PC常駐型ウィジェットの認知とユーザー層
「PC常駐型ウィジェット(以下、デスクトップウィジェット)」というと、カレンダーやメモ帳、電卓など、パソコンのローカル環境でも動作可能なアプリケーションを思い浮かべる方が多いのではないかと思います。ところが、2005年頃から、ブロードバンド環境の普及と共に、ネット接続をベースにした「ウェブサイト連動型」のウィジェットが登場。利用コンテンツや利用者にも変化が見られるようになりました。
まさに、この変化の兆候が表れ始めた2007年(6月)に、マイボイスコムによって実施された調査結果(下図)があるので、ここで紹介しておきたいと思います。
マイボイスコム定期アンケート「デスクトップアプリケーション」(2007年6月)から、「よく利用している『ウィジェット・ガジェット』の機能」 |
まず「デスクトップウィジェット」の認知率は30.1%で、中でも20-40代の男性の認知率は40%を超えています。
また、平日のインターネット利用時間が長い人ほど、認知率が高い傾向にあります。数字で比較すると、ネット利用時間が「30分~1時間/日」と答えた方の認知率は18.5%、一方で「5時間以上/日」と答えた方の認知率は40.2%と2倍以上になっています。次に、よく利用しているウィジェットの機能について(図参照)見てみると、半数以上が、インターネット上のコンテンツと連携した機能(オレンジ色)であることが分かります。このように、2007年時点で、新しい情報をネット経由で簡単に取得できる「ウェブサイト連動型ウィジェット」がユーザーに浸透しつつあることを表しています。そして、近年この傾向はさらに高まっています。
ウィジェットマーケティングの課題と成功ポイント
ここで、デスクトップウィジェットを利用したマーケティングの現状の課題について、ウィジェット共有サイト「ハナツキ」の運営元、ハナツキ代表取締役である波多江祐介氏にご意見をいただきました。
ハナツキ代表取締役 波多江祐介氏 |
現在、ハナツキ上でも、約750種類のデスクトップウィジェットが登録されています。昨今、企業提供のウィジェットの割合が徐々に増えている状況で、この傾向は、2009年も継続すると思います。
現状、企業ウィジェットの特性としては、特定のサービスや商品のプロモーションにおける"デジタル・インセンティブ"(=おまけ)という位置づけで提供されているということです。これらは「ウィジェットそのものでマーケティングを行う」というよりは、ユーザーへキャンペーン期間中のお楽しみを提供することを目的としています。 一方で、新たな潮流として、自社顧客に対するCRM(Customer Relationship Management)を目的として、ウィジェットを主役に位置づけたマーケティング事例が増えてきています。
デスクトップウィジェットをCRMに利用する際の主な課題としては、
- ウィジェットならではのコンテンツ/機能の提供
- 利用者へのプレミアム感の演出
という2点が挙げられます。これらを意識して、ウィジェットの初期制作およびウィジェット配布後のサービスプラン(最低でも3カ月程度)を立案することが重要な点だと思います。
コメントの最後に"新たな潮流"として紹介されていた「ウィジェットのCRMへの活用」という点は、非常に重要なキーワードだと思います。
デスクトップウィジェット本来のメディア特性を考慮すると、顧客と関係性を構築するマーケティングスタイルに最適なツールだと考えています。
そこで、「ウィジェットのCRMへの活用」のポイントとなる、4つの要素をまとめてみました。
- ウィジェットならではの便利ツール機能
- 更新性の高いコンテンツ
- プラスアルファ(その他)
- 利用頻度に基づく、Royalty Program
ウィジェットを制作する際に、1~3の要素において、何らかのコンテンツを提供できるよう企画・制作することが必要です。その際に、どの要素に重きを置くか? などのバランスについては、企業特性や目的に応じて変わってきます。
また、忘れてはならないもうひとつの重要なポイントとして、利用者に対して継続性を促すための施策があります。上記の項目4の「利用頻度に基づく、Royalty Program」にあたるもので、目安として3カ月間を一区切りに、利用回数に応じたインセンティブを計画・準備しておくことが重要となります。
これを繰り返すことで、ウィジェットは、顧客の身近な領域(デスクトップ上)にある「新たなタッチポイント」となり、結果として継続的な情報提供と同時に、着実に「ファン」を醸成していくことに繋がります。
2009年における新たなトレンド
上記の「ウィジェットのCRMへの活用」という流れともリンクしますが、2009年は、特定顧客に対するプレミアム感を与えるウィジェットが、企業のマーケティングシーンにおいて求められると考えています。
そういった中で、新たなトレンドとして注目しているのは「ウィジェットとリアルとの連携」です。
分かりやすい例で言うなら、Suica/ Edy/ nanaco/ WAONなど、すでに多くの会員を抱えるメンバーシップサービスにおいて、ケータイ電話(お財布ケータイ機能付き)や発行済みのICカードを"キー"にして、PC(リーダー部分)にカードをかざすことで、サーバーから独自のウィジェットを入手してもらう。
以降はウィジェットを通じて、継続的にユーザーごとに必要な情報提供を行う。まさに、パーソナライゼーションを主としたマーケティングが展開できます。
また、昨今、低コストタイプのICカードチップも存在しており、これらを利用すれば、発送したダイレクトメールや店舗で販売したフィギュアなどから、ウィジェットを入手させるような新しいスキームを構築することも可能です。
いわゆる「課金を伴うような有料ウィジェット」が登場する可能性も広がります。
自身でメンバーシップサービスを保有している企業様は、ぜひとも「ウィジェットとリアルとの連携」に注目していただければと思います。
ということで、次回はいよいよ最終回です。
最終回は「ウィジェット・マーケティングが迎える新たなステージ」というテーマで、ケータイ電話やテレビなど様々なデバイスに広がるウィジェットのトレンド等をご紹介します。
著者プロフィール : 竹下直孝
2001年 ソニー株式会社に入社。インターネットサービスを手掛ける部門に属し、利用したコミュニティサービスに関する事業企画を担当する。2005年に有志で「新しいネットメディアの開発」をコンセプトに、ウィジェットサービス「FLO:Q(フローク)」プロジェクトを発足。06年10月にブログパーツサービスを、07年11月にはPCデスクトップ・ウィジェットサービスをリリース。2009年1月現在、ブログパーツはサービス全体で月間1.8億インプレッションを保有、独自の広告モデルを展開中。デスクトップウィジェットについても、昨年末に10万ダウンロードを突破し、本格的にビジネスメニューの提供を開始。さらに、1月から国内で発売されるパーソナルコンピューター「VAIO」の新機種に管理ソフト「FLO:Q Widget Manager」のプリインストールを開始した(※一部、機種を除く)。