5Gの本格展開に向けて、重要になってくるのが周波数帯の拡大です。総務省では既存の4G向け周波数帯の5Gへの転用に加え、新たな5G向け周波数帯の割り当てに向けた取り組みが進められていますが、今後携帯電話会社にはどのような周波数帯の割り当てがなされる予定なのでしょうか。総務省の「周波数再編アクションプラン」から確認してみましょう。

5Gのエリア拡大には新たな周波数が必要

2020年はサービス開始以降、大きな盛り上がりを見せることがなかった5G。その理由には新型コロナウイルスの感染拡大などいくつかの理由がありますが、最大の理由はやはりエリアが非常に狭く、消費者が5G端末を購入しても5Gらしい新しい体験ができなかったことではないでしょうか。

なぜエリアが狭いのか、というのはこれまでにも何度か触れていますが、改めて説明しますと主因は周波数帯にあります。携帯4社に割り当てられた5G向け周波数帯は大きく3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯の3つで、ローカル5G向けにも28GHz帯が割り当てられていますが、28GHz帯は周波数が高いので広範囲をカバーするのに向かず、3.7GHz帯は衛星通信と共用で、衛星通信との干渉を避ける必要があり基地局の設置場所に大きな制約があります。

それゆえ、既存の周波数帯だけでエリアを広げるには4.5GHz帯を用いる必要がありますが、この帯域が割り当てられているのはNTTドコモだけ。それ以外の3社は5Gのエリア拡大が非常に難しい状況にあるのです。

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    NTTドコモの「2020-2021冬春 新サービス・新商品発表会」資料より。唯一4.5GHz帯の免許を持つNTTドコモは、それを有効活用して全国のエリア展開を進め、高速大容量通信ができるエリアを2023年3月末までに人口カバー率約70%にまで広げるとしている

そこで注目されているのは、既存の4G向け周波数帯を5G向けに転用することや、まだ割り当てがなされていない新しい帯域の割り当てをすること。ですが国の資産である電波を新しい無線システムで利用する上では、携帯電話以外の無線システムに影響が出ないようにするため事前のさまざまな調整が必要となってきます。

そうした今後の周波数割り当てに向けた国の取り組みを示しているのが、総務省が公開している「周波数再編アクションプラン」です。このアクションプランは毎年改定されており、5G向けの周波数帯の割り当ても、基本的にはその内容に従って進められることとなります。

アクションプランで検討されている割り当て帯域とは

2020年5月に改訂された令和2年度(2020年度)の改定版アクションプランの内容を見ますと、今後の「重点的取組」として、5Gなどの円滑な導入に向けた3つの施策を挙げています。

1つ目は「追加周波数割当ての検討」で、諸外国と調和の取れた周波数帯を確保するため、新たに4.9GHz帯(4.9~5.0GHz)、26GHz帯(26.6~27.0GHz)、40GHz帯(39.5~43.5GHz)を、既存の無線システムに配慮しながら共用することを検討するとしています。

2つ目は「既存バンドの5G化」で、要は4G向けに割り当てられている3.6GHz以下の周波数帯を、5Gでも使えるようにすること。これについては2020年8月に制度が整備されており、2020年10月には「au」ブランドを展開するKDDIと沖縄セルラー電話が、4G向け周波数帯に5Gを導入するための申請を実施しています。

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    総務省「第5世代移動通信システム(5G)及びBWAの高度化に関する技術的条件」一部答申概要より。5Gで広範囲をカバーする上で低い周波数帯を使いたいニーズが大きいことから、4G向け帯域の5G転用に向けた制度整備がなされてきた

そして、3つ目は「ローカル5Gの追加周波数割当ての検討」で、4.7GHz帯(4.6~4.9GHz)と、28GHz帯の追加分(28.3~29.1GHz)を既存システムと共用することを検討するとしています。こちらに関しても、2020年12月までにこれら帯域の割り当てがなされると見られており、スタンドアローン運用ができる4.7GHz帯の割り当てを念頭に、富士通やNECなどが相次いでローカル5Gの本格サービス開始を打ち出しています(第30回参照)。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第31回

    NECは2020年11月26日にローカル5Gのサービス開始を発表。4.7GHz帯の割り当てがなされることを念頭に、スタンドアローン運用を念頭に置いたローカル5Gのサービスを提供するとしている

また、重点的取組としてもう1つ、総務省は「ダイナミックな周波数共用の推進」も掲げています。先にも新たな帯域の割り当ては既存システムと「共用」することを検討すると記されていましたが、電波は既に多くの無線システムで使われていることから、今後割り当てがなされる周波数帯の多くは3.7GHz帯と同様、他の無線システムが既に使用している帯域を、そちらに影響が出ない形で使うことを前提に割り当てがなされるものと見られています。

しかし、それでは3.7GHz帯のように基地局設置場所などで大きな制約が出てきてしまいます。そこでアクションプランでは、電波をデータベースで管理することにより、既存の無線システムが使っていない場所や時間帯の電波を、新しい無線システムで使用するなどして共存させ、電波資源を有効活用するダイナミック周波数共用(Dynamic Spectrum Access、DSA)という技術の導入を進めるとしています。

DSAのシステムは2021年から実現が可能になる見込みとなっており、その適用先の第1弾として放送事業用FPU(無線中継伝送装置)や公共業務用無線局などに用いられている2.3GHz帯のルール検討を進めるとしています。その後、衛星通信システムなどに使われている2.6GHz帯、さらには26GHz帯、38GHz帯でもDSAによる共有の検討を進める方針です。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第31回

    総務省「電波利用ホームページ」より。5Gにより多くの周波数帯を割り当てるため、既存システムと高度に共用できるDSAの技術検証が進められている

なお、アクションプランには記載されていませんが、2020年11月20日には新たな5G向け周波数帯の追加割り当てとして、1.7GHz帯を携帯電話会社1社に割り当てる計画を発表しています。この帯域は20MHz幅と、先に割り当てられた5G向け周波数帯と比べ帯域幅が狭く、しかも割り当てられるのは東名阪以外のエリアに限られています。

なぜ、このような帯域の割り当てが浮上したのかと言うと、2018年に4G向けとして割り当てがなされたにもかかわらず、携帯4社が全国で使える帯域の割り当てを優先した結果どの会社も手を挙げず、ある意味余っていたからです。

すでに全国カバーが進んでいた4G時代、携帯電話会社にとって整備を最優先すべきは、人口が多くトラフィックが大きい大都市を抱える東名阪エリアであり、それを含まない帯域は魅力が薄いことがその要因と見られています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第31回

    新たに5G向けの割り当てが打ち出された1.7GHz帯(総務省「第5世代移動通信システムの普及のための特定基地局の開設に関する指針案について」より)。同じ帯域の東名阪向けは4G時代にNTTドコモに割り当てられており、今回割り当てられるのはそれ以外の地域向けとなる

ですが5Gでは全国的に急速なエリア拡大が求められており、地方であっても周波数帯が低く遠くに飛びやすい1.7GHz帯の魅力は大きいことから、今回は1社も手を挙げない、ということにはならないと考えられます。当面は4Gでの利用も可能とされていることから、特に全国でのエリア拡大が必要な楽天モバイルにとっては、魅力が大きい帯域と言えるかもしれません。

ただし、その割り当て案を見ますと、総務省が2020年10月27日に公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の取り組み状況を審査項目に追加する、とされています。このアクションプランは菅政権が強く求めている携帯電話料金引き下げの実現に向けたものとされていることから、携帯料金引き下げの影響が、電波割り当てにすでに影響しつつあることも確かなようです。