2. EMI/EMCの法規制と電波法の違い
EMI/EMCは電磁ノイズの法規制ですが、無線モジュールを組み込む・組み込まないに関係なく電波障害の原因になるので、電波法とは別に避けては通れない認証試験になります。
たとえばエアコンは、国際規格CISPR14-1「家庭用電気機器、電動工具及び類似機器からの妨害波の許容値と測定法」の認証試験があり、パソコンはCISPR22「情報技術装置からの妨害波の許容値と測定法」、MRI等の医療機器はCISPR11「「工業用、科学用、医療用(ISM)無線周波数機器 の無線妨害特性の限度値と測定法」等の認証試験があります。ちなみに、最近はテレビなどのAV機器とコンピュータや無線機器等が合体したマルチメディア製品が出現しているので、テレビ等のCISPR13とパソコン等のCISPR22は2017年3月に廃止され、エミッション試験はCISPR32に統合された新しい規格になります。日本国内では、国際規格のCISPRに準拠するものとして電気用品安全法のJ55011規格がCISPR11に準拠し、J55014-1がCISPR14-1に準拠しています。同様にJ55022規格がCISPR22に準拠していますが、CISPR22の情報機器については一般財団法人VCCI協会(情報処理装置等電波障害自主規制協議会)が、規格の合格証明としてVCCIマークを製品に印刷することを会員に義務付けています。VCCI協会はその名の通り自主規制なので、VCCIマークの有無については電波法のような法的な罰則や罰金規定はありませんが、国内外1300を超える企業や団体が加盟しています。
電気用品安全法は、技術基準適合検査を受けてPSEマークを製品に表示することを義務付けています。電気用品安全法は電波法と同じく日本の法律なので、違反すると罰則や罰金がありますが、罰せられるのは使用者ではなく製造者や(輸入)販売者になります。電波法の技適マークは総務省の管轄ですが、電気用品安全法のJ規格やPSEマークは経済産業省の管轄になります。
ここで、EMI,EMC,CISPR等の電磁ノイズ規制についての知識を整理・確認しておきましょう。
EMI(Electro Magnetic Interference)は、自分(製品)が外に放射している妨害ノイズの評価で、エミッション(試験)と言います。
EMS(Electro Magnetic Susceptibility)は、自分(製品)が外から受ける妨害波にどれだけ耐えられるかの評価で、イミュニティ(試験)と言います。
EMC(Electro Magnetic Compatibility)は、EMIとEMSを両方含めるので、電磁両立性と言われます。
CISPR(国際無線障害特別委員会)は、エンジニアの間では「シスプル」と言うのが一般的で、電気・電子技術の国際規格の標準化を検討するIEC(国際電気標準会議)の特別委員会です。CISPRは電波障害に関する許容限度、測定法および測定器などに関する規格書を作成・発行しています。IECはISO(国際標準化機構)と合同して、ISO/IECとして国際規格を策定します。
無線組込み機器については、製品ジャンル別に分類したCISPR規格として以下のようなものがあります。
CISPR11 工業・科学及び医療用装置
CISPR12 車両、モータボート及び火花点火エンジン駆動の装置
CISPR13 音声及びテレビジョン放送受信機並びに関連機器
CISPR14-1 家庭用電気機器、電動工具及び類似機器
CISPR15 電気照明及び類似機器
CISPR22 情報技術装置(エミッション)
CISPR24 情報装置(イミュニティ)
CISPR25 車載受信機
他に、IEC61000-6-3、61000-6-4 住宅、商業及び軽工業環境、工業環境の規格では、住居、小売店、公共娯楽エリア等で使用される機器を対象に、製品の筐体やAC電源部から放射されるノイズに規制値があります。
(1)CISPRに合格するノイズの許容限度値は?
CISPRの許容限度値は
電界強度
(dBμV/m)の値で規制されますが、試験方法は周波数帯によって異なっています。周波数帯は、バンドA(9kHz~150kHz)、バンドB(150kHz~30MHz)、バンドC(30MHz~300MHz)、バンドD(300MHz~1GHz)、バンドE(1GHz~6GHz)に分割されて、CISPR16-1で規定されたスぺアナやEMIレシーバなどの測定器と、周波数帯にマッチした各種アンテナを使用して測定されます。一般にバンドA,Bの30MHzまでは電源線などを伝わる伝導ノイズを測定し、30MHzからのバンドC、D、Eは輻射される放射ノイズを測定します。放射ノイズの上限周波数はバンドDの1GHzまでの測定が一般的ですが、CISPR22のパソコン、プリンタ、FAX、複合機などの情報機器は製品のクロックや伝送速度の高速化に伴い、1GHzを超えてバンドEの6GHzまでの放射ノイズを測定します。今後の傾向として、デジタル家電全般に6GHzまでの規制値が適用される方向にあります。
CISPR22(VCCI)の電界強度の規制値は、クラスB(家庭環境で使われる機器)、クラスA(産業機器などクラスB以外の機器)で値が異なりますがクラスB(家庭環境)の方が厳しい規制値になっています。
(2)CISPRの測定方法は?
CISPRの試験は、法規性準拠を証明するコンプライアンス試験ですので、認証試験はISO/IEC17205等で公的に認定・登録された試験所(認定サイト)で実施され、主に3m法、10m法の電波暗室内で試験されます。測定器の測定方法については、検波方式別に規制値が異なっていますが、たとえばCISPR22では1GHz以下は、QP(準尖頭値)検波で測定し、1GHzを超えると、PK(尖頭値)検波と、AV(平均値)検波で測定します。
3.国内出荷と国外輸出の法規制の違い
日本国内の認証証明のVCCIマークも、電波法の技適マークも海外では何の効力もありませんので、無線組込み機器に限らず国外に輸出するときは米国のFCC(連邦通信委員会)マークや、EU(欧州連合)が加盟しているEEA(欧州経済領域)のCEマークなどを取得しなければ輸出はできません。
日本では管轄省庁の違いもありPSEマークや技適マーク、VCCIマークなどと電磁波規制の認証証明のマークには種類がありますが、米国FCCの規格は、CISPR11のISM機器はFCC-Part18、CISPR22の情報機器はFCC-Part15B、意図的に電波を出す免許不要の低電力無線送信機器にはFCC-Part15C等があるものの、通信機器の認証マークはFCCマークで統一されていて、規格の中身は概ね国際規格のCISPRに準拠しています。欧州CEマークについても日本のJ55011の規格等と同様に、欧州規格のEN55011規格はCISPR11に準拠し、EN55014はCISPR14に、EN55022はCISPR22に準拠していますが、電波法については国別に利用周波数の割り当てや出力の規制値が違うので、無線組込み機器製品を海外に輸出する際に認証マークを取得する時は、場合によっては組み込んだ無線モジュールの周波数や出力限度値の違いから、設計変更を求められることもあるので注意が必要です。
著者紹介
中塚修司(なかつか・しゅうじ)
元テクトロニクス社 アプリケーション・エンジニア