第1回では効率的な内部統制の運用を行う上の人材活用の全体像について述べたが、第2回では、内部統制を現場に浸透させ、その永続的な運用を行うために、人材活用の観点で経営者が行わなければならないことについて述べていきたい。

経営者の謝った認識により、プロジェクトに大きな影響

会社によって、経営者の内部統制への取組み姿勢や問題意識はさまざまであろう。だが、当初から懸念されていたように、以下のように考えている経営者も依然多いのではないだろうか。

  • 内部統制構築にカネや人をかけるメリットがわからない
  • 過剰投資ではないのか
  • 業務改革のきっかけとなるというのは、根拠が薄い
  • 業務プロセスの明確化はこれまでの取り組みの中である程度実施してきたので、内部統制上の問題は無いはずだ

実は、これらの考えを持つ経営者がいる会社は、大変な事になる。というのも、こういう経営者のいる会社では、内部統制に関する全社規模の号令も掛からず、その結果、プロジェクトメンバーは正式なプロジェクトとして内部統制活動が行えない。また、今後のビジョンもなかなか持てないまま、目の前に迫った内部統制構築の活動を行わなければならないので、つらい思いをする事になる。

このような状況では、本当の意味での内部統制を構築し実施することは不可能で、内部統制の整備によって意識を変えて新たに企業活動を変えるといったことも、とても期待できない。

内部統制の構築後、それを運用しなければならないという段階を迎えた今、どうやったら経営者が内部統制について正しい認識を持ち、社内へ推進力となる影響力を働かすことができるかどうかについて、以下で述べていきたい。

金融庁の実施基準でも経営者の責任を明示

まず、内部統制構築において、なぜ経営者と取締役会が自ら現場の意識改革を行わなければならないのかを確認しておきたい。

金融庁の内部統制実施基準においては、内部統制の整備に関する経営者の責任について、以下のように記載されており、内部統制を構築・整備、運用する責任が経営者にあることを明示している。

経営者は、組織のすべての活動について最終的な責任を有しており、その一環として、取締役会が決定した基本方針に基づき内部統制を整備及び運用する役割と責任がある。経営者は、その責任を果たすための手段として、社内組織を通じて内部統制の整備及び運用(モニタリングを含む)を行う。経営者は、組織内のいずれの者よりも、統制環境に係る諸要因及びその他の内部統制の基本的要素に影響を与える組織の気風の決定に大きな影響力を有している。

しかし、当たり前のことだが、内部統制は経営者だけで構築・整備、運用できるわけではない。従って、経営者には、推進役となっているプロジェクトメンバーや現場の責任者が内部統制の活動を推進しやすい環境を構築することが求められている。

経営者の役割としてはさらに、企業が事業において価値を創造し、競争優位を獲得し、社会的責任を果たすために、内部統制が構築された業務プロセスやシステムを会社の中心に位置づけて戦略を描くことが挙げられる。

富士通では、透明性及び健全性の高い効率的な経営を進めるため、コーポレート・ガバナンスを強化し、さらに発生リスクに対する危機管理体制の強化を図りながら、内部統制システムの整備を推進している

経営者は何を行わなければならないのか?

では、経営者は具体的に何を行わなければならないのか? まず、「経営者が意識を高く持って内部統制に取り組む姿勢を示すこと」が挙げられる。

また、内部統制の構築・整備計画が策定された後に、内部統制が確実に実施されているかモニタリングを行い、構築された内部統制機能が現場において確実に行われているかを確認することも求められる。

経営者がチェックを確実に行っていることを、社内が理解しているとしていないとでは、現場への内部統制の定着フェーズや日々の業務チェックの強化において、大きな差となって表れるからである。

内部統制において、経営者が何をすることが本来求められるのかを突き詰めて考えていくと、経営者をはじめとするマネジメント層がリーダーシップを発揮し、内部統制整備の先導役を努めなければならないということになる。

また、当たり前のことだが、構築された内部統制には経営者自身も従うことが重要である。

これまではどちらかと言うと、「経営者は内部統制のスキームに含まれず、企業利益を上げることを優先すべきであり、内部統制は社員をコントロールするための仕組みである」、といった認識が多数を占めていたように思われる。

それに対し、現在では、「どんなに良い仕組みを作っても、最高権限を持っている経営者が無視したり従わなかったりすれば、それは内部統制の限界を示すものであり、このような事態を避けるためには、必ず経営者も従うことが重要である」といった認識に変わりつつある。

経営者が行うべき意識改革とは?

以上で内部統制における経営者の役割が極めて重要であることがお分かりいただけたと思う。では、経営者が行うべき意識改革とはどのようなものなのか?

冒頭で経営者・取締役会に責任がある事を確認したが、これに従えば、経営者が意識すべきなのは、「自分は組織のすべての活動について最終的な責任を有しており、内部統制は全社挙げての取組みであり、財務に係る一部の部門だけの話ではない」ということである。

つまり、財務報告は会社のさまざまな業務の集大成として、必要な情報が各部門から集まって初めて作成することができるものであり、内部統制はその意味で、一人一人の社員の活動の集大成であり、社員全員が内部統制を構築しているということになるからである。

そうした意味では、ある現場において、自部門が運用評価の対象部門でないからといって内部統制を無視していいわけではない。内部統制とは本来元々内部になる統制を指すが、多くの部門では意外と非効率な運用がされ、職務分掌もなされていないため、多くの課題がある。

また、運用状況評価の対象部門でなくても無視できないのは、内部統制を補完するものとして重要な業務が行われていることも多い部署である。例えば、販売部門を管理している部署や、財務データの異常値がないかをチェックしている経理部門などがこれに該当する。

これらの事を考慮すれば、一度はきちんと業務の見える化を行った上で、経営者として、どの部署を内部統制の評価対象にするかを判断すべきであることが分かる。内部統制をすべき部署が評価対象から漏れてチェックが行われなかったため、パラメータが誤ったまま仕訳が行われるケースなどもあるからである。

経営者が何をやるのかを決定することが肝心

前回同様、以下ではこれまでの経験から分かったことを率直に述べる。

まず、内部統制の立ち上げ時に、経営者がプロジェクトの意義や目的を的確に発信してくれたおかげで、どれ程現場への浸透が楽になったかが思い出される。

一方、何をやらなければならないかが決定していない時期にプロジェクトを立ち上げたため、現場には不安や「なぜ今やるの?」といった疑問が広がっていたこともあった。このことからも、プロジェクトを進める上では何をやるのかをまず決定することが必要条件だと深く認識することとなった。

さらに、こうした活動を進める中、企業価値を高める経営者の行動とはどういうことなのか、思ったことを整理して述べたい。

まず言えるのは、経営者が社員にどのように見られているかによって、社員の対応が分かれることが挙げられる。

経営者が「放任型経営」を行っている場合、内部統制導入の意思決定はしたものの、以降の構築プロセスを事務局や部下にまかせっきりになっていることが多い。この場合の間違いは、全てを丸投げしていい訳ではないということである。経営者として実現したい重要なポイントや会社としての今後の展望については、事務局や部下と共有し、常に状況をモニタリングすべきであり、必要に応じて軌道修正も行うべきである。

意思決定者が不在の場合、全体として誰が責任を持って実施しているのかが不明となり、プロジェクトとしてはかなり危険なパターンである。内部統制は、基本的には法律対応なので義務であるが、意思決定者が不在の場合、いざ具体的に意思決定を行わなければならない時に先延ばしにしてしまい、いつまでも物事が決まらないこととなる。この場合、社員が疲労してしまい、プロジェクトも崩壊する危険がある。社内だけで決めることが難しい場合は、外部の力も取り入れて、多少なりでも前に前進させることも一つの手だ。

経営者の決断と勇気が内部統制活動を有意義に

特にオーナー経営者の場合、社員が経営者にあまり積極的に意見を言わないことが多く、事務局や部下が内部統制に関する懸案事項を挙げても、耳障りな内容については聞いてもらえなかったり、過去の経験から受け入れてもらえる事項だけしか挙げてもらえなかったりすることも起こりうる。

このような場合、経営者として自分はきちんと社員の言うことを聞いているが、たいした発言や提案もないので、結局全てを自分が決定しなければならないというような認識でいる場合が多い。だが実は、社員は怖くてなかなか発言できないでいるというのが本当である。

このような傾向がある場合は、業務改善やプロセスの標準化などの方針だけを与えて、内部統制を構築・強化させ、しばらくは口を挟まないで、自分がプロジェクトを任せた幹部に、一旦判断を委ねみるのも一案である。

本当の意味で、内部統制を社員の日常の活動に自然と溶け込ませ、現場が違和感なく実施できるかどうかは、経営者の決断と勇気による。こうした決断と勇気の有無により、状況が大きく変わり、活動が意味のあるものになるか時間とコストのムダになるかを左右するのである。

経営者には、内部統制活動を、会社をさらに大きく前進させるためのプロジェクトとするよう努力し、取り組まれることを強く望みたい。

次稿では、内部統制を社員に浸透させるための方法について述べていきたい。