欧米を中心に広がり、昨今国内でも認知度が高まりつつある「FinOps」について、その基本から本連載では解説していきます。今回は、前回に引き続きFinOpsフレームワークの要素の1つ、ペルソナ(Personas)について、FinOpsチームの組成の観点から解説します。「はじめてのFinOps」の過去回はこちらを参照。
実際のところFinOpsチームはどのように組成されるのか
連載第2回では、FinOpsフレームワークの要素の1つ、「ペルソナ」(Personas)について解説しました。ペルソナとは、どのような立場・役割の人たちが、どのような興味・関心を持ってFinOpsに関わるのかを整理したもので、6つの「コアペルソナ」(Core personas)と、5つの「連携するペルソナ」(Allied personas)により構成されます。
これらのペルソナをつなぐ言わば「橋渡し役」となり、FinOpsの推進役となるのが、コアペルソナの1つ、「FinOpsの実践者」(FinOps Practitioner)です。このFinOpsの実践者からなるFinOpsチームはどのように組成するのか、3つのポイントに分けて解説します。
1. 最初はクラウドエンジニア中心で組成されることが多い
FinOpsの実践にあたっては、さまざまなペルソナの人との連携が重要になります。それぞれ異なる役割・立場の人の興味・関心、動機を理解し、動機付けしていくためには、なによりもまず、言葉をあわせて共通認識を持つということが大切です。
例えば、長期利用をコミットすることにより大幅な割引が得られる「リザーブドインスタンス」などのサービスの活用は、財務的には一種の「先行投資」と言えます。
クラウドエンジニアから見れば、長期的にはクラウドのトータルコストを抑えられることが分かっているとしても、財務担当者の視点から見れば、一括払いによるキャッシュフローへの影響や、投資の採算性といった観点からは、いまリザーブドインスタンスを購入することが得策とは言えないかもしれません。
このようにクラウドエンジニアと財務との間で「限られたお金を有効に使って利益を最大化する」という思いは同じでも、それぞれの領域による言葉の違いがコミュニケーションの「壁」となり、互いの興味・関心や動機に対する理解がなければ、無用な対立がうまれがちです。そこでFinOpsチームには、クラウドに関する知識とともに、財務的な知識あるいは協力的な関係が必要となります。
しかし、両方を兼ね備えた人材をFinOpsチームに最初から取り揃えるというのは現実的には難しいでしょう。それではどちらを優先するのかとなると、まずはクラウドエンジニアのスキルを兼ね備えた人材を中心にFinOpsチームを組成することが多いようです。
これは(当然のことながら)、クラウドのコストを最適化していくためには、クラウドのサービス仕様について理解したうえで、実際にクラウド上でシステムを開発、運用保守しているクラウドエンジニアと対話できる人材が必要となるためです。
2. まずはクラウドCoEの機能の1つとして立ち上げる
FinOpsチームを立ち上げるときに、いきなり独立したチームを立ち上げるのは難しいでしょう。そこでよくあるのが、クラウドのガイドライン策定やトレーニングプログラムの提供、導入相談窓口や品質レビューなどの施策を、すでに推進しているクラウドCoE(CCoE)の機能の1つとして、FinOpsチームの機能を持たせるというアプローチです。
これは、FinOpsを実践する人材を確保するということだけでなく、FinOpsの活動を既存のプロセスに乗せることで活動を円滑に立ち上げ浸透させるという狙いからきています。
3. 活動の成熟度に応じて規模を拡大する
前回の記事でも紹介した通り、FinOpsは“cultural practice"(組織文化的な実践)です。いきなり100点満点を取ることを狙って時間をかけて計画を練り大きな組織を立ち上げるのではなく、大きな目標は持ちながらもSmall Start & Quick Win のアプローチで、走りながらビジネスの状況に合わせて軌道修正し、徐々に活動を広げていき、それに合わせて体制規模を拡大するのが良いでしょう(※1)。
※1:FinOpsフレームワークでも、この段階的なアプローチを「成熟度」(Maturity)として定義しています。成熟度については今後の記事で解説します。
FinOps Foundation の年次調査報告「The State of FinOps」(FinOpsの現状)によれば、FinOpsチームの平均的な大きさは、FinOpsの成熟度が最も若い段階(“crawl")で約3人、最も成熟した段階(“run")で約9人だったそうです。
もちろんFinOpsチームの大きさは、対象とするクラウドの規模や、活動内容によりバラきはありますが、いずれにしてもその成熟度に応じて段階的に成長していることがわかるでしょう。
FinOps実践のポイント:リーダーシップの支援を取り付ける
前回と今回で、FinOps のペルソナと、実際のFinOpsチームの体制イメージについて紹介しました。
このチームが推進役となり、FinOpsを実践していくにあたってポイントとなるのは、リーダーシップの理解と支援を取り付けるということです。
同様のことはDX(デジタルトランスフォーメーション)推進などの場面でも言われていることですが、組織全体に変化を起こし根付かせるためには、動機付けや、部門間での利害調整などの困難もあります。
そのため、ボトムアップでの活動だけでなく、それに対して「お墨付き」を与えて背中を押してくれる、リーダーシップの理解と支援が大切になるのです。そのためFinOpsチームを、CTO(最高技術責任者)やCIO(最高情報責任者)、CFO(最高財務責任者)の直轄組織として組成する場合もあります。
次回からは、FinOpsフレームワークの別の要素、「ドメインとケイパビリティ」(Domain & Capability)について紹介し、具体的な活動内容について解説していきます。