KDDIは2021年9月13日、イーロン・マスク氏率いるSpaceXと提携、同社の「Starlink」を携帯電話の基地局のバックホール回線に利用することを発表しました。携帯各社が衛星通信を活用する動きが最近活発になっていますが、そこには「6G」が大きく影響していると言えそうです。→過去の回はこちらを参照。
衛星通信を携帯基地局のバックホールに
オンライン専用プラン「povo」を大幅にリニューアルし、月額0円から利用できる「povo 2.0」を2021年9月3日に発表したことで注目を集めたKDDI。そのKDDIが同日に発表し、大きな注目を集めたのが米国のSpace Exploration Technologies(SpaceX)との提携です。
SpaceXは、決済サービス「PayPal」や電気自動車の「テスラ」などを創業したことで知られる実業家のイーロン・マスク氏が設立した宇宙航空事業を手掛ける企業で、民間企業初の有人宇宙飛行を実現したことで知られています。KDDIはそのSpaceXが提供する「Starlink」の利用について提携を結んだとしています。
SpaceXは高度約550km上にある低軌道衛星を1500基運用しており、Starlinkはその低軌道衛星を活用した衛星ブロードバンドサービス。KDDIはこのStarlinkを、携帯電話基地局のバックホール回線として活用するとしています。
バックホール回線とは、要は基地局とコアネットワークとを結ぶ回線のこと。バックホール回線では基地局に接続する多数の携帯電話の通信を一度にこなす必要があるため、通常は大容量通信に適した光ファイバーを用いるのですが、物理的にそれを用いることができない場所も多くあります。
山間部や離島などがその代表例ですが、災害時なども光ファイバーが断線し、バックホール回線として使えなくなってしまうことがあるのです。
そうした場所では代替手段として、衛星回線やマイクロ波などが用いられることが多いのですが、通信速度が大幅に落ちてしまうという弱点がありました。しかし、低軌道衛星は従来の静止軌道衛星と比べ、地表からの距離が約65分の1と低いことから、Starlinkが実施しているβ版のサービスでは100Mbps超の通信速度を実現しているそうです。
通信速度が数百kbpsというのが一般的な従来の衛星回線と比べ、高速かつ低遅延を実現できることから、KDDIはStarlinkの回線を用い、光ファイバーによるインフラ整備が難しい場所でも高速通信を実現したい狙いがあるようです。具体的には山間部や離島を中心に、1200の基地局をStarlinkの回線を用いて高速化するとしています。
宇宙・成層圏からの通信技術開発は加速、課題は
KDDIのStarlinkの活用はあくまでバックホール回線としてのものですが、最近ではより一歩進んで、衛星を基地局にして直接携帯電話と通信する仕組みの実現に力を入れる企業も増えています。その象徴的な例が楽天モバイルです。
同社は2020年3月に、低軌道衛星を活用して携帯電話と直接通信する「SpaceMobile」というサービスの提供を目指している米国のAST & Scienceに出資。同社の衛星と技術を活用することで、2023年以降に日本全国を100%カバーする「スペースモバイル計画」を打ち出しています。
また、ソフトバンクも2021年5月に低軌道衛星通信サービスを提供する英国のOneWebとの協業に合意、両社で協力して国内外での通信技術や商品の開発、そしてサービスを提供する上で重要となる許認可の取得や地上局の構築などに取り組むとしています。
ちなみにOneWebは、かつてソフトバンクグループが出資を受けたものの2020年に経営破綻、2021年に再びソフトバンクグループから出資を受け事業を継続するなど、ソフトバンクとは非常に関係が深い企業でもあります。
また、衛星だけでなく、より低い成層圏に「HAPS」(High Altitude Platform Station)と呼ばれる無人の飛行機を飛ばし、そこから携帯電話に直接電波を送って通信する仕組みの開発に取り組む企業も多いようです。
国内ではソフトバンクが子会社「HAPSモバイル」を立ち上げその実現に向けた取り組みを進めているほか、NTTドコモもスカパーJSATと共同で、2021年3月にHAPSの実証実験を実施するなど取り組みを強化していることを明らかにしています。
なぜ携帯電話会社が、宇宙や成層圏からエリアカバーすることに力を入れているのかというと、1つはエリア整備コストの削減です。上空から高速通信ができる手段を確立できれば、特に人口が少なく採算性の低い地方の山間部などにコストをかけて基地局を設置・管理する必要がなくなり、その分運用コストを下げられる可能性が高まります。
そしてもう1つは6Gの存在です。6Gでは携帯電話のカバーエリアを海や空、宇宙など従来以上に広げることが要件の1つとして求められると見られていることから、6Gで主導権を取りたい企業などが将来を見据えて技術開発に力を入れるようになったといえるでしょう。
とは言え、その実現のためには多くの衛星やHAPSを打ち上げて飛ばし、それらを管理する必要があることから非常に高額なコストがかかりますし、実現したとしてもそれを有効なビジネスにつなげられるかはまだ見えていません。
実際、先にも触れた通りOneWebは一度経営破綻していますし、ソフトバンク子会社と共同でHAPSの開発に取り組んでいた、グーグルの親会社Alphabetが設立したLoonも事業終了を打ち出すなど、事業化までのハードルが非常に高い様子がうかがえます。
それだけに宇宙や成層圏からの通信を実現するには、技術の確立だけでなく、いかに多くの資金を集め投資をし続けられるかという点も重要になってくると言えそうです。