4G向けの周波数帯を5Gに転用する動きが加速しており、昨年末から開始しているKDDIに続き、2021年2月にはソフトバンクも転用を開始しています。一方、楽天モバイルは周波数帯転用の動きに追随できず、依然として5Gのエリア拡大計画を打ち出せずにいますが、なぜでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

急速に転用を進めるKDDIとソフトバンク

2021年は国内でも5Gエリアの面展開が本格化する年であり、各社のエリアマップを見ると急速にエリア拡大が進んでいる様子が分かります。中でも2021年2月時点で急速にエリア拡大が進んだと感じさせるのがKDDIであり、エリアマップを見ても東京の山手線の南側はかなりカバーされている様子がうかがえます。

その理由は、4Gの周波数帯を5Gに転用し始めたからこそです。同社は2020年12月中旬から、4G向けに割り当てられている3.5GHz帯を5G向けに転用することを発表しています。

3.5GHz帯は、やはりKDDIなどに5G向けとして割り当てられている3.7GHz帯と周波数自体は近いことから、電波の飛び方が大きく変わるわけではありません。しかし、衛星との電波干渉を考慮しなければならない3.7GHz帯のような制約がなく、基地局設置の自由度が圧倒的に高いことから、その本格活用で急速に5Gのエリア拡大が進んだと言えるでしょう。

さらにKDDIは2021年春には、やはり4G向けに割り当てられている700MHz帯を5Gに転用してエリア整備を進めていくことを明らかにしています。今後も4G向けの周波数帯を積極的活用して5Gのエリアを広げる方針のようです。

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    KDDIは4G向けに割り当てられている3.5GHz帯の5Gへの転用を2020年12月より開始。今後は700MHz帯も転用する方針を打ち出している

KDDIに続く形で、ソフトバンクも2021年2月15日から4G向けの周波数帯を5Gに転用することを発表しています。同社は3.4GHz帯(KDDIの3.5GHz帯と同じ)と700MHz帯に加え、1.7GHz帯も5Gに転用することを明らかにしており、まずは東京都と愛知県の一部でこれらを用いた5Gサービスを開始し、エリア拡大を推し進めるとしています。

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    ソフトバンクも2020年2月15日より、5Gのエリア拡大のため3.4GHz帯と700MHz帯、そして1.7GHz帯の5Gへの転用を、東京都と愛知県の一部を皮切りとして開始するとしている

無論、4G向けの周波数帯は5G向けに割り当てられた周波数帯と比べの帯域幅が狭く、通信速度の向上は期待できません。ですが電波の特性や自由度の高さなどを考慮すると、エリア整備を進める上で圧倒的優位であることは間違いなく、これら帯域の活用で両社の5Gエリアは今後急拡大するものと考えられます。

転用するには割り当て周波数帯が少ない楽天モバイル

もちろん、4G向け周波数帯の転用に全ての事業者が積極的という訳ではありません。第24回でも触れた通り、NTTドコモは衛星干渉の影響を受けにくい4.5GHz帯の割り当てを受けていること、そして4Gの周波数帯では実現できない高速大容量通信を重視する方針を打ち出しています。それゆえ同社は当面、あくまで5G向けに割り当てられた周波数帯でのエリア整備を進めるとしています。

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    NTTドコモは2社と一線を画し、高速大容量通信を重視するため当面は5Gの周波数帯のみでエリア整備を進める方針を示している

そして、もう1社、4G向け周波数帯の転用を打ち出していないのが楽天モバイルです。同社は他の3社より遅れて2020年9月末に5Gのサービスを開始していますが、現在のところ5G向けに割り当てられた28GHz帯と3.7GHz帯でエリア整備を進める方針を変えておらず、携帯4社の中で唯一、5Gの全国展開スケジュールを現在もなお明らかにしていません。

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    楽天モバイルは4Gのエリアに関して、2021年夏頃に人口カバー率96%を達成するという明確な目標を打ち出している一方、5Gの具体的なエリア整備計画は言及を避けている

楽天モバイルは、サービスを開始して間もない新興の事業者であり、なのであれば4G向けの周波数帯も全て5Gに転用してエリア整備すればいいのでは?と思ってしまいますが、同社はあくまで広域のエリア整備は4Gで進める方針を崩していません。その理由を考えると行き着くのが、割り当てられている周波数帯の少なさです。

そもそも楽天モバイルに割り当てられているのは、4G向けの1.7GHz帯、そして5G向けの3.7GHz帯と28GHz帯のみです。4G向けの周波数帯を潤沢に割り当てられている3社であれば転用も容易ですが、同社の4G向け周波数帯は1.7GHz帯のみで、それをフル活用して全国のエリア整備を進めている最中の同社にとって、転用による5Gエリア整備という選択肢をとるのは難しいといえるでしょう。

もちろん、4Gと5Gの周波数帯を共用するダイナミックスペクトラムシェアリングといった技術も存在しますが、周波数帯が1つしかない状況でそれを使えば、4G向けの帯域が5Gに圧迫されユーザーに大きな影響を与える可能性も出てくるかもしれません。保有する周波数帯があまりに少ないが故、5Gのエリア拡大に向けた選択肢がないというのが同社の現状といえそうです。

そうしたことから、楽天モバイルが5Gのエリア拡大を本格化させ、具体的な整備計画を明らかにできるようになるためには、エリア整備に融通が利く周波数帯のさらなる割り当てが必須と言えそうです。中でもとりわけ同社は、広域のエリア整備に最適とされる1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」の割り当てを強く求めているようです。

実際、総務省で実施されている有識者会議「デジタル変革時代の電波政策懇談会」で、楽天モバイルはプラチナバンドの割り当てを強く要望しています。すでに、3社に割り当てられている700~900MHz帯の再分配を求めているようですが、3社からは技術やコストなどの理由から難色を示していますし、仮に再編が総務省に認められたとしても、実際の再編と整備には年単位の時間とコストがかかるでしょう。

そうしたことから当面、楽天モバイルは容易に5Gエリアを拡大できない状況が続く可能性が高いと言えるでしょう。その遅れが今後の市場競争にどう響いてくるかは、やや気になる所です。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第37回

    総務省「デジタル変革時代の電波政策懇談会 移動通信システム等制度WG」の第1回会合における楽天モバイル提出資料より。同社はエリア整備に優位なプラチナバンドの割り当てを強く要望、3社に割り当てられているプラチナバンドの再分配を求めているようだ