今回のテーマは「スタートアップ」

ベンチャーという言葉は"冒険的事業"や"投機"、"危険にさらす"といった意味がある。リスク的な言葉ばかり並んでしまい、あまり高揚感が感じられない。そのため個人的には海外で使われる"スタートアップ"という言葉のほうが好きだ。

スタートアップの場合、リソース(資金、物資、人それぞれについて)余裕がない。使えるのはアイディアと自分たちの腕だけだ。しかしむしろ余裕がないほうが良いアイディアや工夫で難局を乗り切れるのではないだろうか。今回はそんなスタートアップの方々に役立つ、または事業を立ち上げるのに役立つWebアプリケーション、オープンソース・ソフトウェア(OSS)を紹介したい。もちろん普段の業務の中でも工夫を凝らすためのアイディアとして役立つのは間違いない。

今回紹介するOSS・Webアプリ
Smynx』 アイディアを形にするのが苦手なら
Virustotal』 プライベートベータの招待状を共有
RuckSack』 Backpackにインスパイアされたコラボレーションツール
RailsCollab』 小規模なプロジェクトでも使える高機能プロジェクト管理



アイディアを形にするのが苦手なら

名称 Smynx
URL http://www.smynx.com/~

デザインが苦手な人や、口頭で伝えるのは得意なのに実際の形に落とし込むのが苦手という人は多い。そこで『Smynx』はアイディアを文字で書き、それを見た人がスケッチで応えられるというWebサービスを作り上げた。「それってこんな感じ?」「こういう風な画面だったら良いよね」的なアイディアを具体化するプロセスをWeb上でできるのだ。

「Smynx」のダッシュボード。新しいアイディアを登録したり、人のアイディアにスケッチを追加できる

さらにお互いにメッセージを送信することができるので、Smynxを介して知り合った相手と一緒にアイディアを具体化し、サービス化もしくは商品化するなんてこともできる。アイディアを盗まれるリスクがあるかもいれないが、ひとりでは決して実現できないもので、自分の知り合いだけでも難しいならSmynxを使ってパートナーを募集してみるほうが前進するだろう。

スケッチ画面。色と線だけでアイディアを具体化する

さらに技術的要素を選択することで、似たようなアイディアをリストアップする機能もある。これにより自分が思い描いているものと近いアイディアに対して参画することだって考えられる。単なる思いつきがSmynxを使って具体化され、思いもよらぬ形に発展する可能性だって秘めている。




プライベートベータの招待状を共有

名称 InviteShare
URL http://www.inviteshare.com/

ある程度サービスが形になってきた時、人数を絞り込んで公開し、実際に使ってみてもらうことがある。海外ではクローズドベータとして招待するコードを著名なブログなどに配布し、そこから利用者を募る手法が多々行なわれている。しかし登録しようと思った時にはすでに満員だったり、招待コードを知らなかったりしてやきもきすることも度々だ。

そんな時に役立つのが『InviteShare』だ。このWebサービスではクローズドベータ中の招待コードを共有するサービスを行なっている。これを使えば、まだ公開されていないWebサービスをいち早く試すことができる。気になるサービスに登録しておけば、いつの日か誰かが招待してくれるはずだ。もちろん招待されたらInviteShareから見られる別の誰かを誘ってあげよう。

トップページ。人気のサービスが数々並んでいる

執筆時点で52のWebサービスが登録されており93,000を超える招待状が送られている。話題のサービスをいち早く使ってみたい、そんな新しいもの好きな方は登録してみてほしい。

招待状待ちリスト。メールアドレスが丸見えになるのでご注意を




Backpackにインスパイアされたコラボレーションツール

名称 RuckSack
URL http://github.com/jamesu/rucksack/tree/master

プロジェクトはひとりで始められる小規模なものもあるが、数人で行なうものもあるだろう。そうした時に必要なのが情報の共有だ。皆がひとつの目標に向かって最短距離で進まなければ、プロジェクトは迷走し、時間や資金を食いつぶしてしまう。

それを避けるのに考えたいのがコラボレーションツールの導入だ。『RuckSack』は、37signalsが開発したコラボレーションツール「Backpack」を真似して作られたRuby on Rails製のコラボレーションソフトウェアだ。基本的な機能はページ、リマインダ、ジャーナルとなっており、それらをまとめるダッシュボードの機能もある。

ページ機能。リストやノートなどの要素を追加、編集できる

ページは複数作成でき、中にノートやリスト、区切りを挿入できるようになっている。メールを使ってコンテンツを追加する機能もあるようだ。なお、本家のBackpackでは画像やファイルを追加することができるが、RuckSackでは対応していない。

編集はその場ででき、すぐに保存できる

ジャーナルの機能は筆者の環境では動作しなかった。まだ開発途中ということもあり、Backpackに比べると見劣りする部分もある。だが触れてみるとその面白さに今後の可能性を感じざるを得ない。データの共有を深め、目標を見失わないようにしよう。




小規模なプロジェクトでも使える高機能プロジェクト管理

名称 RailsCollab
URL http://github.com/jamesu/railscollab/tree/master

小規模なプロジェクトの場合、プロジェクト管理ツールを使わないこともある。だが何もスケジューリングされないプロジェクトや、必要機能が洗い出されていないサービスはうまく立ち上がらないことが多い。管理項目は規模に応じて増減すべきだが、最低限のマイルストーンや管理はしなければならない。

手頃なプロジェクト管理を探している方は、『RailsCollab』を使ってみてはどうだろう。PHPベースのプロジェクト管理「ActiveCollab」を真似して作られたオープンソース・ソフトウェアで、Ruby on Railsを用いて開発されている。その他、37signalsの「Basecamp」からも影響を受けている。

プロジェクトダッシュボード画面。タスクやマイルストーンが一望できる

おもな機能としてはクライアント管理、メッセージ、タスク、マイルストーン、作業時間、ファイル、フォームとなっている。フォーム機能はあらかじめ設定しておくことで書き込んだ内容を指定したタスクリストに追加したり、コメントとして残したりすることができる。また、メッセージは指定したメンバーに対して一括で送信でき、ファイルを添付することもできる。

タスク画面。シンプルな画面構成で分かりやすい

ファイルの保存先としてAmazon S3が指定できるなど小規模のみならず大きめのプロジェクト管理でも対応できるようになっている。ひとりで複数のプロジェクト管理が設定できるので、普段の業務をプロジェクト化し、管理するといった利用も考えられそうだ。

いかがでしたか?

スタートアップ企業はスピード感がなければならない。自分たちの実現したいもの以外はできるだけ外部のものを使いつつ、すばやく作業を進める必要がある。オープンソースやWebアプリケーションの活用はまさにそのための武器となるはずだ。

はじめはひとりでサービス化を進めていても、次第にメンバーが集まってくることもある。そうした時に最初の理念を明文化しておくと共有すべきものが明確になり、みんなの視線を合わせることができる。そのためにもごく小さな規模の頃からデータを蓄積しておく良さそうだ。そしてその際にもまた、今回紹介したWebサービスやオープンソース・ソフトウェアが役立つはずだ。

著者プロフィール
MOONGIFT 中津川 篤司(なかつがわ あつし)
1978年生まれ。オープンソース紹介サイト「MOONGIFT」管理人。プログラマ、SE、ITマネージャを経て、オープンソースのビジネス活用を推進する。現在は独立し、Webサービスのコンサルティング、プロデュースを行う。