ローカル5Gに積極的な取り組みを見せている事業者の1つに挙げられているのが、各地域の放送を担うケーブルテレビ事業者です。ジュピターテレコムなど一部を除けば地場系の小規模な企業などが運営しているケーブルテレビ事業者は、ローカル5Gで何を実現しようとしているのでしょうか。
共通の無線コアネットワークを構築しローカル5Gに備える
2020年中はなかなか本格的な活用が進まなかったローカル5G。しかし“本命”とされるサブ6の4.7GHz帯の免許申請が始まり、2021年には富士通や日本電気(NEC)が相次いで4.7GHz帯の無線局免許を取得することを発表していることから、2021年は本格的な活用が急速に進むのではないかと見られています。
そのローカル5Gで注目されているのは、やはり法人・自治体向けソリューションでの活用であり、富士通やNECなどのIT関連事業者や、NTT東日本・NTT西日本(NTT東西)やNTTコミュニケーションズなど、自治体や法人関連の事業に強みを持つ固定通信事業者に注目が集まりがちです。ですがローカル5Gの免許を申請する事業者を見ると、非常に数が多いのがケーブルテレビ事業者です。
実際、総務省が2020年12月8日に4.7GHz帯などローカル5Gの新しい周波数帯の免許受付を開始した際、全国25の企業や自治体などから免許申請があったとされています。その中には、秋田ケーブルテレビや三重県のZTV、愛媛CATVなど、いくつかのケーブルテレビ事業者が多く含まれており、ケーブルテレビ事業者がローカル5Gに積極的に取り組もうとしているようです。
しかも、ケーブルテレビ最大手であるジュピターテレコムの親会社の1つである住友商事と、地域ケーブルテレビ会社5社、地域ワイヤレスジャパン、そしてインターネットイニシアティブ(IIJ)は2019年に「グレープ・ワン」という会社を設立。ケーブルテレビ事業者が共通で利用できる、ローカル5Gなどの無線コアネットワークを構築しており、以前からローカル5Gに力を入れてきた様子が伺えます。
ケーブルテレビ事業者は各地域の有線による放送を手がける事業者であり、無線通信とは縁が薄いようにも見えます。そのケーブルテレビ事業者がローカル5Gを手がける理由として、1つに第25回で取り上げたFWA(Fixed Wireless Access)が挙げられるでしょう。
具体的には、ケーブルテレビ回線のラストワンマイルにローカル5Gを使うことで、工事の手間やコストをかけることなく宅内への引き込みを実現できるようにすることです。ローカル5Gは端末が移動しない固定通信用途であれば、自身の土地で利用するための「自己土地利用」だけでなく、他者が持つ土地に対してサービスを提供する「他者土地利用」も認められていることから、ラストワンマイルとしての活用も可能な訳です。
地域DXのため広域利用を求めるも、電波の有効活用には課題
そしてもう1つ、ケーブルテレビ事業者がローカル5Gに積極的に取り組む理由として、無線のネットワークを活用したその地域のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する狙いも大きいようです。
実は、ケーブルテレビ事業者のいくつかはローカル5Gより以前から「地域BWA」として割り当てられている2.5GHz帯の一部を使い、WiMAXやAXGPなどBWA(広帯域移動無線アクセス)の通信方式を用いて、特定の市町村に限定したデータ通信サービスを提供しているのです。地域BWAは固定回線の代替となるデータ通信用途としてだけでなく、事業者によっては子供や高齢者の見守り、防犯カメラなどの地域サービスに活用されているようです。
そうしたことから、ケーブルテレビ会社がローカル5Gを地域BWAの延長線上にあるものとして扱い、各地域の公共サービスなどをデジタル化するための基盤として活用しようという動きも進められているようです。実際、秋田ケーブルテレビではスマート農業や体育館の映像配信、富山県のとなみ衛星通信テレビではローカル5Gとドローンなどを活用した鳥獣対策の実証実験が進められるなどの取り組みがなされています。
しかし、ケーブルテレビ事業者が地域のDX用途にローカル5Gを活用する上では、いくつか課題もあるようです。そもそもローカル5Gと地域BWAは免許制度が異なり、地域BWAは免許を申請した市区町村の広域で無線通信が利用できるのに対し、ローカル5Gは地域内であっても使える場所が限定されているため、地域BWAと同じ使い方はできません。
そうしたことから、ケーブルテレビの業界団体である日本ケーブルテレビ連盟はローカル5Gを地域BWAと同様広域で利用できるよう、総務省に制度の見直しを求めているようです。
また、各地域の通信を手がけているNTT東西がローカル5Gに力を入れていることも、ケーブルテレビ事業者側には懸念点となっているようです。NTT東西は、ネットワークと企業体力の面で圧倒的な優位性があるというだけでなく、2020年にNTTがNTTドコモを完全子会社化しています。
そうしたことから日本ケーブルテレビ連盟は、無線ネットワークに非常に強いNTTドコモとNTT東西の設備共用がなされてしまえば、ケーブルテレビ事業者が太刀打ちできないとし、NTT東西のローカル5G無線局免許の扱いを再検証して欲しいと求めているようです。
とは言え、ケーブルテレビ事業者の無線通信に対する取り組みにはばらつきがあり、地域BWAが活用されている地域は限定的なことから、電波の有効活用という側面で見れば明らかに弱さがあります。
それゆえ、地域BWA帯域の有効活用のため、使われていない地域ではローカル5GのNSA構成における4G用帯域として活用する方針が既に示されていますが、楽天モバイルからは使われていない地域の地域BWA帯域を携帯電話向けに、割り当てるよう求める意見も出ています。
それだけに、ケーブルテレビ事業者のローカル5Gに関する要望を受け入れてもらうためには、いかに無線通信を有効活用しているかという明確な実績が求められるでしょう。そのためにはやはり、ローカル5Gの免許を獲得した事業者が積極的な取り組みを見せ、実績を出していく必要があると言えそうです。