1. サイトの認証試験に一発合格するには?

設計開発した無線組込み機器を製品として出荷する為には、電波法の技適規制値や、EMI/EMCノイズ規制値をクリアしなければなりませんが、試験は公的に認可を受けている認証サイトに設計開発した製品を持ち込んで、有償で評価試験を行います。製品が大型で移動したり持ち込んだりするのが困難な場合は、サイトの方から出張オンサイト試験に来てくれるサービスもありますが、いずれにしても一回の試験に1~2日の日程を要し、試験価格も通常は数十万円~100万円を超えるコストがかかるのが一般的です。試験を受けて一発で合格すれば良いのですが、不合格の場合は再挑戦しなければならないので、開発時間の遅延開発コスト増という2重苦に直面します。

今回は、認証サイトでの有償試験に一発合格するために、事前に机上での実験室レベルで行える「プリコンプライアンス試験」のノウハウをお伝えします

手頃な価格のプリコンプライアンス・テストは、問題が発生する可能性がある箇所の確認を簡単に行えるので、高額なコンプライアンス・テスト施設でのテスト時間を大幅に短縮できる。(出典:テクトロニクス社 アプリケーションノート)

1.1 電波暗室は必要か?

技適の電波法の送信/受信試験については、周波数【偏差】、占有周波数帯域幅(OBW)、スプリアス発射の強度、空中線電力、隣接チャンネル漏えい電力(ACPR)、副次的に発する電波等の強度、等を試験判定されますが、測定系は、無線モジュールからアンテナへの送信出力を、スペアナや電力計などの測定機器に有線で入力します。なので、厳密には電波暗室が必要ですが、暗室が無くても机上の実験室レベルで予備試験を行って合格の目安を判定することは可能です。変調信号発生器は必須ではありません。試験手順書は認証サイトのTELECが無線の種類別に一冊1万円程度で販売しています。

測定系統図: 受験機器からスペアナには有線で接続する。(出典:TELEC 技術適合試験 特性試験方法)

1.2 EMI/EMC 放射エミッション試験の場合は?

試験する場所は、外部の信号源の影響がない場所が適しています。郊外、会議室、または地下室などでプリコンプライアンス試験を行います。

ビルの地下に設置したプリコンプライアンス・テストのセットアップ例 (出典:テクトロニクス社 アプリケーションノート)

1.3 必要な測定機器(スペアナ)の仕様とコストは?

スペアナのRBWフィルタは通常3dB帯域ですが、CISPRでは6dB帯域で測定すると定義されているので注意が必要です。スペアナはRBWフィルタの帯域幅を6dBに設定できる機種か、またはCSIPRフィルタを選択できる機種が必要ですが、最近は安価なUSBスペアナでもCISPRフィルタを選択できる製品があります。

ほとんどのEMI規格は6dB帯域幅で定義されている。3dB帯域幅とは大きく異なった結果になるので要注意。(出典:テクトロニクス社 アプリケーションノート)

1GHz以下の正式な認証試験では、QP(準尖頭値)検波を使用して合否判定をしますが、QP検波は測定に時間がかかるので、最初にピーク検波で測定をするのが一般的です。QP検波はピーク検波よりも値が大きくなることはありません。なので、ピーク検波で規格値の限度を超えそうな信号を探して、そのあとに、不合格になりそうな信号をQP検波で測定して合否判定をします。安価なスペアナにはQP検波機能が無いものが多いのですが、ピーク検波でトラブルシュートや診断をすることは可能です。たとえば8μsパルス幅で10ms繰り返しレートの信号でピーク検波とQP検波の差を比較すると、QP値は、ピーク値より10.1dB小さくなっています

準尖頭値応答は常にピーク検波以下であり、ピーク検波より大きくなることはない。したがって、EMIのトラブルシュート、診断にはピーク検波が使用できる (出典:テクトロニクス社 アプリケーションノート)

コストについては、最近は40万円程度のUSBスペアナで、CISPRフィルタの設定ができる製品があります。アンテナは安価なものではアンテナ係数表付のプリント基板ログペリ・アンテナが、30$(3,600円)程度で市販されています。厳密には認証サイトでは30~300MHzはバイコニカル・アンテナ、300MHz~1GHzはログペリ・アンテナを使用して、水平偏波、垂直偏波の2方向で試験評価をするので、同じ種類のアンテナを使った方がベターですが、アンテナ係数(AF)付のアンテナがあれば、スペアナで電界強度(dBμV/m)を測定できるので、実験室でのプリコンプライアンス試験として事前評価をすることができます。

エレクトロ・メトリクス社製EM-6912Aバイコニカル・アンテナ(左側)と、安価なプリント基板ログペリ・アンテナ (出典:Kent Electronics)

1.4 3m法、10m法との相関比較は?

実験室で1mの距離で測定した場合、電磁波の電力密度(μW/cm2)は距離の2乗に半比例して減衰するので、1mが3mになると1/9の電力密度になりますが、電界強度(V/m)は距離に反比例して減衰するので、1mが3mになると1/3の電界強度になります。

1/3はデシベルで計算すると20・log10(1/3) = -9.5dB の電界強度が減衰します。厳密には実験室と電波暗室の反射の違いの影響がありますが、ざっくりと約-9.5dBを補正した値で評価判断をします。1mの距離と10m法の比較では、同様に20・log10(1/10) = -20dBの違いを補正して評価します。

ただ、測定周波数が48MHz以下については、1mの距離では遠方界ではなく近傍界になるので誤差が大きくなります。遠方界、近傍界は次回に説明します。

実験室内で安価なUSBスペアナを使用した1mの距離でのプリコンプライアンス試験 (出典:テクトロニクス社 アプリケーションノート)

1.5 外乱ノイズのキャンセル方法は?

実験室でプリコンプライアンス試験をする時は、室内の環境ノイズを事前に把握しておかなければ、何を測定しているのかわからなくなります。外乱ノイズのレベルが大き過ぎて測定に支障がある場合はシールドテントを使用します。シールドテントは2m四方程度のルームタイプの大きさで-50dB減衰遮蔽できるものが10~50万円程度で市販されています。

環境バックグランドの外乱ノイズを事前に把握しておく。スペアナのRBWはCISPRフィルタを設定する。(出典:テクトロニクス社 アプリケーションノート)

組立型のシールドテント。外乱ノイズが大きすぎる場合は、シールドテントを使用する。(出典:(株)TSSジャパン)

1.6 伝導エミッションのプリコンプライアンス試験は?

伝導エミッション試験では、LISN(Line Impedance Stabilization Network、電源インピーダンス安定化回路網)を使用しますが9kHz~30MHzのLISNは20~50万円程度で市販されていますので比較的安価に自分で試験ができます。

最初にDUTの電源をOFFにして、測定系のバックグラウンドノイズをスペアナで測定しますが、事前にLISNの補正係数をスペアナに設定しておきます。壁コン電源からの測定系のノイズが大きい場合は電源フィルタが必要です。次にDUTの電源をONにして、LISNのRF出力をスペアナに入力して評価します。

安価なUSBスペアナを使用した伝導エミッションのプリコンプライアンス試験 (出典:テクトロニクス社 アプリケーションノート)

次回は、実験室の机上でできるノイズ対策とデバッグの方法をお伝えします。

著者紹介

中塚修司(なかつか・しゅうじ)
テクトロニクス社 アプリケーション・エンジニア