5Gの商用サービス開始から1年が経過し、携帯各社の5Gに関する取り組みがより積極化してきているようです。1年が経過したことで、携帯各社の5Gを取り巻く環境がどのように変化したのか、エリア、端末、料金面から確認しておきましょう。→過去の回はこちらを参照。

進む面でのエリア展開、2021年度末には環境が整うか

2020年3月に5Gの商用サービスが開始されてから、すでに1年以上が経過しています。開始当初の5Gは大きな注目を集めた一方で、エリアが“点”と言ってよいほど都市部でもまともに使えないほど劇的に狭く、また対応するスマートフォンも10万円を超えるハイエンドモデルばかりで、対応する料金プランも高額であるなど、非常に多くの課題を抱えていました。

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では、それから1年が経過した現在、携帯各社の5Gを取り巻く環境はどのように変化したのでしょうか。まずはエリア面から確認しますと、各社とも47都道府県に、少なくとも何らかの形で5G基地局を設置したとしていますし、カバーするエリアは“点”から“面”に変わりつつあるようで、東京23区内でも5Gが入る場所は増えている印象です。

そこに影響しているのは、1つに5G基地局の設置が本格化してきたことですが、もう1つは4G周波数帯の5Gへの転用が進みつつあることが挙げられます。転用に前向きなKDDIとソフトバンクは2020年末から2021年初頭にかけて、4G向けに割り当てられていた700MHz帯、1700MHz帯、3.5GHz帯といった周波数帯の5Gへの転用を開始しており、各社のエリアマップを見てもそれがエリア拡大にかなり寄与していることが分かります。

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    KDDIのサービスエリアマップより(2020年12月14日閲覧)。東京都心でもこの時点では5G向け周波数帯のみを使っていたため、エリア展開がほぼ“点”というべき状況だった

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    同じくKDDIのサービスエリアマップより(2021年5月16日閲覧)。5G向け周波数帯はオレンジ(3.7GHz帯)と緑(28GHz帯)、4Gから転用した周波数帯は紫で示されているが、薄い色の整備予定エリアを含めると、4G転用帯域の活用で面展開が急速に進む様子がうかがえる

また、4G周波数帯の転用をせずに5Gのエリア整備を進めているNTTドコモのエリアマップを確認しますと、2021年5月時点では5Gのカバーエリアがまだ広いとは言えません。しかし、2021年7月末予定のエリアを見ますとエリアが劇的に広がるようで、今後約2か月でエリアを急拡大する計画のようです。

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    NTTドコモのサービスエリアマップより。2021年5月2日時点の5Gエリア(赤色)は東京都心でもまだ広いとは言えない状況にある

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    同じくNTTドコモのサービスエリアマップより。2021年7月末時点で予定しているエリアは、5月時点と比べ劇的に広がるようだ

ですが、東京23区内でも山手線圏外の住宅地などはカバーされていないエリアが目立ちます。そうした状況が改善され、日常的に5Gにつながると実感できるようになるのは、やはりKDDIとソフトバンクが人口カバー率90%超、NTTドコモが5G周波数帯のみで人口カバー率55%を達成するという、2022年3月末以降からということになりそうです。

一方、楽天モバイルは47都道府県に5G基地局を設置したとはいえ、割り当てられた周波数帯が少ないことや、4Gの基地局整備に重点を置いていることもあって、5Gエリアはまだ“点”というべき状況が続いています。しかし、2021年4月14日に5G用周波数帯として、新たに東名阪以外での1.7GHz帯の割り当てを受けたことから、そちらを用いての5Gエリア整備の広がりが期待されるところです。

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    総務省「第5世代移動通信システム(5G)の普及のための特定基地局の開設計画の認定(概要)」より。5G向けとして東名阪以外の1.7GHz帯の免許が、新たに楽天モバイルに割り当てられたことから、同社がこの帯域をどのように活用するかが注目される

5G対応スマホと料金プランは急速に低価格化が進む

では、5Gを利用する側の環境はどう変化しているでしょうか。まず端末に関して言いますと、日本で最も人気のある「iPhone」が、iPhone 12シリーズで全機種5G対応となったことが大きな変化の1つですが、より大きな変化となるのは5G対応スマートフォンが高止まりしていた最大の要因、5G対応チップセットがハイエンド向けに偏っているという問題が2020年の半ば頃から解消に向かっていることです。

実際、2020年半ば頃からは、クアルコムのミドルハイクラス向けの5G対応チップセット「Snapdragon 765/765G」を搭載したスマートフォンの販売が本格化し、5~7万円前後の5G対応スマートフォンが急増。さらに、2021年に入ってからは、より低価格帯に向けた「Snapdragon 690 5G」「Snapdragon 480 5G」搭載機種の販売が本格化し、5G対応で3万円台というモデルも出てきています。

さらに、最近では低価格帯に強みを持つメディアテック製の5G対応チップセット「Dimensity 800U」を搭載したシャオミの「Redmi Note 9T」や、「Dimensity 720」を搭載したサムスン電子の「Galaxy A32 5G」などが投入され、一層の低価格を実現しているようです。

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    KDDIのauブランドから販売されている、サムスン電子製の「Galaxy A32 5G」。5Gに対応しながら低価格化を実現するため、クアルコム製ではなくメディアテック製のチップセットが採用されている

国内ではこれまで、メディアテック製チップセットを搭載したスマートフォンはあまり提供されてきませんでした。ですが日本政府が端末値引き規制に非常に熱心な現状、低価格な5G端末に対するニーズが非常に高まっていることもあって、メディアテック製チップセット搭載機種は今後大幅に増えることが予想されます。

一方、5G対応の料金プランに関しても、ここ最近非常に大きな動きがありました。これまで5Gのサービスを利用するには携帯大手のメインブランドの料金プランを契約する必要があり、事業者によっては5Gを利用するのに追加料金が必要だったりするなど、料金が高いことが普及を阻む要因にもなっていました。

ですが政府の料金引き下げ要請に応じる形で、携帯大手3社は相次いで料金を大幅に引き下げた新料金プランを発表。その上で、「ワイモバイル」などのサブブランドや、「ahamo」などのオンライン専用プランでも5Gに対応するようになったほか、MVNOでもIIJmioの「ギガプラン」など、5G対応を打ち出す料金プランが出てきているのです。

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    KDDIも他社に追随する形で「povo」や「UQ mobile」などの低価格プランで5G対応を打ち出しているが、同社は元々低価格プランの5G対応に消極的だったこともあり、準備が整わず対応は2021年夏からと他社より遅れる形となった

それゆえ、値引きなしで現在も7000円近くはするメインブランドの使い放題プランだけでなく、2000~3000円台で20GB前後の大容量通信が可能な低価格のプランでも、5Gを活用できるようになったのです。5Gのすそ野を広げる上で、料金面での安心感が高まったことは非常に大きな変化といえるでしょう。

これら一連の環境変化から、5Gを利用するための環境はかなり整いつつあるといえるでしょう。エリア整備が満足できるレベルに到達するにはまだ時間がかかりますが、5Gが日常的なものとなる日はそう遠くないといえそうです。