(3)周波数と波長の関係は?

無線の周波数と波長の関係も重要な知識なので知っておきましょう。電磁波は1秒間に30万kmの距離を進みます(光も電磁波です)。地球を7周半する距離ですが、電磁波は周波数に関係なく1秒間に進む距離は同じという性質を持っています。

総務省の電波利用に関するマスコットキャラクターのデンパ君 (出典:総務省子供向け電波利用ホームページ)

なので、周波数から波長を(その逆も)計算できます。30万km/秒=300M(メガ)m/秒なので、

波長(λ)[m] = 300M[m] / 周波数(f)[Hz]

単純に周波数300MHz=波長1mです。これはとても便利な数字なので覚えておくと役に立ちます。たとえば30MHzの周波数なら波長は300/30=10m、3GHzの周波数なら300/3000=0.1m=10cm、50MHzなら300/50=6mと、すぐ換算できますし、波長がわかれば組込設計時に必要なアンテナの長さも想定できるからです。

電波の種類。周波数により、特性が異なってくる (出典:総務省 総合通信基盤局Webサイト)

(4)アンテナの長さと種類は?

無線機器の必需品にアンテナがあります。送受信用のアンテナです。アンテナは無線モジュールのメーカーが指定したり、セット納品してくれたりすることが多いと思うので、自分でアンテナを設計することはあまり無いと思いますが、アンテナの長さや大きさは、開発する製品の大きさに関わってくるので無線機器の組込設計時の重要な要素になります。アンテナは指向性や周波数の違いで色々な種類がありますが、基本的にアンテナの長さは使用する無線周波数の波長の長さの半分(半波長)か、1/4波長と相場は決まっています。携帯電話のアンテナの長さが3cmくらい~10cm程の長さの理由は、使っている周波数が、800MHz~2GHz程だからです。前述の計算式で計算して確認してみてください。アンテナにはICカードやRFIDのように電波で通信するのではなく磁界結合を利用する物、誘電体を使って小型化した物など色々と種類があるので、組込製品の用途や形状に合わせてアンテナを選択します。また、アンテナ選定時にはアンテナ自身のゲイン(利得)も重要な要素になります。アンテナにはアンプが内蔵されているものもあります。アンテナを設置するときには、送信電波の偏波面の知識が必要です。水平偏波や垂直偏波に特化した市販アンテナもあるので注意が必要です。たとえば放送用電波は水平偏波が一般的ですが、地上波デジタル放送は地域によっては混信を避ける目的で垂直偏波を使うこともあります。

一昔前の携帯電話で良く見られた1本棒のアンテナは波長の4分の1の長さで、反射の作用により全体として半波長(波長の長さの半分)のアンテナとして機能する (出典:総務省 総合通信基盤局Webサイト)

(5)通信方式はどうする?

通信方式の選定も無線組込みの重要な要素になります。無線LAN(Wi-Fi)にするか、Bluetoothにするか、ZigBeeにするか、磁界結合のRFIDにするか、携帯電話用モジュールを組み込むのか、周波数はどうする、などなど、悩む要素が多いと思いますが、無線組込設計時の仕様の中にある伝送距離や伝送データ量(伝送速度)が、最適な通信方式を選定する為のパラメータになります。

(6)何を評価する?

無線機器の組込設計では、要求された仕様を満足しているかどうかの技術的な完成度の評価に加えて、電波法などの法規に違反していないかどうかの評価も必要になります。意図的に無線電波を発しない製品では、伝導ノイズ放射ノイズを規制しているEMI/EMCの認証試験に合格することが製品出荷の条件になりますが、無線組込機器は無線電波を意図的に発する製品ですので、EMI/EMCとは別に、電波法に従った技術基準適合試験に合格するか、合格証明のある無線モジュールを使用しなければ製品として出荷できません。電波法は国別に細かい部分で合格基準が違うので、特に輸出時には短時間で設計変更を要求されたりして面倒なことになることもあり、やっかいです。

また、開発初期段階→開発後期→製造時→出荷後の段階で評価すべき内容は異なってきます。開発の初期段階では、性能・仕様を満足しているかどうかのデバッグ的な技術評価が重要ですが、開発後期では電波法などの法規制を満たしているかどうかの評価が重要になります。製品の製造段階では安定した品質を維持するための品質評価が重要になり、さらに製品出荷後のフィールド・トラブル発生時には原因の切り分けと迅速な対応が求められます。

次回以降では、無線組込み機器設計の開発→製造→出荷後のフェーズの流れに沿って、評価の内容、測定方法や測定のノウハウをお伝えします。

著者紹介

中塚修司(なかつか・しゅうじ)
テクトロニクス社 アプリケーション・エンジニア