iPhoneアプリの情報サイトとして圧倒的な知名度と信頼感を得ている「AppBank」。その運営を行っているGT-Agencyの代表を務める村井智建氏に、iPhoneアプリのマーケティング手法についてお話を伺った。なお、詳細は2011年7月29日に開催される『マイコミ スマートフォンアワード2011』における村井氏の講演「人がお金を払いたくなるアプリの法則」で解説される予定である。無料で参加できるので、併せてご聴講いただきたい。
記事のPVとダウンロード数は比例しない?
――AppBankという情報サイトを運営している村井さんであれば、アクセスログを解析して各記事からどのアプリがどのくらい売れたか(ダウンロードされたか)、という情報を把握されているんですよね?
「私たちはAppBank経由で個別のアプリがどれだけダウンロードされたかを把握していません。そういうレポート機能がないので。ただ、各記事のPVや掲載後の反響やランキングの変動なので、どのアプリがどれぐらいダウンロードされたのか、などをある程度把握することはできています。興味深いのは、記事のPVとダウンロード数は必ずしも比例しないということですね。たくさん読まれてもダウンロードされないアプリもあるし、あまり読まれなくても確実にダウンロードされるアプリもあります」
――後者のケースはアプリと読者のマッチングが上手くいっている、つまりAppBank編集部のネタの拾い方が巧みであるという事だと思いますが、前者は記事を読んだら興味が失せてしまうということなんでしょうか?
「そういうことではなくて、おそらく記事を読むことでそのアプリに関して満足してしまってダウンロードまでいかないアプリがあるって感じでしょうか。以前であれば、無料アプリというだけで多くのダウンロードが見込めたのですが、現在は無料アプリが溢れています。しかも本来、有料でお金を取ってもいいクオリティのアプリですら、無料で販売されていたりします。あまりに数が多いので“無料アプリであっても、ダウンロードするソフトを選ぶ”という時代に突入しているのかな、と感じます。以前は、ビールジョッキを模したアプリとか、オナラの音がするアプリとか、いわゆる一発芸的なアプリでも“とりあえずダウンロードしておこう無料だし”って感じのノリだったのですが、現在は無料でも役に立つ物、しっかり面白いものを選んで入れよう、と変わってきているのではないかと。一発芸的なアプリでもしっかり光るものや、読者の心に刺さる演出がなければダウンロードされない。それが記事のPVとアプリのダウンロード数が比例しない理由の1つにもなっているんでしょうね。iPhoneユーザーのアプリに対する目利き力はどんどん肥えているんですよ。その分、私たちもよりよいアプリを見つけて、堀り出して、しっかり紹介していかないといけないな、と感じています」
――セール情報も重要なんですよね?
「もちろんです。AppBankではリリースされたすべてのアプリを見た上で、どのアプリをダウンロードするかを決め、7人のレビュアーに割り振ります。そして、それぞれが「これは紹介したい!」というアプリのレビューを書くようにしているんですが、レビューとは別に、毎日、コアタイムであるお昼に、値下げされたアプリの情報を掲載するようにしているんですよ。このセール情報だけでAppBankのトラフィックの約1割を占めるほどです。そこからダウンロードされるアプリの数は非常に多いでしょうね」
アプリ情報サイトとして、確固たる地位を築いた「AppBank」 |
iPhoneでサイトを見ると、ピックアップされたアプリの有料/無料/セール情報の有無がすぐにわかるようになっている |
――値下げされたアプリは、そんなに魅力的に見えるのでしょうか?
「iPhoneアプリ情報サイトの中でも、セール情報だけを扱うサイトは多いですから、値下げすることで露出が増えるという要因もあるんでしょうね。そして、値下げによってたくさん購入された結果、App Storeの25位以内に入ることができれば、そのアプリの購入数は爆発的に伸びることになります」
――爆発的に、ですか?
「実のところiPhoneアプリ購入者のうち、レビューサイトなどをチェックして情報を集めているユーザーは一握りかと思います。やはりユーザーの多くはApp Storeのランキングを見て、売れているアプリ=いいアプリだと思って買うわけです」
――App Storeのランキング表示は、25位までしか表示されませんね……。
「そうです。多くの人は最初に表示される、25位までの中からダウンロードするアプリを決めるので、いかにして25位以内に食い込めるかが勝負なんですよ。そして、値下げすることで瞬間的にでもダウンロード数を伸ばすことができれば、広告などを使ってプロモーションするよりも、ずっと効果的にダウンロード数を伸ばすことができるのです」
――まずは無料版を配布してヒットさせ、有料版にアップグレードさせるという手法よりも効果的なんですか?
「先述の通り、数年前までは無料アプリというだけでダウンロードしてくれるユーザーがたくさんいましたが、今では無料アプリが多数ある状態です。もしかしたら、無料アプリで成功するのは、有料アプリで成功するよりも難しくなっているかもしれません」
成功するアプリの定価は、230円以上!?
――有料アプリであれば、値下げというプロモーションテクニックが使えるため、ですね?
「そうです。そして、値下げするためには、定価は230円以上でなくてはなりません。定価が115円のアプリは値下げすると無料にしかできませんし、無料と有料のランキングは別々に集計されてしまうので、セール終了後も有料ランキングに残すためには、値下げ後の価格が、最低でも115円でないといけないのです。なので、もし115円のアプリを作っているのなら、もう一工夫入れて230円のアプリに仕上げてリリースし、販売後のセールなどを含めたプロモーションを考えた方がいいかと思いますね」
――ちなみに、マーケティング的に有効な値下げタイミングというものはあったりするのでしょうか?
「一番のタイミングは、新端末が発売された時です。直近ですとiPhone 4のホワイトが発売された時がそうでしたし、これから先ですと秋に発売すると噂されているiPhoneの次世代機が発売されるタイミングがそれにあたります。人がアプリを一番ダウンロードするのは、iPhoneを買ってから最初の1週間だと思います。最初は標準アプリしか入っていないので何かゲームとかアプリがほしくなりますよね? 一番iPhoneが売れる時、要するに新型iPhoneの発売日は非常に狙い目なのです。新機種購入者のアクセスがApp Storeに集中する時に、ランキング上位にいられれば、莫大な売上になると思いますよ。ただ、ライバルも多いとは思いますが。また、ランキング上位を取りやすい「穴」のジャンルを狙うという手もあります。『マイコミ スマートフォンアワード2011』では、こういったアプリのマーケティングについていろいろとお話できればと思います。ぜひ当日会場にお越しください」
一見、飽和状態にあるように思えるアプリ市場。しかし、毎日、その動向をながめている村井氏によれば、まだまだチャンスは転がっているという。「これだけ商機が転がっている状態を見ると、自分も制作者として参加したいと思いますね」と、言わしめるほど。どちらかというとクリエイターというよりは経営者の視点で市場を観察しているという村井氏の根底にあるのは感覚ではなく、明確なマーケティングロジックだ。村井氏によれば、ソフト開発者、ベンダに求められるポイントは、これまでのソフトウェアのそれとは全く異なるものになるとも。『マイコミ スマートフォンアワード2011』では、村井氏のロジックやポイントが多く披露される予定だ。ぜひ以下のリンクより、参加お申し込みをいただければと思う。
(マイコミジャーナル広告企画)
[PR]提供: