入力オフセット電圧が重要である理由
オフセット電圧は、忠実に取り込むことができる最小信号を制限するパラメータの1つです。この値はダイナミックレンジの低い方のレベルを規定します。
入力オフセット電圧はすべてのオペアンプにとって重要なパラメータです。データシート上では通常、VOSまたはVIOと書かれています。これはIN+とIN-端子間の固有の差動電圧であり、入力ペアがどの程度整合しているかの目安です。理想的なオペアンプでは、閉ループ系ではVIN+ = VIN-となります。現実には入力オフセット電圧のためにVIN-がVIN+と等しくならない可能性があります。
入力ペアの整合性を改善するためにシリコンレベルで実施できる設計手法がありますが、入力オフセット電圧を引き起こす主要要因は製造プロセスです。半導体材料の不完全性によって、入力端子間に内部電圧差が生じます。製造プロセスに起因する異なる種類の不完全性により、温度係数に違いが生じます。
この製品間のばらつきによって、特定の製品にドリフト(入力オフセット電圧が温度によって変動する現象)が生じ、データシート上の標準値よりも高くあるいは低くなる可能性があります。さらに、ドリフトの温度係数は正の場合も負の場合もあります。このためアプリケーションで入力オフセット電圧を単純に校正することは困難です。場合によっては、従来型リニアオペアンプのオフセットとドリフトを低減すると、消費電力が増加することもあります。
図1に示すように、入力オフセット電圧はゲイン倍されて出力電圧に加算され、基本的に出力に誤差の要素が付加されます。このパラメータは低い差動電圧の測定の際に非常に重要になります。差動電圧が低くなるほど入力オフセット電圧による誤差が増加します。
上の図1に示す差動アンプ回路では、出力電圧は信号ゲインの項とノイズゲインの項の和になります。
オペアンプの内部パラメータとして、入力オフセット電圧には、信号ゲインではなくノイズゲインが乗算されます。これが出力オフセット誤差となります。
高精度アンプでは、入力オフセット電圧を低減する多くの手法を活用して、可能な限りこのオフセットを最小化することを目指しています。ゼロドリフトアンプでは、これを特に低周波および直流の信号に適用しています。表2は、一般に使用されている汎用オペアンプとチョッパ安定化ゼロドリフトオペアンプの最大入力オフセット電圧を比較したものです。
(次回は9月24日に掲載します)
参考文献
著者プロフィール
Farhana SarderON Semiconductor
アプリケーションエンジニア
アナログ回路設計のバックグランドを有し、高精度オペアンプ、電流検出アンプ、コンパレータなどのアンプ製品を専門としています。
電気工学修士号を取得。