東日本大震災以降、さまざまな業界のあらゆる企業で災害などが発生した際の安全で迅速な業務復旧を目指すBCP(事業継続計画)への取り組みに力を入れるようになった。加えて平常時においても、業務の遂行に不可欠な存在となっているITシステムを"止めない"ことは、顧客やパートナーに対する信頼損失を防ぐための最重要要件となりつつある。

これらの理由から、ITインフラの冗長性の向上が大きな課題となっているわけだが、なかでも最近注目を集めているのがUPS(無停電電源装置)だ。UPSとはITインフラの安定稼働にとって必須条件である電源の安定供給を行うための装置である。サーバルームやデータセンターなどには必ず備え付けられているのはご存知の方も多いことだろう。

しかし、UPSを必要とするのはサーバルームやデータセンターに限ったことではない。SMBのオフィスでも、サーバはもちろんのこと、クライアントPCやNASなどのストレージ機器、その他さまざまなネットワーク機器にUPSを備えておくべきなのである。

国内でも意外と発生することが多い電源トラブル。これが原因でPCやサーバが故障するケースは多い

日本でも無縁ではない電源トラブル

どうしてSMBでもUPSが必要なのか? ──その理由を説く前に、まずはそもそもUPSとはどのようなものかについて説明するとしよう。

UPSを構成する要素の基本中の基本と言うべきなのが、バッテリーと電源管理ソフトだ。バッテリーについてはいまさら説明する必要もないだろうが、電源管理ソフトというのは、IT機器にインストールされたエージェントなどと連携して、電源障害時にIT機器をあらかじめ設定されたルールに基いて安全かつ自動的にシャットダウンする役目を担うものだ。電源管理ソフトの中には、電源やUPSに関するステータスを表示したり、設定されたスケジュールに従って電源をオンオフしたりできるものもある。

電源管理ソフトウェア上では、IT機器の電源状況モニタリングや、各種の設定を行える(画像提供:シュナイダーエレクトリック)

UPSと電源管理ソフトの2つを組み合わせることで、災害などによって停電が起きた時に、IT機器への電源供給元を商用電力からバッテリーへと切り替えて、サーバやPCなどを安全にシャットダウンすることができるわけである。もしもUPSを設置せず、停電した瞬間にサーバやPCがダウンしてしまったとしたら、データの損失や障害といった企業にとって極めて深刻なリスクを生じる可能性が非常に高まることだろう。

とはいえ、日本は世界的に見ても非常に安定した電力インフラが整備された国として知られている。例えば、IT最先進国であるアメリカでも年間数時間単位で停電が発生しているのに対して、日本では年間わずか数分からせいぜい十分程度の停電しか起きていないのである。「それならば日本の企業にはUPSなど必要ないではないか」と思われるかもしれないが、それがそうもいかないのだ。

その根拠を示すいくつかの例を挙げるとしよう。まずオフィスビルでは配電盤の検査などの理由から定期的な停電を実施するのが一般的だ。もちろん、停電する日時はあらかじめ知らされるのだが、社員の中にはうっかりクライアントPCをシャットダウンせずに退社してしまう者がいることも大いに考えられる。そうなると、いきなりPCの電源が断ち切られることになり、思わぬトラブルが発生しかねない。

もう1つ、停電といえば記憶に新しいのが震災後の計画停電である。幸い今年の夏も計画停電の実施は回避されたが、この先も計画停電が実施される場面はあり得る。そうした際にも電源の安定供給が可能な体制を整えておくことは、リスクマネジメント上当然の対策だと言えよう。

また、昨今発生頻度を増しているゲリラ豪雨やそれらに伴う雷、台風といった自然災害がさまざまなかたちで電力障害を引き起こすことも考えられる。特に雷は、短時間過剰な電圧が機器にかかるサージ/スパイクの主犯格である。台風や降雪では送電線のトラブルなどに起因する電圧低下も想定できるだろう。さらに、IT機器が密集した場所では、それぞれの装置が発するノイズが電源トラブルを引き起こすこともある。

表1 主な電源トラブル

現象 概要
サージ/スパイク 瞬間的に過電圧になる状態のこと。過電圧状態がミリ秒程度と長めのものは「サージ」、ナノ秒からマイクロナノ秒程度の短いものは「スパイク」と呼ばれる。送電網への落雷で発生する「雷サージ」は、パソコンをはじめとするさまざまな家電製品に故障をもたらす。
ノイズ 商用電源の正弦波を乱す現象。要因はさまざまで、例としては、落雷のほか、電子機器のスイッチのオン/オフ、発電機/無線送信機/産業用機器の使用などがある。ノイズもやはり、パソコンや家電類の故障の原因となる。
瞬停/電圧降下 サージやスパイクとは反対に、瞬間的に電圧が停止または降下する現象が「瞬停」「電圧降下」になる。瞬停は、送電網の切り替え時などに発生することがある。一方、電圧降下は、同じ配線につながれた機器が大きな電力を使用するときに生じる。家庭では、電子レンジや、エアコン、ヘアドライヤーなどの電源を入れたときに生じるケースが多い。
停電 ご存知のとおり、電力供給が停止すること。自然災害や事故による送電網の損傷のほか、屋内配線の断線、電力容量オーバーによるブレーカー落ちなど、実にさまざまな原因で生じる。近年ではゲリラ豪雨によって広域停電が生じるケースが急激に増加している。

UPSには、こうしたサージ/スパイクや電圧低下、ノイズの干渉などが発生した場合でも、一定の電圧と波形を保った安定した電力をIT機器に供給し続ける機能も備えているのである。

各種の電源トラブルが発生した際もUPSがあれば、安定した電源供給が可能

電力コスト削減にも貢献するUPS

このように電源トラブルのリスクが増大していることで、SMBにも適切なUPS導入が求められているのである。さすがにサーバについては既にUPSを設置している企業も多いと思われるが、利用形態によってはクライアントPCにもUPSは欠かせない存在となっている。

また、SMBで昨今増えているのがネットワーク機器にUPSを接続する例である。社員が増えてくるとネットワーク機器の配線も複雑になる。そうなると電源管理にも見落としがちな穴が生じやすいため、UPSを介することで一元的な電源の管理と安定供給を実現しようというわけである。

加えてIPフォンを導入する企業が増えていることもネットワーク機器へのUPS導入に拍車をかけている。IPフォンは停電すると使えなくなってしまうため、非常時には外部との連絡手段を失うことになりかねない。UPSがあればこうしたリスクを回避できるのである。

また、リスクマネジメントの観点から語られることの多いUPSだが、新たにコスト削減という面でも期待が集まっているのをご存知だろうか。世界を代表するUPSメーカーであるシュナイダーエレクトリックが提供している「Smart-UPS」シリーズでは、新機能としてエネルギー管理の機能を搭載したのである。エネルギー管理機能を備えたSmart-UPSを用いれば、UPSに接続されたすべてのIT機器の電気使用量や電気料金を把握したり、スケジュールに合わせて出力コンセントグループごとの電力供給をオンオフしたりといったことが可能になるのだ。

シュナイダーエレクトリックが提供している「Smart-UPS」シリーズ

フロント/リアイメージ(右写真はSMT750J)

ここまで簡単にUPSの役割についての説明を試みたが、おわかりいただけただろうか。次回は、UPSの種類や自社のニーズに合わせた賢いUPSの選択方法について解説することにしよう。