高価と言われるSSDだが、静音で低消費電力というメリットから、ノートPCにおける普及が顕著だ。一方で、SSDのメリットはサーバと組み合わせた場合にも極めて大きなものを期待できる。日本アイ・ビー・エムのシステムx事業部 事業開発 ACP・シニアITスペシャリストの亀本英幸氏に、SSDストレージとIAサーバを組み合わせるメリットについて聞いた。
HDDに対するSSDのアドバンテージ
現在のIAサーバに搭載されるプロセッサは、以前とは比較にならないほどの演算処理能力を誇る。このため、かつてのような「1台のサーバで1つのワークロード」という単純な割り当てではその処理能力を使い切れないため、仮想化技術を用いて1台のサーバに複数のワークロードを共存させる使い方が一般化してきている。
この場合、プロセッサの処理能力は十分でも、ストレージのI/O性能がボトルネックになる懸念が生じる。なぜなら、HDDのI/Oパフォーマンスは、プロセッサの処理性能の向上に比例するほどの伸びていないからだ。この点をカバーする意味で、サーバに複数のHDDを並列的に利用するRAID技術が採用されている。もちろん、RAIDは冗長性を確保することでサーバの信頼性を向上するが、ハイエンドサーバと組み合わされて利用されるストレージにおいては、並列アクセスによるI/Oパフォーマンスの向上も重要だ。
亀本氏は、「SSDは、HDDと比べるとのI/Oパフォーマンスがかなり高い」と、SSDのI/Oパフォーマンスの高さを訴える。HDDは、データを読み出す際にデータが記録されている場所に磁気ヘッドを移動させるシーク動作が必須であり、磁気ヘッドを精密に位置制御しつつ目的の場所まで移動させるため一定の時間を必要とする。これに対し、SSDはメモリと同様にアドレス指定だけでデータにアクセスできる。そのため、特にシーク動作が頻発するサイズが小さなデータへのランダムアクセスのスピードでは圧倒的な差がつくことになる。
つまり、SSDはHDDよりも少ないドライブ数で必要なI/Oパフォーマンスを実現できるということだ。「ドライブ単体での消費電力量は、HDDの開発メーカーの努力もあり、最新モデルはSSDとほぼ同等レベルまで下がっている例もあるが、ドライブ数で見ると、システム全体では電力消費量はSSDのほうが低くなる。さらに、システムを構成するモジュール数が減ることで運用管理の負担も軽減される」と、同氏は説明する。
また、耐障害性も現在のSSDはHDDより優れている。最大の要因は機械的な可動部品を持たないことだが、実は摩耗に対する監視が的確に行えることも大きい。SSDで利用されるフラッシュメモリにはデータの書き換えに回数制限があり、限界を超えると使用できなくなることはよく知られている。もちろん、一般的な運用期間内に問題が生じる可能性はきわめて低いと言えるレベルになってはいるが、本質は変わっていない。
しかし、実はこれはSSDの弱点ではなく、むしろHDDに対するアドバンテージとなっているとも考えられるのだ。「HDDも不意の故障によってデータにアクセスできなくなることがあるが、これは確率的な事象であり、事前に予測することは難しい。一方SSDはHDDのような"突然死"は滅多に起こらず、書き換え回数に応じて寿命が減っていく形になる」
すなわち、書き換え回数を把握していれば、寿命を迎える時期をかなり正確に予測できることになるのだ。これにより、不測の障害発生に常時備えておく負担が軽減され、計画的なメンテナンスが実現できるなど、運用管理面での効果も期待できる。
同氏は、「SSDのMTBF(平均故障間隔)はHDDの3倍程度に達しており、もともと故障しにくいうえに故障がいつ起こりそうかをかなり正確に把握できるという大きなアドバンテージを備える」と話しており、SSDは、高信頼性を求められるサーバシステムの運用管理担当者にとっては無視できない魅力を備えていると言えるだろう。
また、SSDはHDDのみでは難しいさまざまな新技術を実現する新しいプラットフォームとして機能している点も見逃せない。データのアクセス頻度に応じてデータの記憶先を自動的に切り替える「ティアリング」やI/Oパフォーマンスを向上させる「I/Oキャッシング」といった技術は、SSDの高パフォーマンスがあってこそ真価を発揮する。
さらに同氏は、IBMのサーバで使われるRAIDアダプタ「ServeRAID M5000」が「SSD RAID拡張キー」と呼ばれるオプションのアクセラレータを提供していると紹介する。これは、SSD向けに最適化されたデータアクセスを実現する「FastPathテクノロジー」を利用可能にするオプションだ。
「FastPathは、I/Oパターンに依存するが一般的に20~30%のパフォーマンスを向上できる。リード/ライト両方のアクセスに有効で、ベンチマークによっては50%ものアクセスパフォーマンスの向上も実測されている」と同氏。これも、SSDの特性を生かした最適化技術ということで、HDDでは実現し得ないSSDならではのメリットと言える。
高パフォーマンス・信頼性・可用性を両立するIBMのSSDストレージ
IBMは、サーバ用ストレージとして業界でいち早くSSDの採用に踏み切ったベンダーであり、対応製品も幅広く揃えている。特に、高I/Oパフォーマンスを実現するためにPCI-Expressバスに直接接続するタイプのSSD製品のラインナップが充実している点が特徴だ。しかも、SSDが急速な進化の最中であることが反映されており、「新しい世代の製品は容量やI/O性能がより高まっていながら価格は低下しており、なかには旧世代製品よりも高速/大容量で価格は安価という製品もある」と同氏。
製品の成熟とともに導入の障壁は下がり続けているわけで、SSDの豊富なメリットを考えれば、導入をためらう理由は既になくなりつつある状況だ。
さらに同社は、大規模な仮想化環境でもSSDストレージの利用を可能にする製品として、eX5アーキテクチャ搭載サーバ専用の内蔵SSDストレージ「eXFlash」を提供している。同製品は、バックプレーン(ホットスワップ対応の筐体)、アダプタ(RAIDアダプタまたはSAS HBAを選択可能)SSDドライブ(SATA 1.8" SSDを最大8基)から構成される製品だ。
200GBのドライブを使用した場合は最大容量1.6TBもの大容量をSSDのみで構成でき、さらにサーバのモデルによっては最大3台のeXFlashを内蔵可能なので、最大容量は4.8TBにも達する。
亀本氏は、「大規模な仮想化環境を想定し、高いI/Oパフォーマンス、信頼性、可用性を両立させるために、Smart Modular Technologiesとの共同開発によるeXFlash専用のSSDドライブを用意していることも特徴」と語る。
大容量のストレージを必要とする用途と言えば、仮想化による多数のワークロードの統合がまず思い浮かぶが、最近注目を集めるデスクトップ・クラウドもストレージに対する要件が厳しい用途の1つだ。
「多数のクライアントに対しレスポンスがよいサービスを提供するには高いI/Oパフォーマンスが必要であり、また、多数のクライアントを効率よく集約するにはストレージの容量も必要。eX5では大容量のメモリを利用できるため、多数のクライアントを集約するために最適なプラットフォーム」と同氏は話すが、ストレージに関しても、eXFlashを組み合わせることで優れた環境を提供できるだろう。
同時に、集約率を高めれば高めるほど、そのシステムがダウンした場合の影響が甚大になるため、システム単体での高信頼性/可用性が不可欠になるが、eX5アーキテクチャ搭載サーバとSSDストレージの組み合わせは、この点でも強みを発揮する。
かつての一般消費者向けのフラッシュメモリ製品には突然全データが喪失するようなトラブルもあったのは確かだ。しかし、現在のエンタープライズ向けSSDでは信頼性を確保するためのさまざまな工夫が盛り込まれており、まったくの別物と言ってもよいほどの進化を遂げている。高信頼性を要求される大規模なシステムでの採用例も増えてきており、安心してSSDを採用できる状況になりつつあることは間違いない。