VLSIシンポジウム 2022では、さまざまな半導体技術が発表が行われる。今回は、そんな発表の中から5Gトランシーバ、およびパワーマネージメント(電源管理)分野の注目論文を紹介しよう。
5Gトランシーバ分野
6-1:双方向ドハティアンプによる5G基地局向け39GHz帯フェーズドアレイトランシーバ (東京工業大学)
ドハティ型パワーアンプは効率を改善させる有力なアプローチである。しかし、シングルルックアップテーブルによるデジタルプリディストーション改善はドハティ型パワーアンプのPVTバラつきにより限界が生ずる。
東京工業大学は、NECと共同で、双方向ドハティアンプによる5G基地局向け39GHz帯フェーズドアレイトランシーバーを報告する予定。アンテナ間で共有したデジタル補正手法と個々のアンテナに対して位相と利得補正を適用するアプローチと、アンテナ間で共有したデジタル補正手法と個々のアンテナに対して位相と利得補正を適用するアプローチにより、送信時のEVMを9.1%、送受信時のEVMを11.8%まで改善した。また、39GHz帯において64QAM変調の条件下で21Gbpsのデータ通信速度を達成したという。
6-2:5G向け広帯域28/39GHz帯フェーズドアレイ無線機 (中国・清華大学)
5Gサービスは、ミリ波帯を用いた超高速モバイルデータアクセスを提供することができるが、ネットワークの横断ローミングをサポートするために広帯域フェーズドアレイ5Gシステムが必要とされている。広帯域化には相当数の素子が必要となるため、面積効率の良い設計が必要である。
中国の清華大学は、広帯域でのビームフォーミングを実現するために、新たな高速スイッチング、減衰器、位相器の回路技術を用いた5G向け広帯域28/39GHz帯フェーズドアレイ無線機を報告する予定。28~39GHzで64/256/512QAMの変復調に対応し、19.2dBの受信利得、12.8dBm以上の送信電力を実現したとする。また、先行研究より25%以上の面積削減を達成したと主張している。
パワーマネージメント
7-1:パッケージ埋め込み型インダクタを用いた集積型電圧レギュレータ (Intel)
3D-TSV積層システムインパッケージにおけるアクティブシリコンインターポーザにより、集積型電圧レギュレータを効率的かつ低コストで集積できるようになった。しかし、TSVに適したインダクタ集積と、相互通信を必要とせずに集合化できるモジュール式ユニットを必要としている。
Intelは、3D-TSVで接続されたパッケージ基板にインダクタを埋め込み、インターポーザダイ上の集積型電圧レギュレータにタイル状に直接接続する手法を広告する予定。単一タイルでの電力効率は10mAから300mAにかけて一定を保ち、隣接するタイルのレギュレータを選択的に集合化することで1Aの範囲まで向上することができたという。
7-2:3nm GAA(Gate-All-Around)プロセスを用いたモバイル向けSoCにて電源電圧動的制御を行うためのリニアレギュレータ回路 (Samsung Electronics)
多くのCPUコアを搭載したモバイル向けSoCにおいて、高性能と低消費電力を両立させるために要求性能に応じてコアごとに電源電圧を動的に変化させる技術が用いられている。これを実現するために、SoC上に多数個のリニアレギュレータ回路を搭載する必要がある。
Samsungは、デジタル制御とアナログ制御を巧みに組み合わせた新しいリニアレギュレータ回路を提案し、3nm GAA(Gate All Around)プロセスを用いたチップ試作結果にて34.15A/mm2の大出力電流密度と1nsの負荷電流変化に対する高速応答性を実証したことを報告する予定だという。
SamsungやIntel、imecが発表件数トップ争い
なお、2022 VLSI symposiumにおけるLate News Paper(一般論文応募締め切る後に投稿された研究速報論文)は1件も採択されなかったとのことで、同シンポジウムで発表される一般論文は198件となる。
Samsung(19件)、Intel(13件)、imec(12件)、TSMC(9件)と微細化プロセス開発で先頭を走る企業からの発表件数の多さが目立つ。また、微細化の研究だけで製造ラインを持たぬIBMも5件ほど発表する。ちなみに日本から発表される17件の内訳は、ソニー、東工大、東大が各3件、産総研が2件、東北大、ルネサス、キオクシア、東芝、凸版印刷、アナログデバイセズ(日本法人)が各1件である。