ソニーグループは2021年11月29日、子会社のソニーワイヤレスコミュニケーションズ株式会社を通じてローカル5G事象への参入を発表。その第1弾として、ローカル5Gを活用した個人向けインターネット接続サービス「NURO Wireless 5G」を2022年春ごろより提供開始すると発表していますが、ソニーグループがローカル5Gを手掛ける狙いはどこにあるのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。
ローカル5Gでは異色、個人向けFWAでの参入
2021年には多くの企業がローカル5Gへの参入を打ち出しましたが、2021年11月29日、新たに参入を表明したのがソニーグループです。
エンタテインメントやAV機器のイメージが強いソニーグループですが、傘下のソニーがスマートフォン「Xperia」シリーズを手掛けているのに加え、固定ブロードバンドの「NURO」や、MVNOとしてスマートフォン向け通信サービス「NUROモバイル」などを手掛けるソニーネットワークコミュニケーションズを傘下に持つなど、以前から通信事業にも力を入れています。
それゆえ、ソニーグループがローカル5Gを手掛けること自体はそれほど不自然ではないのですが、発表内容を見ますと、すでにローカル5Gに参入している他の企業のサービスとは、かなりの違いがあることが分かります。
その発表内容を確認しますと、ソニーグループは2020年に設立したソニーワイヤレスコミュニケーションズという子会社を通じて、ローカル5Gを活用して個人を対象とした集合住宅向けの固定インターネット接続サービス「NURO Wireless 5G」を提供するとのこと。
固定回線のラストワンマイルを無線で代替するFWA(Fixed Wireless Access、第25回参照)にローカル5Gを用いたものであり、ローカル5Gを活用した住宅向けの固定インターネット接続サービスを提供するのは日本初とのことです。
使用するのはローカル5G向けに割り当てられたサブ6の帯域(4.8~4.9GHz帯)で、そのアンテナを設置したエリアを対象にサービスを提供するとのこと。サブ6の帯域を用いることから、当初からスタンドアローン構成でのサービス提供が可能で、高速大容量だけでなく、低遅延など5Gの性能をフルに生かしたサービスを提供できることが特徴の1つとなるようです。
なお、サービスを利用するユーザー側は、ローカル5Gの無線通信を用いたケーブルの引き込み工事などは必要なく、専用のホームルータを設置するだけで通信の利用が可能。工事が必要ないこともあって7日間は無償でのお試し利用が可能ですし、データ通信は使い放題で通常の利用の範囲内であれば速度制限がかかることもないようです。
これまでローカル5Gに参入した企業の狙いは、5Gの高い性能と閉じた環境で利用できる自営のネットワークであることを生かし、スマートファクトリーなどのソリューションを提供して法人需要を獲得することがほとんどでした。それだけに当初から個人向けサービスを提供するソニーワイヤレスコミュニケーションズの参入は、従来のローカル5Gの視点で見るとかなり異色であることは確かでしょう。
もっとも、ローカル5Gは他者が持つ土地に対してサービスを提供する「他者土地利用」が可能なことから、固定ブロードバンド回線のラストワンマイルとして利用することも想定されていたものです。それゆえNURO Wireless 5Gのようなサービスが出てくること自体は、それほど不思議ではありません。
最大の狙いはエンタメ系法人需要の獲得か
ただ、先にも触れた通り、ソニーグループはソニーネットワークコミュニケーションズが通信事業を手掛けていることから、なぜ別会社を立ち上げてローカル5Gの事業を展開するに至ったのか?という点には疑問が残ります。
ソニーグループらが2021年11月29日に実施したローカル5G事業開始に関する記者発表会で、ソニーワイヤレスコミュニケーションズの代表取締役社長である渡辺潤氏は使用するネットワークの違いと、そこから来るサービス特性の違いを挙げています。
ソニーネットワークコミュニケーションズは、広く多くの人に通信サービスを提供するパブリックな通信事業を担うのに対し、ソニーワイヤレスコミュニケーションズはローカル5Gを用いることから、利用できるエリアや人数も限定される一方、個々のユーザーに最適化されたサービスを提供できるため、限られた人に特化したサービス提供に注力していくことを目指しているそうです。
中でも重視する姿勢を見せているのがエンタテインメント関連サービスとの連携です。ソニーグループはエンタテインメント領域で世界的に大きな強みを持っていますが、そのグループの強みとスタンドアローン構成で運用できるローカル5Gを活用し、高速大容量や低遅延といった5Gの特性を生かしたエンタテインメントサービスの提供に力を入れることを考えているようです。
しかし、より大きな狙いは、やはり法人向け事業にあるのではないかと筆者は考えます。渡辺氏は今回の説明会で、今後法人向けサービスの展開も提供していく方針を示しているのですが、やはりソニーグループの強みを生かしてエンタテインメント、中でも放送の領域に向けたB2Bのサービスを検討していると話していました。
実際、渡辺氏はソニーと放送局向け機器に関する議論を進めていると説明しており、より具体的にはテレビ局向けカメラの無線化などに取り組んでいます。それゆえソニーワイヤレスコミュニケーションズでは今後、ソニーと連携して放送局にローカル5Gのネットワークを構築し、映像機器のワイヤレス化ソリューションなどを提供することに力をいれていくことが予想されます。
それだけにNURO Wireless 5Gの提供は、ソニーグループ全体での通信サービス強化というだけでなく、法人ソリューション提供に向けローカル5Gの知見を積む狙いも大きいのではないかと考えられるわけです。ゆえに本命となるであろう法人向けサービスで、今後どのようなサービスを発表してくるのかが注目されるところです。