前回は今後のデスクトップ仮想化やアプリケーション仮想化について、技術的な側面から展望したが、最終回となる今回は、使われ方の側面から展望してみたい。
仮想デスクトップ「でも」できることから、「だから」できることに
仮想デスクトップの導入時はどうしてもセキュリティが第一義の要件となり、それに対して、既存の業務が「仮想デスクトップ"でも"できる」という観点で検討を行うことが多い。
これまでの機能追加は、その「"でも"できる」という点に注力し、物理のFAT PCではできたが、仮想デスクトップではできなかったことに対して行われることが多かった。しかし、それがおおむね達せられた現在では、「仮想デスクトップ"だから"できる」といった機能追加と使われ方が多くなるだろう。
単純なPC置き換えの手段としてデスクトップ仮想化を実施した企業では、その次のフェーズの検討として、リモートアクセスや、BYOD、モバイル化などを追加の施策としてを行うことが多い。ここでは、既存の業務を仮想化して行うだけではなく、新しい価値を付けている。
モバイルでメールなどをセキュアに利用可能になることで、PCをわざわざ広げないとできなかったことがスマートフォンだけでできるようになる。また、移動時間などの隙間の時間も有効に活用できるようになる。こうしたことは個人利用では当たり前のことだが、企業でも利用できるようになり始めているのは最近のことだ。
また、Skype for BusinessなどのWeb会議のシステムを合わせて導入することで、企業利用のPCを自宅で使えるだけではなく、オフィスで行われている会議にも自宅から参加可能となる。これらによって、働く場所自体を仮想化し、ワークスタイル変革を行うというわけだ。
最近の研究では、「仕事」と「家庭」のロールが完全に分かれているよりも、融合しているほうがよりよい仕事のパフォーマンスが得られるという結果が出ている(参考:https://www.weforum.org/agenda/2016/08/keeping-work-and-home-life-separate-could-be-making-you-worse-at-your-job)。モバイル利用などの隙間時間を活用できるような施策を合わせて行うことで、「仕事」と「家庭」のロールの切り替えがスムーズとなり、よりよい成果が得られる可能性がある。
折しも、政府からも「働き方改革」の実現についての取り組みが発表されている(参考:http://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html)。これに対して冷ややかな見方をする向きもあるだろうが、「クールビズ」の例を思い出してみると、うまく利用して効率的な働き方を取り入れる良い機会と言える。
例えば、全員がPCを使う環境に対して、スマートフォンから送る簡潔なメールは「失礼」だと見なされることもあるが、「働き方改革」の名の下に多くの会社が導入することで、それが普通になる。ちょうど「クールビズ」によってノーネクタイが「失礼」ではなくなったのと同様である。
このように、これまで必要であると思われていたようなサービスレベルを見直すことで、より効率的な働き方ができるようになる。単にPCを持ち出し可能にし、在宅でも仕事をすることができるようにするだけでは、家でも長時間労働するだけになってしまう。小さな子供のいる人が保育園の送り迎えのために定時帰宅するが、深夜になり子供を寝かしつけた後で多くのメールが飛び交うようなことが多々ある。
「定時に会社を出られるだけマシになった」とも言えるが、それに加えて、本来は深夜に行う仕事自体を減らせるように業務の見直しを行うことが正しい方向性であろう。
そのためには、人事制度と合わせて検討が必要になる。仕事をしている時間ではなく、明確に定義された成果で評価を行うような制度である。そうでないと、「会社に来ている時間」による評価が「仮想デスクトップを開いている時間」に変わるだけだからだ。また、スマートフォンでメールを返しているような隙間時間はそもそも計測が難しいので、全体の施策の整合性という意味でも重要だ。
このように、連載で触れてきた「落とし穴」を避けながらデスクトップ仮想化を導入した後も、さまざまな部門と調整が必要になる。担当者はこうした調整が実現するまでは、働き方改革の恩恵は受けられず、ワークライフバランスが実現できない、という落とし穴が存在する。残念ながら、これに対する解はないのだが、本連載が一助となれば幸いである。
峰田 健一(みねた けんいち)
シトリックス・システムズ・ジャパン(株)
コンサルティングサービス部 プリンシパルコンサルタント
サーバ仮想化分野のエンジニアを経て、シトリックス・システムズ・ジャパンに入社。
主に大規模顧客のデスクトップ・アプリケーション仮想化のコンサルティングに従事している。