2020年、40周年を迎えた「Symposia on VLSI Technology and Circuits(通称:VLSIシンポジウム、主催:IEEE Electron Device Society/応用物理学会)」は、もともと米ハワイ州ホノルルで開催される予定だったが、新型コロナウイルスの影響で、初めてWeb上でのバーチャルな形式での開催となり、6月15日(米国時間基準、日本は16日)にオープニングおよび基調講演セッションがライブ中継で始まった。

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    ハワイで開催されるはずだったVLSIシンポジウム2020 (出所:VLSI Symposium Organizing Committee、以下すべて同様)

シンポジウム全体のテーマは、40周年を記念して「ユビキタスインテリジェンスを実現するVLSI、これからの40年」とし、このテーマに沿って基調講演、パネル討論、ショートコース(講義)、それに200件以上の一般講演などがライブ配信ならびにオンデマンド配信で行なわれている。

今回の参加登録者数は1314名、ショートコース参加登録者数は845名であり、前回比で5割増(ショートコースは倍増)となっている。この数値は5月15日時点のものであり、期間中さらに増加する見込みであるという。ハワイでの開催の場合、参加者はそれなりの渡航費を負担する必要があったが、オンライン会議とすることで、そうした移動や宿泊費の負担がないという効果がでたうえに、好きな時間に何度でも視聴できるとったメリットもあるためだと思われる。

投稿論文の採択率は35%程度

プロセスやデバイスの発表の場であるVLSI Technology Symposiumの投稿論文は248件と、ここ10年で最も多く、そのうち、採択論文は87件だった。採択率は35%で、3件に1件の割で採択されたことになる。248件の応募のうち、129件は大学から、51件は研究機関から、68件は産業界(企業)からと、大学からの発表が過半を占めた。採択件数の主な国別内訳は、米国31件、台湾29件、日本13件、ベルギー10件、フランス6件、シンガポール6件となっている。

また、回路とシステムの発表の場であるVLSI Circuits Symposiumの投稿論文は逆に2010年代前半の400件前後から321件に減ってしまい、採択論文は110件だった。採択率は34%。Technologyへの応募は増加傾向にある一方、Circuitへの応募は減少傾向にあることがうかがえる。

メモリ、AI、CMOSを超えた新概念、非Si材料に多数の応募

世界中のデバイスやプロセス分野でどんなことが研究対象になっているかを知るために、2018年と2020年のTechnology Symposiumに投稿された論文テーマを分類別に比較してみると、2020年は2018年に比べて投稿者の興味が多様化しているとプログラム委員会は分析している。

2020年に一番応募が多かった分野は2018年同様に半導体メモリだった。2020年は48件の応募があり、そのうち20件が採択された(採択率は42%)。次に多かったのが、ホットなテーマであるコンピューティングのための新デバイス(いわゆるAIチップ)で31件だった。ただし、採択件数は6件で、採択率は19%と低かった。次いで、物理・モデリングが25件(採択は6件)、CMOSを超えた新概念が24件(採択3件)、非シリコン基板・材料・デバイスが24件(採択10件)と続いている。伝統的に評判の高いプロセス技術分野への応募は19件でうち10件が採択された。採択率は53%で応募論文の質が高かったようである。プログラム委員会は、非シリコン、ヘテロジニアス集積、集積フォトニクス、AIデバイスなどのテーマが顕著に増加したとしている。

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    2018年および2020年VLSI Technology Symposiumへの応募論文のテーマ別内訳

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    2020 symposia on Technology and Circuitsのライブセッション一覧

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    2020 symposia on Technology and Circuitsのオンデマンドセッション一覧

ライブとオンデマンドが併用されるバーチャル会議

バーチャルシンポジウムはオンデマンド・セッション(6月27日まで好きな時間に視聴可能)とライブセッション(米国時間基準で6月15日-18日、日本は翌日)で構成されている。世界中に時差があるため、ライブセッションはそれぞれのセッションごとにすべての地域向け時間帯(日本は午後10~11時)、欧米向け時間帯(日本は深夜)日本・アジア時間帯(日本は午前中)のいずれかで行われる。

基調講演やパネル討論やエグゼクティブセッション(一般講演の中から半導体メモリ、ヘテロジニアス集積などホットトッピクスを横断的に選んで10名ほどの講演者が2分間要旨を説明した後、プログラム委員と討論するイベント)はライブで行われ、一般講演やショートコース(講義)、デモセッション(デバイスやシステムの動作実演)などはオンデマンドで行われる。

一般講演は、53のセッションで構成され、Technology、Circuit別のセッションの他、TechnologyとCircuitのジョイントフォーカスセッションが設けられており、シリコンフォトニクス、5G/ミリ波、システム・テクノロジー同時最適化および設計・テクノロジー同時最適化、AI/機械学習向けのデバイスと回路、ヘテロ集積化技術などが議論される。

パネルディスカッションのテーマは、Technology分野では「メモリとロジックの技術分岐・発展:AI/機械学習はこの2つを歩み寄せられるか」、Circuits分野では「機械vs人間:回路設計におけるAI/機械学習の未来の役割」、Technology/Circuitsジョイント分野では「コンピューティングの未来を可能にするLSIの40年」と題し、過去と現在のVLSI業界のリーダー達が40周年を祝うとともに、40年先を大胆に予測するものとなっている。

ユビキタスインテリジェンスのさらなる発展を目指して

なお、VLSIシンポジウムのプログラムは、ホットなトピックスである機械学習、IoT、人工知能、ウェアラブル、ビッグデータ、クラウド/エッジコンピューティング、仮想現実(VR)/拡張現実(AR)、ロボット、自律走行車向けの半導体技術を「ユビキタスインテリジェンス」の将来を約束する高度なデバイス・回路設計とアプリケーションプラットフォームに統合することで、マイクロエレクトロニクス業界にユニークな展望を提供する場を提供するものとなっているといえるものである。