一口にモデリングと言っても、システム開発の現場では、さまざまなモデリングが行われていますです。今回は、さまざまな視点からシステム開発におけるモデリングの対象要素について見ていき、UML 2.0のポイントについて整理しておきます。

様々な視点から見たシステム開発におけるモデリング

さて、本誌の読者の多くは、システム開発に関わるITエンジニアの方であると想定しています。ただ、ITエンジニアと一口に言っても、ユーザー企業の企画部門やIT部門、ITベンダーの上流SE、アーキテクト、プログラマーなど、役割は多岐に渡っています。すべての人にモデリングに関する共通イメージを持っていただくために、以下、複数の視点からシステム開発におけるモデリングの対象要素を見ていきます。

経営から見たモデリング

経営分野でモデリングという言葉を使うことに、違和感を持たれる方もいるでしょう。しかしながら、経営目標達成指標(KGI)・重要経営課題(CSF)・戦術・モニタリング指標(KPI)について、その関係も含めながら可視化していく「バランスト・スコア・カード(BSC)」(図1)は、正にモデルと言えます。

※2:企業や組織のビジョンと戦略を4つの視点から具体的なアクションへと変換して計画・管理し、戦略の立案と実行を支援するとともに戦略自体も市場や環境の変化に合わせて柔軟に適合させるための経営戦略フレームワーク。1992年に、ハーバードビジネススクールのロバート S.キャプラン教授とコンサルタント会社社長のデビット P.ノートン氏により発表された

図1 経営から見たモデルであるバランスト・スコア・カード

業務から見たモデリング

業務の視点から行うモデリングは、経営視点から行うモデリングも含め「ビジネスモデリング」と言われます。この視点では、システム開発のほか、業務の理解や改善、ビジネスリスクの洗い出しなどのためにモデリングが行われます。日本版SOX法への対応として、業務フローを作成することもビジネスモデリングの一例です。

この視点からモデリング要素となりえるのは、業務を構成する人(役割)、組織、取り扱う物や情報、ビジネスの流れ(プロセス)、そこで実施される個々の作業(アクティビティ)、ビジネスルールなどです。

システム利用者から見たモデリング

ビジネスを遂行するために情報システムが必要なことは言うまでもありません。さらに企業では、ビジネスの改善や効率化にも情報システムを用いた対応が求められます。システム利用者の視点からは、システムに求めるものをモデル化することが目的になります。主なモデリング要素は、機能やその機能で扱う情報・チェック内容などのルールです。

システムから見たモデリング

最後に、システムの視点からモデリングについて考えてみます。実のところ、筆者のこれまでの経験上、情報システムにおける「システム」の範囲のとらえ方は人によってバラバラです。本稿では、国際標準規格「ISO/IEC TR15271」に基づき、コンピュータによって処理される部分(コンピュータシステム)に加えて、それに関連する人間系の作業や設備を含んだものを「システム」と解釈します。

システムの視点から見たモデル化の手法はこれまでにもたくさんあったのですが、デファクトになるようなものはありませんでした。そうした中で、UMLはこの領域における国際標準として定着しつつあります。

依存関係を持つシステム開発におけるモデリングの対象要素

前節で解説したシステム開発におけるモデリングの対象要素には、次のような視点を越えた目的・手段の関係があります。

●経営目標を実現するためのビジネスプロセス ●ビジネスプロセスを支援するためのシステム要求 ●システム要求を実現するためのシステム(設計)

例えば、図2で示したように、ビジネスプロセスは複数のコンピュータシステムが提供する機能によって支えられており、また、コンピュータシステムの機能側から見ると、複数のビジネスプロセスを支援していることになります。

この考え方は決して新しいものではありません。ですが、このようなビジネスとシステムの関係があるべき姿だとするならば、最近すっかりメジャーになってきている(言葉先行ですが)、システムの機能をサービスとしてシェアしていくというSOAの考え方は全体最適に有効な手段と言えるでしょう。

図2 ビジネスプロセスとシステムの関係

『出典:システム開発ジャーナル Vol.1(2007年11月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。