エイリアシングの影響を受けやすいシステム
システムは、対象とする信号に浮遊信号の高周波カップリングや大きな高周波リップルが重畳している場合にエイリアシングを起こしやすくなります。その結果、不正確な、あるいはノイズの多い値が出力されたり、制御ループが誤った動作点に留まったりする可能性があります。
ナイキストのサンプリング定理によると、ゼロドリフトのクロックは、対象とする信号の最大周波数成分の少なくとも2倍である必要があります。言い換えると、入力信号の最大周波数は、アンプの内部クロックの半分以下である必要があります。
ナイキストのサンプリング定理を忠実に守るにはどうすればよいでしょうか? 信号周波数に上限を設ける(fin < fCLOCK/2)のは、とても簡単ですが、浮遊信号、ノイズ、あるいはリップルを拾うと、ナイキスト周波数より高い周波数が含まれる可能性があります。これらの周波数によって、適当な周波数範囲でエイリアシングが発生し、誤差や間違った測定値につながります。
入力信号に含まれる周波数を使用可能な周波数範囲に確実に限定するために、ローパスフィルタをアンプの前に追加できます。(ナイキスト周波数を超える)高い周波数を減衰させることによって、エイリアシングの影響を低減または除去できます。
アンチエイリアシングのフィルタリングでは、純粋にアナログのフィルタをアンプ入力の手前に配置しなければなりません。多くの場合、図13に示すような単純なRCフィルタで十分です。複雑で手の込んだフィルタアーキテクチャは、めったに必要ありません。アクティブフィルタ回路では、アンプをフィルタの一部として構成しないようにしてください。
複数のクロック周波数があると干渉しエイリアシングの原因となる可能性があるため、ゼロドリフトアンプをカスケード接続することもリスクになります。
過渡応答に関する考察
チョッパチャンネルアーキテクチャのタイムベースサンプリングにより、低オフセットを実現するゼロドリフトアンプには時間的な側面があるため、オフセット補正は瞬時には起こりません。アンプ入力に大きな動的ステップがあったり、さらに悪いことに、入力の過負荷が起こったりすると、ループが低オフセット状態に復帰するために時間を要する状態が発生する可能性があります。これにより基本的にセトリングタイムと動作が影響を受けます。
より高いクロック周波数を用いることにより比較的高速な回復とセトリングタイムが可能になりましたが、これらのパラメータはゼロドリフトアンプについては通常数十マイクロ秒以上です。通常、これは設計のトレードオフによるものです。トランジスタレベルのアンプ設計では、高速のセトリングタイムを選ぶとオフセット電圧が高くなる可能性があります。通常、低い入力オフセット電圧仕様のほうが優先されます。 ターンオン時間とロバスト設計
ゼロドリフトアンプにはかなりの量のロジック回路が組み込まれているため、起動時や電源異常(電圧低下など)時に規定の動作を確保する方法もいくつか備えているのは当然のことです。まずオフセット補正アンプの電源投入時、出力が未補正のオフセットを反映するための短い期間があります。電源電圧が、パワーオンリセット(POR)回路によって設定された規定トリップ点に到達した時点で、オフセット補正メカニズムには、アンプ出力が規定オフセット限度内に入るまでに数クロックサイクルが必要です。
通常、このアンプの起動時間は、普通はシステム全体の起動時間内に十分入っているため、システム全体の観点からは重要項目ではありません。これがゼロドリフトアンプのデータシートにこのパラメータを掲載しないオペアンプメーカが多い理由かもしれません。起動時間もアンプの設定ゲインによって変化し、ゲインが大きいとトータルの起動時間が増加する可能性があります。
非常に重要なシステムにおいては、リニアアンプはこれらの複雑さを簡単に解決でき、はるかにロバストな起動性能を実現できるという事実を考えるべきです。低オフセット電圧を実現するために、チョッパ安定化あるいはオートゼロアーキテクチャの代わりにトリミングを使用している高精度オペアンプもあります。これにより、アンプを備えたクロック動作システムをなくすことができます。このことは、大型の産業用ブレーカなど、多くの設計において重要な検討事項です。トレードオフは、トリミングされたリニアアンプは、ゼロドリフトアンプと同じ超低入力オフセット電圧性能を備えているとは限らないことです。
レールツーレール性能向上へのゼロドリフトの影響
レールツーレール入力オペアンプでは、2組の入力ペアを使用し、同相入力電圧範囲を拡大します。PMOSのペアは低い入力電圧領域に対する入力段として使用され、NMOSのペアは高い入力電圧領域に対して使用されます。各入力ペアは、それぞれに対応する入力オフセット電圧を持っています。同相電圧が一方の領域から他方へシフトするとき、通常、オフセット電圧が一方から他方へ急に変化するクロスオーバ領域が存在します。
ゼロドリフトオペアンプにおけるレールツーレール入力の性能は、PMOSとNMOSの入力ペア間の入力段のクロスオーバ領域の影響を大幅に低減することにより、ゼロドリフトではないアンプに比べ、ゼロドリフトアンプに大きなメリットを実現します。同相入力電圧の限界値付近のオフセット電圧とオフセット電圧のドリフト性能は卓越しており、これがゼロドリフトアンプがハイサイド電流検出などのアプリケーションで使用される理由です。
(次回は9月27日に掲載します)
著者プロフィール
Farhana SarderON Semiconductor
アプリケーションエンジニア
アナログ回路設計のバックグランドを有し、高精度オペアンプ、電流検出アンプ、コンパレータなどのアンプ製品を専門としています。
電気工学修士号を取得。