JFEエンジニアリングとNTTドコモは2022年3月30日、5Gのネットワークを整備した実際のプラントで新技術の実証をする「5G Innovation Plant」をオープンしました。両社は5G Innovation Plantの展開で何を目指しているのか、同日に実施された開所式の内容から確認してみましょう。→過去の回はこちらを参照。
使われなくなったプラントに5Gの実験環境を整備
5Gのビジネス活用に向けてさまざまな企業と提携や実証実験を推し進めているNTTドコモ。2021年11月24日にはエネルギーや環境に関連するプラントの建設やメンテナンスなどを手掛けるJFEエンジニアリングと、デジタルトランスフォーメーション(DX)ソリューションの創出に向けた共同検討に合意しています。
その合意の中で、両社はプラントの現場で5Gを活用した新技術の検証を実施する「5G Innovation Plant」を、2021年度内にオープンするとしていました。そして、年度末となる2021年3月30日に両社は5G Innovation Plantの開所式を実施し、施設の利用を開始しています。
この5G Innovation Plantは、神奈川県横浜市にあるJFEエンジニアリングの構内に設けられたもの。過去ごみ焼却炉の新規開発に用いられ、現在は使われなくなったプラントの中に、NTTドコモの5Gネットワークと自営のローカル5G、そしてWi-Fiのネットワークを構築しているそうです。
プラントの中は配管や鉄骨のフェンス、階段などが設置された非常に入り組んだ環境であり、実環境に影響を与えることなく5Gのネットワークを設置してソリューションの検証をするというのは大きな困難を伴います。しかし5G Innovation Plantは、すでにに稼働していない実際のプラントを用いているため、より実環境に近い検証がしやすい点が大きな特徴となっています。
しかも5G Innovation Plantは、5Gを活用したビジネスやサービスを創出する「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」の参加企業であれば、誰でも無償で利用できるとのこと。
プラントの建設やメンテナンスは自社技術だけでなく、複数の技術の組み合わせによって成り立っているとのことで、大手からベンチャーに至るまでさまざまな企業が持つ技術を組み合わせて5G活用ソリューション構築を推し進めるためにも、費用を取らずに参加の敷居を下げるに至ったようです。
ただ、NTTドコモの5Gネットワークだけでなく、携帯電話会社が整備できないローカル5Gまで整備しているのにはやや違和感もあります。
しかし、JFEエンジニアリングの関係者によるとローカル5GはWi-Fiと比較検証されるケースが多いことから、提供しようとしているソリューションにローカル5GとWi-Fi、それぞれの性能がマッチしているかどうかを確かめてもらうために導入しているとのこと。複数のネットワークでの性能を比較するための対応となるようです。
実プラントを生かしたソリューションも提示
両社が5G Innovation Plantで目指しているのは、5Gを活用してプラントに関連する業務の無人化や省人化を実現する、DXソリューションを開発することです。そこで開所式では、実際に5G Innovation Plant内で展示されている4つのソリューションが紹介されていました。
1つ目はプラント内部をスキャンして3Dモデル化し、VRゴーグルを用いてその内部を立体的に可視化するとともに、実際に内部を移動して構造を確認したり、構造物のサイズや距離などを測ったりするというもの。
3Dのデータは5G Innovation Plant内にあるのですが、高速大容量かつ低遅延の5Gによる通信を生かして5G Innovation Plant内と、東京・赤坂にある「ドコモ5G DX スクエア」にいる人が同じ場所で同時に会話をしながら移動したり、作業したりする様子が披露されていました。
2つ目はエッジAIの活用で、プラント内に設置された監視カメラの映像をエッジAIデバイスで分析し、ヘルメット未着用者や、禁止エリアに人が入ったことを検知するというもの。分析処理自体はエッジAIデバイスでこなしているそうで、今回のデモでは分析結果を送る時、そして実際に侵入などを検知した時の映像を見る際の映像伝送に5Gを活用しているとのことでした。
3つ目はARスマートグラスを用いた遠隔業務の支援ソリューション。5Gデバイスに接続されたAIカメラから送られてくる映像を基に、遠隔で指示をすることで作業支援をするというもので、5Gならではの高精細映像によってメーターの細かな表示などが遠隔地からも確認しやすくなるのがメリットといえるでしょう。
そして、4つ目はドローンを活用したプラント内の巡回点検である。こちらはデモ映像のみの公開となっていたことに加え、現在は法制上の問題からドローンを人間が操作しており、5Gによる遠隔操縦ができる訳ではないそうです。それゆえ今後法整備が進むことを見越し、研究開発を進めていきたいとのことでした。
そして、今回の5G Innovation Plantの正式開所によって、これら4つ以外にも多くのソリューションの検証がなされるものと考えられますが、重要なのはそうした中から実際の現場で活用されるソリューションが出てくることでしょう。
5Gの法人活用は以前より注目を集めている一方、具体的なソリューションが市場にほとんど出てきていないことが大きな課題となっているだけに、明確な成果が求められているのは確かです。
JFEエンジニアリングの関係者によりますと、2022年度は顧客の情報を集めてさまざまな技術を組み合わせてソリューションを作り上げる年度になるそうで、実際に現場で使われるものが出てくるのは、早ければ2023年度ごろからと見ているようです。
約1年後に具体的な成果を生み出せるかどうか、両社による取り組みは今後大いに注目される所ではないでしょうか。