ジュエリーの製造販売・リフォーム・修理の専門店として創業したケイ・ウノは現在ジュエリーのオーダーメイドブランドとして名高い。愛知県名古屋市に本店を構え、東北から沖縄まで33店舗を展開する企業である。全国で180人もの職人たちが、全国33店舗で受注されたオーダーメイドのジュエリー製作に腕をふるっている。
そして現在、その現場で欠かすことができない存在となっているものが、各職人のデスク上に置かれたiPadである。手加工の極みとも呼べるジュエリー職人の工房で、先端のデジタルデバイスであるiPadがどのように活用されているのか、本記事ではその実態について迫ってみる。
導入の理由は “限られたスペースでの極めて慎重な手作業”
2013年春、同社は新たに生産管理システムの導入を検討していた。ケイ・ウノがオーダーメイドのジュエリーを製作する場合、その工程数は多い時で30にものぼる。しかも、製品の性質上、別々の工程を同時に動かすことはできない。
例えば、AからBへと工程が流れる場合、Aが終わらなければBの工程に取りかかれない。そのため、Bを担当する職人が誰になるかは、Aの工程が終わるまではわからない状態になる。
「オーダーメイドジュエリーは、ほとんど人の手で作っています。同じ工程でも、1時間で終わる職人もいれば、2時間かかる職人もいます。そのため各工程が終わるタイミングが読めず、次の職人がギリギリまでアサインできない状況が続いていました」と語るのは同社 製造部 生産管理課長の相庭聡氏である。
「付け加えると、私たちのような受注生産品の場合、どうしても発注の波が発生します。ある週の加工量と翌週の加工量が倍近く違ってしまうことも。しかも、そのタイミングが読めない。これをどうにかしないと職人の士気にも関わります。そこで、計画的な生産管理ができるシステムの導入に踏み切ったのです」(相庭氏)
その生産システムの導入に合わせて、同社はiPadの全社導入にも踏み切った。その理由は単純に言えばスペースの問題ではあるが、求められるレベルは当然違う。
「管理部門であれば通常のPCでも問題ありませんが、職人のデスクは工具が一杯でノートPCですら置くスペースがありません。いろいろ検討はしてみましたが、システムの端末としてはタブレットしか選択肢がありませんでした(笑)」(相庭氏)
タブレットに最適化されたユーザインタフェース(以下、UI)の重要性
システムを導入することで、計画的な生産管理が、ある程度は実現できた。ただ一つ、大きな問題があった。それは、導入時PCとiPadの画面設計を分けて考えなかったことによってiPadで十分な使い勝手を確立できなかったことである。
「ボタンが小さくて選択しづらかったり、スクロールが長くて入力箇所まで辿り着く前で手間がかかったりと、職人にストレスを感じさせる部分がありました」(相庭氏)
ものづくりにおいて特に悪影響を及ぼすもの、それはストレスだ。職人はジュエリーの加工に集中すべきだが、導入当初はiPadの操作に多くの時間をかけなければならず操作する職人に多くの負荷をかけてしまっていた。
UIの問題は、操作感(使い勝手)だけではなかった。ケイ・ウノの製品はミリ単位の細かな作業の結晶だ。数値の入力ミスが発生してしまうと、商品として成立しなくなくなることがある。オーダーメイドの製品で、ミスによって生じる損失は甚大なものとなる。トラブルを防ぐためにも、UIの改良は急務だった。
「どこに相談しようかと話していたところ、たまたま私の前任者がアイセルさんのエンジニアの方と知り合いだったので、早速連絡をとって来ていただきました」(相庭氏)
株式会社アイセルは業務用のWebシステムやiOSアプリの開発などを行うSI企業である。ビジネスソリューション第一事業部 プロジェクト推進部の木原康智氏がケイ・ウノを訪れたのは、最初の生産管理システムが導入されて1年後の、2014年6月のことである。
「幸い、私たちにはiOSのアプリ開発の経験があったため、タブレットのUI開発にはノウハウがありました。ただ、ジュエリー業界というある意味、特殊な分野であったため、職人さんたちの仕事現場での状況の把握が、何よりも重要であることは直ぐに解りました。
ヒアリングの初期段階では、フットデバイスを使った操作なども案としては浮上しましたが、手が塞がった状況下、限られた空間でもデータを難なく取り扱うには、何よりも使いやすいUIの提供がもっとも効果的であると判断しました。
UIの改修にあたっては、ケイ・ウノ様のご協力のもと、何度も何度も、職人さんたちの仕事環境についてのヒアリングを重ねさせていただきました。ヒアリング、開発、評価というサイクルを短期間で繰り返し行うことで、精度を高めていくことができたと思っています。」(木原氏)
最初の試作版が完成したのが同年の9月頃。その後、実際に現場の職人に利用してもらい、その意見を取り入れて改良を続けていった。
「現場の方からのヒアリングを行った際に、iPadならではの操作感を求められる意見が多く寄せられました。皆さん、私たちの想像以上にタブレット特有の操作に慣れていらっしゃったので、より満足していただける操作感を提供しなければというプレッシャーとともに、新たなチャレンジに対する期待を強く感じたことを覚えています(笑)」(木原氏)
その中で、ジュエリー職人ならではとも呼べる要望があった。それは「取り込んだ画像を実寸サイズで表示できるボタンが欲しい」というものだ。ケイ・ウノでは、設計図となるデザインはA4用紙で描かれており、職人たちは都度ごとに図面通りにできているかを紙にあてがいながら確認していた。生産管理システムの導入とともに、それらも画像として取り込むことになったのだが、iPadでも紙の時と同様に照らし合わせられるように、ボタン一つで実寸表示できる機能が欲しい、とのことだった。
「実は、職人の中には、解りやすいように画面上に十字線を入れている者もいるんですよ(笑)」(相庭氏)
それらの要望を取り入れ、最終版が完成したのは2015年1月のことだった。
職人魂を加速させるストレスのないUI
相庭氏によると、アイセルによって変更されたUIによって、1人当たりの作業時間が1日につき約5分ほど短縮できたとのことである。工房内にて作業をしている職人は130人。つまり一ヶ月(実働22日)で計算すると工房全体で約240時間の効率化が実現できたことになる。
ただ相庭氏によると、これらの数値データよりも「端末操作によって職人がストレスを感じなくなった」ことが大きいと語る。
「実は、UIが変わった後、現場からは何の反応も上がってこなかったんです。正直、これは凄いことだと思っています」(相庭氏)
これまで、システムに不具合があると、即座に苦情が寄せられていた。それが全くないということは、職人がストレスを感じてないことの証だと、相庭氏は語る。
「職人にいい仕事をしてもらうために少しでもストレスを減らす、これが最も生産効率の向上につながります。正直、iPadの運用自体は、まだ始まったばかりです。改良すべきポイントも沢山あります。幸い、アイセルさんはフットワークも軽く、相談にもすぐに対応してくれます。ですから、これからもいろいろとお願いしていくつもりです」(相庭氏)
取材協力 株式会社ケイ・ウノ |
オーダーメイドで年間3万8,000種類のデザインを生み出す同社。自社クラフトマンは180名以上にのぼり、「アレンジオーダー」から「フルオーダー」まで長年培った技術で想いをカタチにしている。 |
株式会社ケイ・ウノのWebサイト |
取材協力 株式会社アイセル |
「ITを通して心豊かな社会を築き、貢献できる企業」を目指す株式会社アイセル。1989年の設立以来、業種業態を問わずあらゆるお客様に業務システムを提供。現在はAppleのパートナーとしてiPadのビジネス活用を推進している。 |
株式会社アイセルのWebサイト |
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