はじめに
「ものづくり」の電気電子エンジニアが、初めて無線モジュールの組込設計をする場合、今まで有線の設計でオシロスコープやロジック・アナライザ、プロトコル・アナライザなどの測定機器をバリバリ使いこなしていたエンジニアでも、電波や無線は苦手という人が数多くいます。ところが昨今、無線モジュールを組み込んだ新製品や新技術が湯水のように世の中にあふれてきていて、苦手などとは言っていられない状況になってきました。
たとえばIoT(Internet of Things)は、身の回りの色々な物に通信機能を持たせて自動認識や、自動制御、遠隔制御などを行なうだけではなく、インターネットやサーバに接続して情報を共有することもできます。こうなってくると、ちょっとした開発のアイデアがあれば、まったく新しい機能を持った新製品やアプリケーションを世の中に提供することができるので、新製品開発の大変革の時代になったとも言われています。
ユニークなものとしては、おむつのメーカーが、東京大学が開発した水分検出のできる柔らかいワイヤレス有機センサを使用して、おむつの交換状況を知らせてくれるシステムを開発したりしています。また医療現場には、睡眠監視センサの情報から入院病棟の患者の動作を夜勤の看護士に伝えるシステムを提供することができます。他にもすでに実用化されつつあるものとして、交通渋滞緩和システム(ITS:高度道路交通システム)、家庭用電力メータの遠隔監視(Smart Gridシステム)、エアコンやTVを外出先から遠隔操作するHE(ホームエレクトロニクス)への応用など、アイデアは無限に広がっています。
今回の連載では、エンジニアが初めて無線組込機器の設計をする際に必要な基礎知識や、評価方法のノウハウをお伝えします。具体的に組込設計に必要な知識としては、無線技術知識と電波法規知識、そして計測の知識があります。
1. 電波・無線機器の評価って何?
無線組込機器の評価をする前に、電波・無線の正体を知らなければなりません。まず最初に、電波とは何かを知ることから設計作業を始めましょう。
(1) 電波って何?
電波は正確には周波数が3T(テラ)Hz以下の電磁波を言います。RF(Radio Frequency)という言葉もよく耳にすると思いますが、RFはおおむね300Hz~3THzの範囲の無線通信で使われる電磁波のことを言います。電磁波とは電界と磁界の波のことです。では質問ですが、磁石や直流回路も磁界エネルギーを発生させていますが、電波は出ていますか? 答えはNoですが理由を説明します。たとえばコンデンサに直流電圧を掛けると一定値の静電界が発生します。これを交流にして電圧を変化させると、極板間のインピーダンスに起因して電流が流れて交流磁界が発生します。この(交流)電界と(交流)磁界は90°直行しています。つまり、電界が変化するとつられて磁界が変化し、磁界が変化するとつられて電界が変化して、これを次々に繰り返すことで電磁波は空間を(宇宙の真空中でも)波のように伝搬していきます。磁石も直流回路も一定値の静磁界を生じていますが電波(電磁波)は発生していません。理由は交流ではないからです。光も電磁波なので、真空の宇宙空間でも飛んで行けます。ちなみに電界が地表に対して垂直な電波を垂直偏波、水平な電波を水平偏波と言います。衛星放送などでは、偏波面がぐるぐる回転する円偏波も使われています。
(2) 無線って何?
文字通りですが、有線ではなく線を使わずに(無線で)電波(電磁波)を使う通信や放送のことです。市販の無線モジュールの種類や使用する周波数にはさまざまな物があるので、組み込みの無線モジュールに何を使用したら良いのかわからなかったり、迷ったりすることもあるかと思いますが、基本的に無線電波は周波数が高くなるほど直進性が強くなります。たとえば、携帯電話は、通信事業者によって800MHz帯や2GHz帯の色々な周波数が使われていますが、800MHz帯は2GHz帯に比較して波長が長く、逆に直進性が悪くなる分、回折して建物の陰に回り込むことができるので携帯電話の通信には大変有利です。この為、800MHz帯は通信事業では人気があり、電波の使用権のチャネル帯域の空きが少ないことから希少価値のある周波数帯域という理由で、プラチナバンドなどと言われています。
(次回は10月22日に掲載予定です)
著者紹介
中塚修司(なかつか・しゅうじ)
元テクトロニクス社 アプリケーション・エンジニア