2021年9月28日、KDDIは法人事業に関する説明会を実施しました。その中で、5Gのスタンドアロン運用の試験運用を開始したことを発表していますが、ノンスタンドアロン(NSA)運用からSA運用に変わることで、大きなメリットになってくるのはネットワークスライシングのようです。→過去の回はこちらを参照。

商用環境でSA運用の試験を開始

法人ビジネスにおける5Gネットワークの利用が注目される一方で、具体的な活用はまだあまり進んでいるとは言えません。その大きな理由の1つとして、特に携帯電話会社が提供する5Gネットワークが、4Gと5Gを一体で運用するNSA運用であり、5Gの本領を発揮できるSA運用への移行がまだ進んでいないことが挙げられます。

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しかし、ようやく携帯電話大手の一角であるKDDIがSA運用への移行を表明したことで、本格的なSA運用への移行に向けた機運が高まりつつあります。実際、同社が実施した法人事業説明会で、9月6日から商用環境における5GのSA構成による通信試験を実施していることを発表しています。

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    KDDIは2021年9月28日に法人事業説明会を実施、その中で5GのSA構成による試験運用を開始したことを明らかにしている

NSA運用では4Gのコアネットワークに5Gの基地局を接続し、5Gの特徴の1つである高速大容量通信を早期に実現する仕組みでした。

確かにスマートフォンで動画を視聴するなど、コンシューマー向けの用途ではNSA運用でも、ある程度は満足できるサービスを提供可能なのですが、法人向けで注目される「低遅延」「多数同時接続」といった他の5Gの特徴をフルに生かすには、5G専用のコアネットワークに5G専用の基地局を接続したSA運用への移行が必要になってきます。

そこでKDDIでは、新たに構築した5G SA専用のコアネットワークに5Gの基地局を接続、エンド・ツー・エンドで安定した通信ができる環境の提供を実現したとのことです。ちなみに、この5Gコアネットワークは完全仮想化がなされており、クラウド上で動くことを前提に、クラウドならではの特性が生かせるよう設計されているそうです。

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    5G SAへの移行で、KDDIはMECやネットワークスライシングを組み合わせきて企業のニーズに合わせたネットワークを提供するとしている

そして。KDDIでは5G SAの導入とともにMEC(Multi-access Edge Computing)やネットワークスライシングなどの技術を組み合わせ、企業ニーズに応じたネットワークを提供するとしています。実際、KDDIではフジテレビと5G SA、そしてMECによる低遅延を生かし、中継映像伝送とクラウドによるカメラ映像のスイッチングを活用しての報道中継簡易化に向けた実証実験を実施しています。

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    KDDIとフジテレビが実施した実証実験では、MECの活用で映像中継、及びクラウドスイッチングの低遅延による伝送を実現したという

ただ、同社は2020年12月に「AWS Wavelength」の提供を開始するなど、NSA環境の現在でもすでにMECは提供されているものでもあります。SA運用になり、無線部分の一層の低遅延が進むことから、その利活用が増える可能性は高いでしょうが、MECを取り巻く環境そのものが大きく変わるわけではないでしょう。

サービスに必要な帯域を確実に確保、課題はコストか

それゆえ、SA運用への移行で大きな変化となってくるのは、やはりネットワークスライシングの方ではないかと考えられます。ネットワークスライシングについては第13回で説明していますが、要はネットワークのリソースを用途に応じて柔軟に分割し、必要な帯域を確保する技術です。

例えば4K、8Kの高精細映像をライブ配信するには、広いネットワーク帯域を安定して確保する必要がありますし、遠隔運転などのミッションクリティカルな用途であれば、容量は必要ありませんが低遅延で途切れない通信が求められます。それら用途に応じて適切な帯域幅を割り当てることでリソースを無駄なく活用し、なおかつ用途に応じたネットワークを提供できるのがネットワークスライシングのメリットとなるわけです。

KDDIがSA運用の5G環境で実施している実証実験でも、そうしたネットワークスライシングの特性が生かされているようです。例えば、ソニーと実施した実証実験ではネットワークスライシングでライブ中継用の帯域を確保し、会場から全国各地にリアルタイムでライブ配信するという実証実験を実施しています。

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    KDDIはソニーと実証実験を実施、ネットワークスライシングでライブ中継用の帯域を確保し、全国に安定してライブを中継できる環境を実現したという

現在は、まだ5G SAが試験運用の段階ということもあり、ネットワークスライシングの利用は実証実験の範囲にとどまっていますが、KDDIでは2021年度の後半に向けてSA運用によるサービス提供の準備を進め、2022年度にはSA運用によるサービス提供が本格化するとしています。

そのため、2022年の半ば以降になればMECだけでなく、ネットワークスライシングも活用したサービスの本格展開が可能になってくるのではないかと考えられます。

ただ、ネットワークスライシングを利用するにはネットワーク上で一定の帯域確保が求められることもあり、MECと同様に何らかの利用料金がかかってくることは確かでしょう。

現時点ではそもそも料金だけでなく、ネットワークスライシングのサービス利用形態自体も明らかにされていないのですが、その料金がどの程度かかるかによって利用のされ方も変わってくる可能性がありそうです。