「持続可能な開発目標」を指すSDGs。「宇宙基本計画」でも4項目においてSDGsへの言及がなされるなど、宇宙開発の中でも無視できない要素になってきている。第66回宇宙科学技術連合講演会(宇科連66)では、宇宙分野におけるSDGsの取り組みについてのセッションが前回に引き続き開催され、ニュースペースと呼ばれる宇宙分野のベンチャー・スタートアップ企業にとって「投資の入り口」としてのSDGsに関する発表が行われた。

  • 宇宙開発においても重要性が高まるSDGsは、投資家の選択にも影響を及ぼしている。資金調達が不可欠な宇宙ベンチャーやスタートアップ企業は、SDGsはどう取り組んでいくべきなのだろうか

    宇宙開発においても重要性が高まるSDGsは、投資家の選択にも影響を及ぼしている。資金調達が不可欠な宇宙ベンチャーやスタートアップ企業は、SDGsはどう取り組んでいくべきなのだろうか

宇宙ビジネスでも重要性が高まるESG・インパクト投資

セッションを主催した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岩渕泰晶氏によれば、2016年以降は経済活動の中で、SDGsに関する行動指針「SDG Compass」のかたちでの経営への統合が求められてきているという。投資や会計に関連するSDGs関連の投資のフレームワークには、まず「ESG投資」がある。EUにおいては「500人以上の企業、金融、保険、多国籍企業などは、こうした国際的な非財務情報の開示など、会計基準や投資環境がすでに義務化されている」といい、宇宙分野に限らずESG投資が企業に求められている。

ESG投資に続いて、宇宙分野、特に上場前のスタートアップ企業に関係する投資の枠組みが「インパクト投資」だ。インパクト投資は、1960年代の米国で人種や男女、経済格差解消を含む米国公民権運動に端を発するもので、「社会面・環境面での課題解決を図ると共に、財務的な利益の両立を目指す投資」と定義づけられている。インパクト投資は、ESG投資と同じように持続性や社会的価値を考慮するが、インパクト投資は寄付に近い性質を持ちながらもリターンの回収を目指すものだという。「ESG投資は先進国や上場企業向けのネガティブスクリーン(=責任性)、インパクト投資は発展途上国や非上場企業へのポジティブスクリーン(=課題解決性)を重視する」(岩渕氏)といい、スタートアップ企業にとっては、事業による課題解決を打ち出すことでインパクト投資が資金を獲得するひとつの手段になりうる。

「インパクト投資の世界市場規模は2019年で2兆3900億ドル、2020年で4兆400億ドル」の規模を持つものの、日本では「国内インパクト投資残高が2017年で718億円、2021年で1兆3204億円」(岩渕氏)ほどの規模となっている。地域別に見ても、現在はインパクト投資に取り組む組織の約6割が米国とカナダ、2割ほどが欧州ということで、日本ではまだ馴染みがない上に、社会の理解やプレイヤー、社会的基盤の不足があるとされる。とはいえ、いずれ日本でも投資判断のひとつとしてインパクト投資の拡大も見込まれる。そのとき、どのような取り組みであれば評価されて投資につながるのだろうか。

さまざまな角度からSDGsに取り組む人工衛星ビジネス企業

地球観測衛星を展開するPlanet Labs(プラネット)を対象に、米国の宇宙スタートアップの事業とインパクト投資面の評価を分析したのが、スパークス・イノベーション・フォー・フューチャーの長谷川翔紀氏だ。プラネットは、3Uキューブサット型の「DOVE」と100kg級の「SkySat」の2種類の衛星を数百機運用し、地球上の任意の地点を1日1回という高頻度で撮像できる仕組みを実現している。これは日本国内を含め、農業や経済分析などの分野で商用に広く利用されているだけでなく、北朝鮮の動向をモニタリングする米国の分析機関「38 North」に画像データを提供するなど、安全保障分野でも広く利用されている。

  • Planet Labsが2016年に観測したウクライナ、オデーサ州のティリフル河口の農業地帯。世界銀行は、ウクライナの農業の発展に灌漑設備の整備と灌漑農業の推進は必要としている

    Planet Labsが2016年に観測したウクライナ、オデーサ州のティリフル河口の農業地帯。世界銀行は、ウクライナの農業の発展に灌漑設備の整備と灌漑農業の推進は必要としている(出典:Planet Labs)

プラネットは自社サイトでSDGs目標への貢献を謳っており、2番の「飢餓をゼロに」、6番の「安全な水とトイレを世界中に」、13番の「気候変動に具体的な対策を」などにコミットしたソリューション・研究開発事例も公表している。そのひとつが、灌漑を通して持続可能な農業生産を支援するイスラエルのアグリテック企業による「Manna Irrigation」の事例だ。この事例では、地球観測データを利用して灌漑設備をモニタリングし、灌漑効率を向上させるという事業に取り組み、プラネットの200機以上の衛星が高頻度に地球を観測することでデータを低コストで取得できるだけでなく、灌漑設備の継続的なモニタリングも可能になる。灌漑を通して食料生産性の向上と水資源の節約につながり、「飢餓をゼロに」「安全な水とトイレを世界中に」といった目標にインパクトを与える、というのがそのストーリーだ。

2022年12月8日訂正:記事初出時、スパークス・イノベーション・フォー・フューチャーの発表者の方のお名前を大貫美鈴氏と記載しておりましたが、正しくは長谷川翔紀氏となりますので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。