VLSIシンポジウム 2022では、さまざまな半導体技術が発表が行われる。今回は、そんな発表の中からイメージセンサとフォトニクス分野の注目論文をいくつか紹介しよう。

イメージセンサ分野

3-1:高解像度0.6μm小型CMOSイメージセンサ開発 (Samsung Electronics)

Samsung Electronicsは、デュアル垂直型転送ゲート(D-VTG)技術を活用し、10,000e-のフルウェル容量(FWC)を有した0.6μmピクセルの2億画素数(200Mp)CMOSイメージセンサの試作に成功したことを報告する予定。

D-VTGにより、従来の単一垂直転送ゲート(SVTG)に比べ、ウェル容量が60%増加および転送電圧の制御性の向上による転送能力を改善したとするほか、光電子伝達の効率化をゲート構造の最適化により実現したとしている。

  • CMOSイメージセンサの画素サイズごとのフルウェル容量

    図1 CMOSイメージセンサの画素サイズごとのフルウェル容量 (提供:VLSIシンポジウム、以下同様)

3-2:2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサ (ソニー)

ソニーは、フォトダイオードと画素トランジスタを別々のSi層に形成することでフォトダイオード(PD)を大きくすることが可能となり、ゲインとノイズが改善されることを報告する予定。

フルトレンチ分離(FTI)には従来のpoly-SiではなくSiO2が初めて採用され、FTIでの光吸収が抑制されたことで、波長530nmにおける量子効率は19%向上したという。従来は大きな画素サイズでのみ達成可能であった飽和信号量12000e-を、1.0μmデュアルPD CMOSイメージセンサで達成できたという。

3-3:高照度環境光に対応したロングレンジ3次元距離測定のためのハイブリッド・間接型ToFイメージセンサ (凸版印刷)

一般的に、3次元測距カメラやLiDAR用に利用される高分解能間接型ToFでは距離レンジと測定精度がトレードオフの関係にある。低速車両、無人搬送車、ドローンなどの分野へ応用を拡大するためには、測定範囲の拡大や高い外乱光耐性が不可欠である。

凸版印刷、ブルックマンテクノロジおよび静岡大学は共同で、距離レンジ-精度のトレードオフを克服し、屋外での利用を含めた多様な用途に適した新しい計測タイミングスキームを提案する予定。複数のカメラが同一視野を撮像する際に生じる相互干渉の抑制方法についても提案するという。30mレンジ、100Luxの環境光下で15cm以下の精度を達成したという。

  • 昼および夜のToFイメージセンサ画像

    図2 昼(上)および夜(下)のToFイメージセンサ画像(右)

3-4:1200×84-pixels 30fps 64ccの小型LiDARレシーバー (東芝)

近年、LiDARはレーザー送信機の小型化と受信機のLSI化によってシステム全体の小型化とコスト削減が図られている。一般的にSPAD画素は高電圧駆動が必要で、多くのオフチップ部品を必要とし、コストアップにつながっている。

東芝は、 チップ上にSPAD(Single Photon Avalanche Diode)のプロセスと温度によるばらつきを補正する電圧制御ループを低電圧回路で実現し、システムの部品点数を削減することに成功したことを報告する予定。

このLiDARシステムは、CMOS受信機とマイクロスキャンミラー、28chのADC、FPGAを搭載し、110kLuxの明るい環境下で、30fps、システム温度90℃までの3次元データの生成を実証したという。

  • LiDARレシーバーのブロックダイアグラム(上)とLiDAR画像

    図3 LiDARレシーバーのブロックダイアグラム(上)とLiDAR画像

フォトニクス分野

4-1:Siスロット導波路上の低静電容量InGaAsメンブレン光検出器 (東京大学)

東京大学は、 低容量と高応答性を両立する、極薄InGaAsメンブレンとSiスロット導波路で構成されるSi/III-Vハイブリッド導波路光検出器を提案する予定。

Siスロット導波路の強い光閉じ込めによりInGaAsメンブレン中の光吸収を促進し、受信器レス(TIAレス)システム実現につながる1.9fFの低い静電容量と1A/Wの高応答性を実証したという。

  • Siスロット導波路上の低静電容量InGaAsメンブレン光検出器

    図4 Siスロット導波路上の低静電容量InGaAsメンブレン光検出器

4-2:GeSn多重量子井戸を用いた2μm波長帯光通信用チップ (シンガポール大学)

シンガポール大学は、Ge-on-Si導波路とGeSn多重量子井戸を組み合わせた2μm波長帯域で動作する光通信用送受信デバイスの実証に成功したことを報告する予定。

グレーティングカプラで光信号を入力可能な導波路型受光器を実現したことで、表面入射型構造と比較して感度を35倍改善することに成功した。GeSnを用いた受光器として525 mA/Wという最高感度が得られた。

GeSn多重量子井戸中の電界吸収効果を使った光変調動作の実証に成功し、世界で初めて、GeSn多重量子井戸を使った受光器と光変調器のモノリシック集積に成功したとする。