることができた要因はどこにあるのか。CAEを担当した松本貞行氏のインタビューをお届けする。

「100km/hで走行可能な車両」×「デジタル開発」に初挑戦

――はじめに、御社の概要とプロジェクトの経緯について教えてください。

当社は1939年に「江戸川木型製作所」としてスタートしました。事業拡大に伴い、1992年に社名を「株式会社フィアロコーポレーション」に変更し、現在は主に自動車・オートバイを中心とした工業製品の開発を行っています。

"P75 CIPHER"は、創業75周年プロジェクトとして製作したライトウェイトスポーツカーです。フィジカルモデルによるテストを実施せず、CAE(Computer Aided Engineering;コンピュータを用いた製品モデルによる解析)のみで「100km/hで走行可能な車両」を完成させることがテーマでした。もともと当社は木型職人の会社ということもあり、アナログが得意な文化でしたが、昨今はものづくりの様相も変わり、最先端のデジタル開発手法を使いこなせなければ開発が滞るようになりました。CAE技術を習熟させ、事業領域を拡大させることも、プロジェクトの狙いです。走る車を作るのは、まったく初めての経験だったので、大きな挑戦になりました。

P75 CIPHER

――P75 CIPHERはフレームが特徴的なデザインとなっていますね。どのようなコンセプトなのでしょうか。

今回の車で目指したものはクラブマンレーサーです。週末にクローズドサーキットの走行を楽しむことのできる「カッコイイ」車づくりを追求しました。また、「CAEによる開発で骨格がしっかりしている」と、技術を伝える必要もありました。トポロジー最適化と、「魅せるフレーム」を念頭に置きながらイメージを固めていったところ、当社がオートバイの開発もやっていることもあり、フレームにボディやメカニカルパーツを組み付けるという軽快なデザインになりました。

トポロジー最適化の結果を基に「魅せるフレーム」を検討

1年でジュネーブモーターショーへ

――デザイン制作からプロジェクトはどのように進んでいったのですか?

デザインチームが「カッコイイ」を、CAEチームが「走る」「曲がる」「止まる」をそれぞれ保証するために、並行して作り込みをしました。基本骨格の検討は、ベンチマークとして車両を1台購入し、リバースエンジニアリングにより作成した3Dモデルからさまざまな特性を算出、この結果を制約条件として、構造最適・トポロジー最適を実施しました。

可能な限りバーチャルな環境で開発することがテーマだったので、HyperWorksのMotionSolveにより、フルブレーキングやコーナリングをシミュレーションし、調整を行っています。CAEを推進する以前に、社内のエンジニアが経験と勘を頼りに設計したものと比較すると、フレームの剛性を約50%アップさせることができました。もちろん、走らせる前は不安もありましたが、無事に「100km/hで走行可能な車両」を完成させることができました。

MotionSolveで仮想サーキットを走行する

――実際にサーキットを走ってみて、いかがでしたか?

車高がもの凄く低いため、路面状況やスピードが身体に伝わってきますし、じかに風を浴びて、エンジン音がすぐそばで響くという「車って楽しい!」をダイレクトに感じることができました。

実際の走行中の様子

――プロジェクトの発足から、完成までの期間はどれくらいだったのでしょう?

企画が発足したのが2013年の秋で、完成したのは2014年末です。CAEの導入は2014年2月からで、最初は解析専用のマシンもなく、CAD用のワークステーションを使っていました。

――わずか1年間のプロジェクトだったのですね。完成したP75 CIPHERは、今年の3月に、スイスの「ジュネーブモーターショー 2015」に出展されましたが、どのような反響がありましたか?

デザインについては好評を頂けましたが、ジュネーブは車を本当に好きな人が来るモーターショーなので、一般のお客さんからも性能・スペックについて厳しい質問があり、良い勉強になりました。今後、技術的にランクアップしていく上で、貴重な経験ができたと思います。

ジュネーブモーターショー2015

プロジェクト成功を支えたHyperWorks

――今回のプロジェクトを進めるに当たって、アルテアエンジニアリング社のHyperWorksを使用されてますが、CAEソフト選定の理由はどこにありましたか?

CAE領域でやらなければいけないことを、できるだけ低コストで実現する事が絶対条件です。今回の車両開発では構造・機構・空力の解析が必要でしたが、用途に合わせた解析ソフトをそれぞれ購入すると非常に費用が高くなってしまいます。その点、HyperWorksはオールインワンで導入し易かったです。また、プロジェクトメンバーには構造解析の経験はあれど、機構や空力の経験はありませんでした。そこで、CAEでやりたい各項目がそろっており、技術サポートについてもご協力頂けるアルテアエンジニアリングさんのHyperWorksを使用することに決めました。

各種CAEソフトがオールインワンの「HyperWorks」

――具体的には、どのような技術サポートがあったのでしょうか?

機構・空力の解析は、まったくの初めてだったので、そもそもどういうモデルを組めばいいのかが分かりませんでした。ひと通りチュートリアルをして、ツールをある程度使えるようになった状態で質問させて頂きました。電話でのやり取りだけでなく、栃木工場に来て頂いたり、また、こちらからお伺いしたりと、具体的な内容に対して幾つものアドバイスを頂きました。今回のプロジェクトはCAEの習熟には最高の教材となったと思います。

ミーティングの様子

――CAEの信頼性について疑問視する声もありますが、どのようにお考えでしょうか。

使う側の問題だと思います。電卓と一緒で、目的を達成するためにどういうプロセスがあるのか正しく理解していないと、結果の数字が合っているか間違っているかが分かりません。例えば、サスペンションアームの右側を計算するのに、左側の入力をしてしまっても、それらしい結果は出てしまいます。ですから、結果の妥当性をある程度判断できる経験を身に付けることが必要です。どんなに小さな設備でも良いので、実験できる設備を入れて、自分がやっている解析の結果を正しいか正しくないか判断できるようにすべきだと思います。

――今後はCAEをどのように活用していきますか?

まずは、今までエンジニアの勘でやっていたところの検証です。実はオーバースペックだったなど、解析することで可視化できる部分が多々ありますので、コストを下げて良いものを作るというところに落とし込んでいきます。また、P75 CIPHERのプロジェクトで、開発チームが車両の企画から完成まで携われたことは非常に大きいです。分業が進んでいる完成車メーカーではできないことですから。今回の経験を通じて、「こういう計算できます」「こうしたほうが良い結果が出ますよ」という提案型の仕事をしていきたいと思います。

P75 CIPHERに使用されているCAEシミュレーションが動画でご覧いただけます。動画を再生する。

(マイナビニュース広告企画 : 提供 アルテアエンジニアリング株式会社)

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