「2020 Symposium on Technology and Circuits(VLSIシンポジウム2020)」における4件の基調講演の最後は、キオクシア(旧東芝メモリ)技師長の大島成夫氏が「フラッシュイノベーションによる次世代アプリケーションの強化」と題して登壇した。

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    図1 キオクシア大島成夫氏と講演タイトル (出所:VLSI Symposium Webサイト)

同氏は、まず最初に「ICT(情報通信技術)の成長がフラッシュメモリの新しい強力なドライバーになってきている。2000年代から2010年代にかけて、PC、モバイルデバイス、そしてサーバーやストレージシステムのような企業内システムなどのいわゆるエンドポイント市場が出現した。2010年代から、クラウドサービスが登場しICT市場全体を飛躍的に拡大させている。この市場の将来は非常に有望であるが、大量のデータに短時間でアクセスできるようにすることが必須である」と市場を取り巻く状況を説明した。

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    図2 巨大なデータの発生状況とフラッシュメモリの需要予測 (出所:VLSI Symposium Proceedings、以下すべて)

破壊的な進化を続けてきたフラッシュメモリ

フラッシュメモリ業界は、密度、レイテンシ(遅延時間)、フォームファクターにおいて革新的なイノベーションを継続的に生み出してきた。特に直近の10年間は革新的なフラッシュメモリ技術が導入された期間でもある。3次元メモリアレイ(図3)、高速DDRインタフェース、SCM (ストレージクラスメモリ)と呼ばれる新たなメモリカテゴリ、QLC(Quadruple Level Cell)やPLC(Penta Level Cell)と呼ばれるスーパーマルチレベルセルなどである。その結果、コストパフォーマンスの飛躍的な向上が実現された。ちなみに2020年は、100層を超す3D NANDを各社が生産を開始する段階にある。

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    図3 2次元から3次元へのフラッシュメモリ技術革新

ストレージクラスメモリを目指すフラッシュメモリ

レイテンシ(遅延時間)を基準にした各種メモリの階層を見ると、最近、SCMと呼ばれるメモリがDRAMとフラッシュメモリのレイテンシ・ギャップを埋める点で注目されるようになってきた。PCMやMRAMなどの新規メモリが候補として登場してきているが、レイテンシを改善したフラッシュメモリベースの安価なSCMも開発されてきている。新規メモリだけではなく、フラッシュメモリもSCMを目指しているのだ。

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    図4 ストレージの階層。PCMやMRAMだけではなくフラッシュメモリもSCMをめざす

3D NANDのさまざまな技術革新とともにSSDも技術革新が続いている。インタフェースの速度も、NVMe SSDではPCIeが第3世代の8Gbpsから第4世代の16Gbpsへと向上した。性能向上のためにさまざまなソフトウェア上の工夫も行われている。

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    図5 SSDの性能比較

ウェハをSSDとして活用?

同社は将来に向けたフラッシュメモリの革新的アプローチの一例として、社内で「ウェハレベルSSD」と呼んでいる技術の概念を紹介した。従来のフラッシュメモリやSSDの製造法のうちのダイシング、アッセンブリ、パッケージング、SSDドライブ組み立てなどをすべてスキップして、製造コストとリードタイムを極端に短くしつつ、大量のデータ蓄積、高性能化、低コスト化を図ろうという破壊的なアイデアだという。「スーパーマルチプロービング技術」により、単一ウェハ内の数百のチップにプローブを当てて同時並行して動作させる。このようなウェハとスーパーマルチプローバをコンピュータ内に積み重ねて実装するという概念がウェハレベルSSDであり、これにより、膨大なパフォーマンス、数百万IOPSが可能になるとしている。

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    図6 ウェハのままコンピュータに搭載する超大容量ウェハレベルSSDの概念

最後に、大島氏は、フラッシュメモリの発明以来の経過について言及し、「歴史を振り返ってみよう。すべては1984年のIEDMの論文から始まった。最初のフラッシュメモリの発表である。3年後の1987年に最初のNANDフラッシュメモリが発明された。フローティングゲートの2D技術によってメモリカード、初期のSSDのような応用商品が作られデジタルカメラや携帯電話、PCに使われた。SSDはソフトウェアとともに技術革新を続けている。3Dフラッシュも2007年に東芝がBiCS FLASHと名付けられた試作品を発表で始まった。現在、3D NANDフラッシュメモリは、スマートフォン、PC、データセンタ用SSDなど幅広く使われている。SSDは、今後も先端技術革新の旗手として、そこに搭載されるソフトウェアを含めて進化を遂げて行く。メモリの牽引役として、私達は、フラッシュメモリで世界を変えていきたい」と話を結んだ。

5年以内に400層3D NANDの量産実現を予測したのは参加者の38%

この基調講演に関連して、エグゼクティブセッション(ライブ中継イベント)の1つとしてメモリに関する議論が行われた。このセッションは、同シンポジウムにとって初めての試みで、オンデマンドの一般講演セッションから選ばれた10名ほどの講演者がそれぞれ2分で講演要旨を説明し、その後、司会者(プログラム委員)が中心にパネル討論を行った(図7)。そこでは、視聴者全員にフラッシュメモリに関連する以下のようなアンケートが実施された。

問:次のようなメモリ関連事柄は5年以内に実現すると思いますか(複数回答可能)。

  1. 400層以上の3D NANDフラッシュメモリの量産(38.1%)
  2. ウェハボンディング技術のメモリ業界への幅広い普及(61.9%)
  3. 高密度NORフラッシュメモリの実現(19.0%)
  4. ダブル(あるいはクアドラプル=4つ)スプリットセルを有する3D NANDフラッシュメモリの実現(26.2%)

カッコ内の百分率は、視聴者の肯定的な(5年以内に実現可能という)回答率である。複数回答のため、合計は100%を超えている。一部のパネリストからは「技術的というよりも経済的に(コストの観点で)可能かどうか判断すべきだ」との意見が出された。

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    図7 メモリに関するエグゼクティブセッション(ライブ中継)の講演者たちによる意見交換の際の画面構成。左上のウインドウは視聴者のアンケート結果表示 (著者が撮影したスクリーンショット)